[ワシントン 23日 ロイター] - 米連邦政府の債務上限問題を巡る政治的対立で政府がデフォルト(債務不履行)に陥り、資金繰りに行き詰まれば、メディケア(高齢者向け医療保険制度)への支払いが止まったり株式市場が急落したりするなど、一般市民が即座に広い範囲で痛みを被る。
米政府がデフォルトになった場合の市民への影響をまとめた。
<最初に打撃を被る場所>
イエレン財務長官によると、議会と政府が連邦政府の債務上限引き上げで合意できなければ、財務省は6月1日にも支払いの不履行が発生し始める可能性がある。
そうなれば財務省は、世界の金融システムを支える米国債の支払いを続ける上で厳しい圧力にさらされる。支払いが滞れば、米金融業界は歴史的な大混乱に陥りかねない。ムーディーズ・アナリティックスのエコノミスト、マーク・ザンディ氏は「正に大惨事になるだろう」と話す。
財務省は米国債保有者に対して期限通りに支払いを行おうとするとの見方が一般的だが、たとえ支払いを実施したとしても、今回の危機を招いた政治の機能不全によって米経済の見通しに対する不信感が生まれ、住宅から老後資金の運用資産まで、市民が保有するあらゆるものの価値が下落するとザンディ氏はみている。
金利が上昇すれば、住宅や車を買ったり、事業立ち上げのために資金を借りたりするのが難しくなる。
ザンディ氏によると、数日以内には金融の大混乱が主な要因となって米経済はリセッション(景気後退)に向かうとみられる。
<一層の悪化も>
通常、景気後退に伴って発生する大規模なレイオフ(一時解雇)がデフォルトから数週間後に発生するだろう。それよりも早く、連邦政府の支出が停止する可能性がある。
最初に苦境に陥るのは病院や保険会社などだろう。シンクタンクのバイパルチザン・ポリシー・センターによると、6月1日にはメディケアを通じて約470億ドルの支払いが予定されている。
メディケアの資金は米国の医療費の5分の1を賄っているため、スタッフの給与や経費の支払いなどができなくなる医師が出てきそうだ。こうした支払いができなくなると、手術など治療のスケジュールで苦しい判断を迫られることもあり得る。調査グループ、KFFのトリシア・ニューマン氏は「こうした状況が長引けば長引くほど、混乱が大きくなるだろう」と述べた。
<社会保障給付に遅れも>
6月2日には全米の退職者の約4分の1が銀行口座を確認し、社会保障給付金が振り込まれていないことに気付くかもしれない。振り込まれない給付金の総額は250億ドルに達する恐れがある。
6月2日には国防関係の契約業者に支払われるはずだった10億ドルなど、政府と契約している業者への支払いも停止する可能性がある。6月9日には200万人余りの連邦政府機関職員の一部で40億ドルの給与未払いが発生し、連邦政府からの10億ドルの給付を予定していた学校が資金不足に陥る可能性もある。また支払いの大幅な遅延が起きるかもしれない。
人々は入金漏れがないか銀行口座を監視する一方で金融業界も動向を注視するだろう。米国の信用力を巡る懸念から、生活のための貯蓄資産は価値が大幅に下落するかもしれない。
バイパルチザン・ポリシー・センターの経済政策担当ディレクター、シャイ・アカバス氏は「社会保障給付の入金が遅れる日々があり、別の日には確定拠出年金(401k)の運用資産評価額が20%下落する」とデフォルト後の生活を描いて見せた。
*動画を付けて再送します。
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」