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コラム:トランプ勝利が招く「プーチン独裁」強化
2016年11月18日 / 22:21 / 1年後

コラム:トランプ勝利が招く「プーチン独裁」強化

[15日 ロイター] - ロシアが米大統領選挙に干渉してきたのは、米国史上でも例を見ないことだった。ロシア政府による介入が共和党ドナルド・トランプ候補の勝利に貢献したかどうかは依然として不明だ。

 11月15日、ドナルド・トランプ氏が米大統領選に勝利した今、ロシア政府はいっそう大胆に国際問題への介入を強めていくだろう。ロシアの偉大さを取り戻す人物を装うことで、プーチン大統領の独裁支配を後押しすることになる。写真は16日、モンテネグロに設置されたトランプ氏とプーチン大統領の看板には「一緒に世界を再び偉大にしよう」と書かれている(2016年 ロイター/Stevo Vasiljevic)

とはいえ、トランプ氏の勝利、そしてそれに対するロシア政府の歓迎ぶりは、「第2次世界大戦後」と呼べる時代が終焉を告げたこと、そして何百万人もの米国の有権者が、「世界的な統合」からの広範かつ国際的な撤退を支持したことの証左となっている。

トランプ氏とロシアのプーチン大統領は、14日の電話会談で、「建設的な協力」に取り組むことで一致。トランプ次期大統領が1月に正式就任する前に、2人の指導者が顔を合わせる予定はないが、そのことはロシア政府がそれまで政治的策略を控えるという意味ではない。

トランプ氏の勝利は、ロシアがほぼ確実に民主党指導部の電子メールアカウントをハッキングしていたことを確認するという直接的な効果をもたらした。またプーチン政権によるシリアでの虐殺についても、アサド大統領政権に抵抗する反体制派への爆撃作戦の全般的な目標が、西側諸国が直面している最も差し迫った危機の1つに対する解決策を阻止することであることが分かった。

またロシア政府は、ウクライナ東部で続いている殺りくを支援しており、欧州の極右団体にも資金支援をしている。目的はどちらも、西側の団結と決意を損なうことだ。トランプ氏が当選した今、ロシア政府はいっそう大胆に国際問題への介入を強めていくだろう。それは、ロシアの偉大さを取り戻す人物を装うことにより、プーチン氏のロシア国内での独裁支配を後押しすることになる。

こうしたメッセージをロシア国内に送ることで、ロシア政府の巨大なプロパガンダ機構はプーチン大統領の人気を高めている。実際にはロシアを孤立させ長期的な発展を損なう行動を、「英雄的」なものとして描き、あらゆる悪影響は西側の敵のせいであるという仮想現実を生み出す手法である。

プーチン氏の弱者迫害に抵抗し、ひいては彼の行動がロシア国民にとって災厄であると暴露してプーチン氏の話術を崩していくことこそ、彼に対抗する最も確実な方法である。オバマ大統領による「米ロ関係の再起動」政策が破綻した後、国務長官としてプーチン氏との対決に怯まなかったヒラリー・クリントン氏であれば、米国のどの政治家にもまして、こうした課題に対処するのに適した人物だっただろう。

トランプ氏がやっていることは、もちろん正反対だ。元KGB幹部のプーチン氏を「力強い指導者」と称賛することによって、プーチン氏の神話化を補強してしまっている。

米国の次期大統領は、自身を「普通の人々」の擁護者として描き出すことで、プーチン大統領同様の成功を収めている。女性へのわいせつ行為を告発されている憎悪煽動者としては、なかなかの成果だ。

一般の人々を犠牲にして個人的な権力獲得と蓄財を最終目標とするという共通項を持つトランプ、プーチン両氏は、生まれながらの同類である。

トランプ氏当選の後、プーチン氏の広報担当者は、外交政策に関して「概念的なアプローチという点でこれほど歩み寄っているというのは画期的なことだ」と誇らしげに語った。

プーチン氏の考え方を連想させることで悪名高かったジョージ・W・ブッシュ元大統領の場合と同じく、トランプ氏がロシアにとって主要仮想敵国である米国大統領の座に就けば、両氏の見解は確実に分かれていき、友好関係も消散するだろう。とはいえ、今のところトランプ、プーチン両氏は、統合と民主化に背を向けてナショナリズムと独裁主義をめざす世界的な志向という点で、共通の利害を持っている。

