September 27, 2018 / 8:21 AM / 3 months ago

コラム:FRB「自動利上げ」終焉で問われる対話能力=井上哲也氏

[東京 27日] - 米国の中央銀行である連邦準備理事会(FRB)が26日まで開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で、声明文から「利上げ後も金融は緩和的である」との表現を削除したのは、パウエルFRB議長が声明発表後の記者会見で説明したように、それ自体が政策スタンスの変更を意味する訳ではない。

9月27日、米FRBが26日まで開いた連邦公開市場委員会で、声明文から「利上げ後も金融は緩和的である」との表現を削除したのは、それ自体が政策スタンスの変更を意味する訳ではないが、象徴的な出来事である。ワシントンのFRB本部で2018年7月撮影(2018年 ロイター/Leah Millis)

しかし、実体経済に対して刺激的でも抑制的でもない「中立的な政策金利」の水準とFOMCメンバーの大勢が考えている3%への到達が視野に入ったという点で、象徴的な出来事である。

<新局面で高まる対話の重要性>

中央銀行が金融政策を運営する上で幅広い経済主体と対話を行うことは、米国に限らず世界共通の課題であり、過去20年以上にわたって意識されてきたことである。その上で、これからのFRBは従来以上にその必要性に迫られるだろう。

その最大の理由は、利上げの影響が経済活動や金融市場に徐々に顕在化するからである。少なくともこれまでは、FOMCの議事要旨を見ても利上げの影響への言及を探すことは難しかった。しかし、政策金利の上昇に対する連動性が相対的に高い消費者ローン金利などは着実に上昇しており、今後、家計の支出を徐々に抑制することになろう。同時に、これまで抑制されてきた長期金利が多少でも上昇すれば、広い範囲の資産価格に影響が生じうる。そうなれば、利上げに対する反発も、トランプ米大統領に限らず徐々に広がりを見せることが考えられる。

国際環境も徐々に複雑化するとみられる。現在の米国にとっては、好調な国内経済だけでなく、海外経済が一部の新興国を除いて安定的に拡大していることも大きな支えになっている。しかし、通商摩擦の長期化や原油高による国際的な購買力の移転、さらに米国の金利が上昇することによる資本フローや為替レートの変動などを考えれば、国際金融市場のボラティリティーが上昇し、海外景気のばらつきが拡大することが考えられる。

米国内外の経済や金融で先行きの不透明性が高まれば、FOMCメンバーの間でも政策運営に関する意見の違いが次第に鮮明になる可能性もある。政策金利が中立水準に近づいていることとも相まって、FRBが従来のように四半期に1回の利上げを行う「自動操縦モード」を続けることは不適切となり、文字通り、虚心坦懐に経済金融情勢を評価したうえで利上げの適否を判断する局面に入ることになる。

こうした局面でこそ、FRBが家計や企業、金融市場と政策運営の考え方を共有することが、一段と重要になる。FRBは、利上げに伴う様々なマイナスの影響を評価した上で、経済や金融の過熱リスクを抑えることが相対的に重要と判断した場合に利上げに踏み切る。その際、幅広い経済主体と適切な理解を共有できなければ、利上げの影響が過大になったり過少になったりする結果、意図した政策効果が実現できなくなる恐れがある。同時に、金融市場が利上げの意図を適切に消化できなければ、政策の方向性を見誤り、資産価格を中心としてボラティリティーの不要な上昇が起きて金融システムへのストレスが生じる恐れもある。

<求められる各FOMCメンバーのリスク評価公表>

幸い、パウエル議長は対話の重要性を強く意識しているようだ。実際、6月に行われた就任後2回目の記者会見では、金融政策が幅広い経済主体に影響することを意識し、冒頭説明で「家計や企業にも分かりやすく話す」と宣言。今回の記者会見でもこうしたスタイルを維持した。また、経済学のアカデミックなキャリアを持たないパウエル議長が、8月のジャクソン・ホールでの講演で示唆したように、経済分析の枠組みや概念を尊重しつつ、その限界も明確に意識するスタンスにあることも、テクニカルタームの多用を避けつつ家計や企業にとって分かりやすい対話につながる面があろう。

それでも、今後の難しい局面を乗り切る上で、FRBにはいくつか具体的な課題も残るように見える。

例えば、FOMCは四半期に1回、メンバーによる経済見通しを集約して公表するほか、声明文などを通じてFOMC全体としての上向きか下向きかのリスク評価を説明している。しかし、FOMCの個々のメンバーがリスクをどう評価しているかは個別の講演を聞く程度しか手がかりがなく、メンバー間でのウエイトやその変化を知ることは実際に難しい。政策の方向性を理解する上で重要な情報であるだけに、何らかの形で公表することが望まれる。

この課題は政策金利の先行きに関する予想の公表方法にもあてはまる。つまり、FOMCの各メンバーによる政策金利の推移に関する予想はいわゆる「ドット・チャート」の形で公表されており、(特定はできないが)個々のメンバーの予想やその変化を外部からフォローすることができる。一方で、各メンバーがそれぞれの予想についてどちら向きのリスクを意識しているかは分からない。この点も、分かりやすい形で公表するには工夫が必要であろうが、政策の方向性を理解する上で有効な手助けとなりうる。

また、金融システムの状況をどう評価しているかについても、何らかの情報提供が望ましい。米国では、監督当局の合議体である金融安定監督評議会(FSOC)がマクロ的な金融システム安定の責務を一義的に負うだけに、FRBが金融システムの評価を発信することには制約が大きいことは否定できない。

しかし、パウエル議長が今回の記者会見でも確認したように、金融システムの状況は金融政策の運営にとって重要な与件である。また、金融政策の適切さは、実体経済と金融の双方の過熱いかんによって判断されるべきというのが世界金融危機の重要な教訓である。FOMCの議事要旨には、金融システムに関する執行部の分析とFOMCメンバーによる議論も掲載されているが、金融の専門家でない家計や企業にもそうした評価を簡潔に共有できる仕組みがあることが望ましい。

金融政策に関する対話の枠組みは、イエレン前議長の下で整備されたものが踏襲されている。既に決定している来年初からの記者会見頻度の増加と合わせて、パウエル議長のカラーがどのように実現されるのか注目したい。 

*井上哲也氏は、野村総合研究所の金融イノベーション研究部主席研究員。1985年東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。米イエール大学大学院留学(経済学修士)、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフなどを経て、2004年に金融市場局外国為替平衡操作担当総括、2006年に金融市場局参事役(国際金融為替市場)に就任。2008年に日銀を退職し、野村総合研究所に入社。主な著書に「異次元緩和―黒田日銀の戦略を読み解く」(日本経済新聞出版社、2013年)など。  

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

(編集:山口香子)

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