[3日 ロイター] - ニック・ザーマンさん(24)は昨年11月、メタ・プラットフォームズを解雇された。フルタイム勤務になってわずか2カ月で、従業員13%削減の犠牲になったのだ。
数日後、ザーマンさんは再び働き始めていた。自身が立ち上げたブロックチェーン技術に基づく決済企業、ニューリンクへの投資を募るためで、スタートアップ企業を支援する「スタートアップアクセラレーター」のYコンビネーターと、ベンチャキャピタル(VC)大手、アンドリーセン・ホロウィッツの暗号資産(仮想通貨)ファンドには、会社説明資料を送った。
「矛盾して聞こえるかもしれないけれど、人員削減によって私は絶好のポジションを得た」と語るザーマンさん。「採用時に支払われた一時金を返す必要は無く、4カ月分の給料がもらえ、こうやって自分のプロジェクトに集中する時間ができたからだ」という。
2022年後半にシリコンバレーで起こった大量解雇の焼け跡から今、ザーマンさんのような起業家候補が続々と生まれている。
IT業界の失業を調査しているレイオフ・ドット・ファイによると、メタ、マイクロソフト、ツイッター、スナップなど、米巨大IT企業による人員削減は合計15万人を超えた。
VCによる出資全般は昨年、世界全体で33%減少して約4830億ドルとなったが、アーリーステージ(起業直後の段階)の資金調達は堅調だった。この段階の資金調達である「エンジェルラウンド」や「シードラウンド」は総額374億ドルと、21年に記録した過去最高額に並んだことが、調査会社・ピッチブックのデータで分かる。
サンフランシスコのアーリーステージVCファンド、デイ・ワン・ベンチャーズは昨年11月、IT企業から解雇された人々が創業したスタートアップに出資する計画を始動した。合言葉は「Funded, not Fired(首切りどころか資金確保)」だ。
同社は22年末までに20社に各10万ドルを出資する目標を掲げ、1000件以上の申し込みが寄せられた。大半がメタ、オンライン決済のストライプ、ツイッターのいずれかを解雇された人々だった。
デイ・ワン・ベンチャーズの共同創業者、マーシャー・ブッチャー氏は「20社に計200万ドルを投資する。1社でもユニコーン(企業価値が10億ドル以上の未公開企業)が出れば、元は取れたも同然だ。ファンドマネジャーとして得難いチャンスだと思う」と話す。
「前回の景気サイクルを振り返ってみても、ストライプ、エアビーアンドビー、ドロップボックスなどの企業は、危機から生まれている」というのがブッチャー氏の見方だ。
<ゲームとAI>
昨年11月には、さまざまな起業段階に出資するファンド、インデックス・ベンチャーズが、アーリーステージのスタートアップに3億ドルを投資するため「オリジンズ・ファンド」第2弾を立ち上げた。
シリコンバレーの投資会社、USベンチャー・パートナーズとオーストリアのVC企業スピードインベストも、起業直後のスタートアップ向けに同様の額を準備している。
投資家によると、今最も関心が高いのはゲームと人工知能(AI)の分野だ。
インデックス・ベンチャーズのパートナー、ソフィア・ドルフェ氏は「ゲームデザインの進歩、クラウドゲーミングなどの新たな技術革新、この分野におけるソーシャルネットワークの台頭などにより、ゲームは文化の主流として定着した」と言う。
<ドットコム・バブル崩壊に類似>
ザーマンさんのプロジェクトは、Yコンビネーターから支援を断られ、アンドリーセン・ホロウィッツからもまだ返信が無い。だが、他のアーリーステージVCから関心を寄せられているという。
一部の投資家は2022年のIT不況を2000年代初頭のドットコム・バブル崩壊になぞらえている。当時も市場には有能な人材があふれ、旧フェイスブックやユーチューブなどの新たな企業群誕生へとつながった。
「偉大な企業の多くは、比較的暗い時期に生まれている」と、投資会社・アクセルのパートナー、ハリー・ネリス氏は語る。
巨大IT企業の元社員は起業する上で絶好の立ち位置にいる、という見方もある。世界有数の企業の仕組みを経験しており、有能な同僚らとのネットワークを今も享受しているからだ。
2015年、グーグルで約10年勤務した経験を持つクリストファー・フォング氏は、起業を目指す元グーグル社員を支援するプロジェクト、「Xoogler(エクスーグラー)」を開始した。以来、会員数は1万1000人余りに膨れ上がった。
フォング氏は、巨大IT企業での経験を持つ創業者は「投資家や潜在顧客に会ったり、チームメンバーを募ったりする際に強力なブランド力を駆使できる」と説明した。
(Supantha Mukherjee記者、 Martin Coulter記者、 Krystal Hu記者)
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