環大西洋両岸の世界秩序という点では、ロシア政府は脅威の1つにすぎない。

自らの弱さゆえ攻撃するロシアとは異なり、中国は米国経済に巨額投資を行っている。とはいえ、中国の反米的論調と南シナ海における行動は、米国の安全保障の防壁を少しずつ損なうことを目的としている。

11月15日、ドナルド・トランプ氏が米大統領選に勝利した今、ロシア政府はいっそう大胆に国際問題への介入を強めていくだろう。ロシアの偉大さを取り戻す人物を装うことで、プーチン大統領の独裁支配を後押しすることになる。写真は8日、モスクワで中国の李克強首相と会談するプーチン大統領(2016年 ロイター/Sergei Karpukhin)

英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)は、米国政府にとって最も重要な戦略的同盟パートナーであるEUにとっての痛撃という点で、さらに大きな危険だ。ハンガリーとポーランドでの独裁主義の台頭は、米国にとってますます利益・価値観の拠り所となっている欧州大陸の統合を弱めている。

こうして、米国それ自体だけでなく、「パックス・アメリカーナ(米国主導の世界平和)」の衰退が、突然ひどく現実的な可能性として浮上してきた。

トランプ氏の外交政策がどのようなものになるのか、まだ明らかではない。リアリティー番組のスターだったトランプ氏には確固たるイデオロギーも政治経験もなく、もっぱら彼の支持基盤に受けるかどうかという基準に基づいた公約を打ち出してきた。とはいえ、大言壮語で知られる強硬派のジョン・ボルトン氏(ジョージ・W・ブッシュ政権の国連大使)の名が国務長官の有力候補にあがるようでは、米国政府は再び、欧州諸国の機嫌を損ねることになりそうだ。

トランプ氏はすでに、第2次世界大戦後の国際安全保障の要だったNATOに対する米国の軍事的貢献は、加盟国がNATOへの資金拠出を行うことが条件だと示唆して、西側の安全保障当局を動揺させている。太平洋地域でも、韓国と日本について同様の発言があった。

トランプ批判派のなかには、米国の市民社会は強力であり、共和党優位の米国議会や政府に対しても多数派による専制防止を意図した憲法上の制約が働くおかげで、トランプ氏が大統領になっても米国はほぼ無傷で存続するだろうと考える人がいる。

確かに、米国の良心的姿勢は、マッカーシズム(反共産主義運動)やベトナム戦争をはじめとする冷戦期の惨事にも耐えてきた。だが、トランプ氏ほど、米国の最も基本的な民主制度や理念に対する侮蔑を示してきた大統領は他にいない。

プーチン氏は19世紀的な勢力圏に基づく国際秩序に回帰することを主張しているが、トランプ氏が最終的にこれに同調するかどうかはまだ分からない。しかしプーチン氏の主張が通れば、ロシア及びその近隣諸国における民主的改革の可能性は薄れ、ウクライナや東欧諸国の国民を再びロシア政府の支配下に放置することになるだろう。

こうして米国政府が、世界的問題における比類のない大国としての役割を放棄するならば、プーチン氏としてもトランプ氏との男同士の友情を保った甲斐があったというものである。

ローマ帝国の没落からオスマントルコ帝国の時代に至るまで、歴史には、実際に起きるまではとうてい考えられなかった出来事の例であふれている。米国の没落が不可避というわけではないが、後世の歴史家はこんなふうに振り返るのかもしれない。

ナショナリズムと排外主義、そして経済の大変革で揺らぐ社会に対する見境のない約束によって煽られた2度の大戦によって欧州の諸帝国が弱体化した後、米国は20世紀の世界において稀代のリーダーシップを確立したが、「米国を再び偉大にする」と公約した億万長者の当選によって、それが終止符を打たれたのだ、と。

今後4年間に何が起きようと、トランプ氏の当選は、すでに地政学的な状況を根本的に変えてしまったのである。

*筆者は米公共ラジオ局NPRの元モスクワ特派員。著書に「Russians: The People Behind the Power(原題)」がある。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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