[ニューヨーク 9日 ロイター] - 新型コロナウイルス感染症の医薬品開発競争では一部で有望なワクチンが浮上しているが、多くの科学者や研究者は、抗体医薬品を感染者の治療に用いることに大きな期待をかけている。
<抗体医薬品が効く仕組み>
この治療法では、感染した人間あるいは動物の体内で生成された抗体を使って疾病と闘うもの。起源は19世紀末にさかのぼり、当時の研究者は感染した動物の血液から採取した血清をジフテリアの治療に使った。
新型コロナウイルス感染症の治療を巡っては、回復したばかりの患者の血しょうを使う方法などが研究されている。
最近では、モノクロナール抗体と呼ばれる治療法も開発されている。この方法は他の細胞から分離させて大量に生産することが可能で、エボラ出血熱やがんなどの治療が目的だった。米国のイーライ・リリーLLY.Nやリジェネロン・ファーマーシューティカルズREGN.Oがこの方法を用いた新型コロナ治療薬の開発に取り組んでいる。
回復患者の血しょうと異なり、モノクロナール抗体の生産には抗体を豊富に含む血液の安定的な供給を必要としないため、規模的に拡大させやすい可能性がある。
<ワクチンとの違い>
一般的にワクチンは免疫反応を作って感染を防ぐことを目的とするが、抗体医薬品は治療を狙いとする。
一部の製薬会社は、抗体医薬品が予防にも使えることを示唆しているが、コストは高くなるかもしれない。
ファインスタイン医学研究所のベティー・ダイアモンド博士は「抗体の半減期はかなり長いので、介護施設や軍で使うことができるかもしれない。感染リスクが非常に高いとされる、これらのグループで予防薬として使う決断は可能かもしれないが、国全体で同じことはできないだろう」という。
上海君実生物医薬科技1877.HKのフェン・フイ最高執行責任者は、抗体医薬品はタンパク質を多く含むため、ワクチンに比べて一般的にコストが高いと述べた。上海君実によると、免疫が弱い人など、リスクの高い人々の治療や予防用に抗体医薬品を設計するとなると、ワクチンを1回接種するのに比べ数百倍、場合によっては数千倍のタンパク質が必要になる可能性がある。
<新型コロナ用を開発する企業>
イーライ・リリーは上海君実生物医薬科技およびカナダのバイオ技術企業アブセレラ・バイオロジクスと協力し、それぞれ別の抗体医薬品を開発している。いずれも人体で初期段階の臨床試験に着手した。
リジェネロンは6月中に「抗体カクテル」療法の臨床試験を開始する計画。これは遺伝子操作されたネズミの抗体に基づく療法。「夏の終わりか秋までに」予防薬を数十万回分、生産することを目指している。
武田薬品工業4502.TやCSLベーリングが参加するプロジェクト「CoVIg-19 プラズマ・アライアンス」は、回復患者の血しょうに由来する高度免疫グロブリン製剤の開発に取り組んでいる。この製剤は同じ血液型の患者に限らず使える可能性がある。
欧州連合(EU)が資金拠出し、スウェーデンのカロリンスカ研究所が率いる「コロナウイルス抗体治療(ATAC)」プロジェクトも同様のアプローチを研究している。モノクロナール抗体の開発にも取り組み、ドイツで人間、スイスで動物を対象にした試験が行われている。
英グラクソスミスクラインGSK.Lは米ビル・バイオテクノロジーVIR.Oと協力し、血しょうから最良の抗体を選ぶ抗体治療を開発している。
米アッヴィABBV.Nは抗体治療の協力開発計画を発表した。
アストラゼネカAZN.Lは9日に米政府との協力に署名し、2カ月中に2種類の抗体医薬品について臨床試験を開始する計画だ。
シンガポールの国営調査機関「A*Star」は中外製薬と組み、抗体医薬品の研究を進めている。
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