[東京 10日 ロイター] - 世界各国の外貨準備に占めるドルの比率が、下がり続けている。依然62%と圧倒的な割合だが、米経済が「一人勝ち」とも呼べる好景気と高金利を示す中での低下には、各国が人民元などに通貨分散を進めていることに加え、トランプ政権に対する不信感があるとの見方も出ている。次の経済危機の際にも、マネーがドルに逃避するとは言い切れないかもしれない。
<初の6四半期連続低下>
国際通貨基金(IMF)によると、世界の外貨準備に占めるドルの比率は6四半期連続で低下し、今年6月末時点で62.25%と2013年末以来の低水準となった。6期連続の低下は四半期毎の統計が始まった1999年以来初めて。
理由の1つは、各国が進める通貨分散にある。ユーロの比率は20%付近でほぼ変わらないが、人民元は1.84%と2016年の計測開始以来の最高水準、円の比率も4.97%と16年ぶりの高水準となった。
「中国経済のプレゼンス拡大や一帯一路構想などを受けて、人民元の外貨準備組み入れが加速した可能性がある」とSMBC日興証券・チーフマーケットエコノミストの丸山義正氏は話す。
実際、欧州中央銀行(ECB)が昨年、米ドルの外貨準備の一部を人民元にシフトし、英中銀とスイス国立銀行は既に人民元建て資産を運用している。
<トランプ政権下で進むドル離れ>
トランプ政権に対する不信や不満が、ドル離れの大きな背景との指摘もある。
米カリフォルニア大のベンジャミン・コーエン教授(国際政治経済学)は、プロジェクト・シンジケート(国際NPO団体)への8月の投稿で「第2次世界大戦以来、今ほどドルの信認が揺らいだことはない」と指摘。
「同盟国を含むあらゆる国に次々とけんかを吹っかけ、従わなければ『炎と怒り』で報復すると脅しをかけるような国に、誰が好んでマネーを預けるのか。他により安全な投資先を探そうとするのではないか」──と同教授は言う。
ロシアはウクライナ危機を受けて制裁が始まった2014年から、米国債の保有を徐々に減らしてきたが、米大統領選への介入を理由に米財務省が4月に新たな経済制裁を決めてから大幅売却に踏み切った。外準で保有する米国債は、昨年末の1022億ドルから7月末には149億ドルと85%減少した。
欧州連合(EU)のユンケル委員長は9月12日、EUが輸入するエネルギーの大半がドル建てとなっているとし、「政治的意思」により、ユーロ建てを増やすことが可能だと考えていると述べた。また、米国がトランプ大統領の下で内向きに傾く中、EUはユーロの役割拡大に好機を見つけられるとも語った。
市場では「ユンケル氏の発言は、ユーロがすぐにも基軸通貨になるということでなく、ドルを持つ事のリスクやデメリットを真剣に考えようという呼びかけだとみている」(資産運用会社)との指摘が出ている。
<次の金融危機に問われるドルの地位>
今後のドルの地位に関わるポイントの1つは、再び世界規模の危機が起きた際、ドルが「逃避先通貨」としての信頼を維持できるかどうかだ。
リーマンショックで世界経済が混乱した際には、米国が危機の震源地であるにもかかわらず、安全を求めたマネーが5000億ドル以上(2008年第4四半期)の規模で米国に還流した。
しかし、次回の危機で、同じ流れになるとは限らない。三井住友銀行・チーフストラテジストの宇野大介氏は、基軸通貨としての揺らぎが生じ始めたドルには「質への逃避」マネーが向かわず、ドルや米国資産がより長期的なダメージを受ける可能性があるとみる。
ドルの信認が揺らぎ続ければ、外国人投資家は基軸通貨だからといってドルに資金を投じるのではなく、米国の政策の節度について、より厳しくチェックするようになる。このため、政策の自由度は低下する。
「トランプ氏は、中国のように資本流出を心配しながら『米国を再び偉大な国にする』ことはできない」と、宇野氏は先行きを展望する。
戦前、基軸通貨だった英ポンドは、英国の経済基盤の弱体化とともに地位が低下した。1950年代に入ると1年ごとに通貨危機を繰り返したが、英ポンドを大量に保有していた投資家や国は、容易にドルに乗り換えができず、ドルの基軸通貨としての地位が安定したのは1960年代を待つことになる。
現時点では、外貨準備のドル比率低下は小さなものに過ぎないものの、通貨史を振り返れば、大きな変化は小さな変化の積み上げによって起きている。今は経済力、軍事力で圧倒的な力を持つ米国だが、ドルに対する各国の距離感の変化は、わずかであっても見逃すことはできない。
森佳子 編集:伊賀大記
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