[東京 6日 ロイター] - 自民党と希望の党の公約を見比べると、マクロ政策で最も際立つ違いは、金融政策の方向性だ。自民はデフレ脱却まで現在の超緩和策を継続するとしているのに対し、希望は当面は維持しつつ出口を模索すると掲げた。
政府関係者の一部は尚早な出口模索は円高を招き、アベノミクス効果が失われると危機感を持つ。ただ、一部の識者は、マクロ政策の方向転換の議論のきっかけになるのではないかと見ている。
希望の党が6日に公表した公約には「日銀の大規模緩和は当面維持したうえ、円滑な出口戦略を政府・日銀一体となって模索する」との一文が盛り込まれた。
政府高官の一人は「デフレ脱却と経済再生が、まだ実現していない段階で、金融緩和の出口に向かうというのは、アベノミクスを取り下げることに等しい」と指摘する。
特に「円高が起こる恐れがある」として、企業部門への打撃を懸念している。
複数の政府・与党関係者によると、足掛け5年に及ぶ超金融緩和の継続でも、デフレ脱却に至らず、その効果について政府・与党内でも疑問を指摘する声があったという。
中でも野田聖子総務相らは、中長期的な視点で金融政策を考えるべきと主張。先々の軌道修正を意識すべきと述べていた。
ただ、出口政策を自民党の公約に乗せるような党内議論はなかったと話す。
あるエコノミストは「期限のない金融緩和の継続は、政府の財政規律へのスタンスを甘くすることになる。その意味で、希望の主張によって、ようやく出口論の争点化が可能になってきた」とみている。
一方、消費増税をめぐっても、自民・希望の対立は先鋭化している。希望は増税凍結と代替財源に企業の内部留保への課税を提案。小池百合子代表(東京都知事)は6日の会見で、安倍晋三首相が使途変更を衆院解散の理由の1つにしていることに対し「政府が説明し、国会で議論すればよいこと」と述べ、安倍首相の主張に反論した。
この希望のスタンスについて、ある政府関係者は「内部留保課税をしたからといって、企業が投資や賃上げをするとは限らない。むしろ自社ビルを建てたり接待に使ったり、生産性向上にはつながらない使い道に逃げることもあるだろう」として、効果に疑問を投げかけた。
社会保障政策では、さらに大きな違いが出た。自民は「全世代型社会保障」として教育無償化や子育てへの支援策を厚くすると主張。
これに対し、希望はベーシックインカムとして国民にあまねく最低限の生活保証金を手当てする政策を掲げた。
政府関係者の1人は「安倍政権が進める保育所整備や医療介護費用削減が簡単に進まないなら、いっそお金を配る方が手間もかからず、貧困層にはメリットも大きいのではないか」と、ベーシックインカムの導入を否定しえないと話す。
だが、野村総合研究所・金融ITイノベーション研究部長の井上哲也氏は、希望の公約に対し「全体として、マクロ政策が一貫していないようにみえ、その方向性は不明。何のために消費増税を凍結するのか、金融緩和の出口を模索する理由は何か、わかりにくい」と述べる。
ベーシックインカムの導入については、社会保障給付にほかならず、同制度全体の議論から始める必要があるとの声も、政府関係者の中から出ている。
さらにエネルギー政策では、希望が30年までに原発ゼロを目指すとし、自民党との違いが際立った。
また、特区の事業者選定過程の全てを公開することや、企業団体献金の全面的な禁止など希望が自民党を意識して、正反対の政策を打ち出している項目が少なくない。
だが、ある金融関係者は、希望の公約全般について「既得権を持っている人の反発は強いだろう。実現可能性を考えると、ポピュリスト的な政策ともみえる」と述べている。
<自民党と希望の党の公約の比較>
自民党 希望の党
金融緩和 デフレ脱却まで継続 当面維持、円滑な出口戦略を模索
消費税10%へ増税 予定通り実施 凍結、代替財源は企業内部留保課税
社会保障 全世代型社会保障 ベーシックインカム導入
財政再建 2020年(訂正)PB黒字化は延期 2020年(訂正)PB黒字化は延期
黒字化目標は堅持、債務残高GDP比引き下げも目指す 達成可能な現実的目標に訂正
民間活力 人づくり革命、賃上げ、岩盤規制改革など 成長分野への人材移動、時差Biz 満員電車ゼロなど
規制緩和 規制のサンドボックス制度を創設し、事前の規制を最小限に 特区におけるサンドボックス制度
原発 重要なベースロード電源と位置付けのもと活用 2030年までにゼロ目指す
憲法改正 自衛隊明記、教育無償化・充実強化、緊急事態対応、参議院合 地方分権、教育無償化、緊急事態対応、原発ゼロ、自衛隊明記
区解消 は国民理解を見極め
*表中の「2010年」を「2020年」に訂正します。
中川泉 編集:田巻一彦
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