October 30, 2018 / 12:36 AM / 18 days ago

コラム:2019年はドル安円高へ、「年末円安」は不発=内田稔氏

[東京 30日] - 年初からこれまでの為替市場を振り返ったときに特筆すべきは、ドル高よりもむしろ円高だろう。ドル円の値動きが緩慢なことと、ドルの強さに隠れて目立っていないが、円の名目実効相場(国際決済銀行調べ)は、年初から約6%上昇している。

10月30日、三菱UFJ銀行のチーフアナリスト内田稔氏は、2019年にはドル安円高傾向が強まると予想。年末に向けてドル高円安が進む場合でも、その程度は限定的と指摘する。写真は東京で2017年1月撮影(2018年 ロイター/Toru Hanai)

昨年末の水準(1ドル=112.65円)よりも対ドルで上昇している通貨は、10月26日時点でメキシコペソと日本円程度だ。しかも、米ドル上昇の要因は好景気や9月までの株高基調、金融政策の正常化、長期金利上昇、米国への資金還流などと明快なのに比べ、日本円の上昇要因として挙がるのは、せいぜい「リスク回避の円買い」だ。しかし、投資家の不安心理の度合いを示すボラティリティー・インデックス(恐怖指数、VIX)をみれば、2月をピークに少なくとも9月までは低下傾向を辿っていた。したがって、円高の理由を「リスク回避」だけに求めるのは難しい。

その点、従来から筆者は、円相場は名目金利より、実質金利の影響を受けるとの立場だ。

実際、日銀が7月末の金融政策決定会合で打ち出した「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」による長期金利目標の許容上限の引き上げを受け、日本の名目金利(10年国債の利回り)は、年初よりも約6ベーシスポイント(bp)上昇。期待インフレ率を示す10年物ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)が約20bp低下したため、円の予想実質金利は約26bp上昇した。

この間、米国の実質金利が約58bpと、円よりも上昇しているが、円相場は対外的な金利差より、円の実質金利そのものの動きに影響されやすいと考えられる。日本では好調な企業業績のもとでも結局、賃金や物価の伸びが鈍いことが確認されつつある。物価の伸びが低いままである限り、根強い円高圧力から逃れることは容易ではなさそうだ。

<2019年の相場はドル安円高傾向>

2019年を展望すると、米国経済に関しては、財政出動と金融緩和による景気刺激効果が薄らぐため、成長ペースは鈍化しそうだ。こうした中で、来年の米国の利上げ回数は、市場予想でも2回―3回と定まっていない。しかし、2回の場合でも米連邦公開市場委員会(FOMC)が9月に示した均衡金利に相当する政策金利の長期見通し(Longer-run)である3%に接近する。つまり、来年は、米国の金融政策の正常化が終盤に差し掛かったとの見方から、次第に利上げ打ち止め感が台頭しそうだ。一方日銀では、金融緩和の副作用に対する警戒から、長期金利に一段と弾力性を持たせる可能性が低くない。金融緩和姿勢を維持しつつ、現実的な政策運営路線へ舵を切りつつあるようだ。

従って、日米間の金融政策の方向性の格差は、2018年をピークに来年は緩やかながらも縮小する可能性が高い。これだけの格差がありながら、年初よりドル安円高になったことを踏まえると、2019年のドル円相場は、ダウンサイド(ドル安円高)リスクの方が高いだろう。無論、本邦からの対外直接投資や証券投資が円高への歯止めとはなろうが、今年3月の安値である104円台半ばがそれ程、遠いわけではないだろう。

<「年末円安」のアノマリーを阻む2つの要因>

一方、年内に関しては、まだ波乱があるかもしれない。

特に考えられるのは、11月6日に行われる米国の中間選挙で、共和党が上院の過半数を維持し、下院では民主党が過半数を奪回するという市場のコンセンサスに反して、上下両院で共和党が過半数議席を維持する結果となった場合だ。そうなれば、市場はその実現性は別にしても、トランプ政権が再び追加減税といった財政拡張路線を取る展開を意識せざるを得ない。おのずと、長期金利にはやや強めの上昇圧力が加わる可能性がある。

これに「過去6年続けて第4四半期はドル高円安が進む」という季節性も相まって、ドル円が一旦は上値を試す可能性に留意が必要だ。実際のところ、市場コンセンサスに反する結果となった2016年の米大統領選後にこうした値動きが起きている。

もっとも、ドル高円安が進む場合も、次の2つの理由から、その程度は当時と比べ限定的ではないだろうか。

まず、この第4・四半期にドル円が上昇しやすい季節性の一因として、年末越えのドル資金の需給逼迫(ひっぱく)が挙げられよう。これは、相対的にドル保有者優位に作用する為、米国への資金還流を促すと考えられる。

特に、大統領選挙があった2016年の場合、米国でのMMF(マネーマネジメントファンド)に対する規制強化の影響で、ドル資金の供給役でもあったプライムMMFの残高が、16年初旬の約1兆2828億ドルから大統領選挙直前の3727億ドルまで急減し、ドル資金の逼迫を助長していた。一方、足元でその残高は徐々にではあるが、5338億ドルまで回復している。依然として、11月後半の米感謝祭前後までドルファンディングのストレスは残るかもしれないが、一昨年ほどの逼迫感ではないだろう。

次に、米長期金利が上昇した場合に、ドル高円安が進むのかが疑わしい。なぜなら、大統領選後は長期金利の上昇も一因として大幅なドル高円安が進んだが、今年の2月や10月は、長期金利が上昇した局面で株式相場とともに、ドル円も下落したためだ。つまり、米長期金利が上昇した場合のドル円の方向性は、市場の米経済の先行きに対する見方や株式市場の反応に依存していると言えそうだ。

その点、2016年当時は、まだ米連邦準備理事会(FRB)の利上げも前年12月に1回行なわれただけであり、金融政策は依然として緩和的だった。そこに、トランプ大統領の財政拡張路線が意識され、市場もポジティブにこれを評価。この結果、長期金利、米国の株式相場とドルがそろって上昇するいわゆる「トランプラリー」が発生した。一方、足元ではFRBがこれまでに8度の利上げを実施しており、9月のFOMC声明文からは、「金融政策の姿勢がまだ緩和的なままである」とする文言も削除された。FRB自身も金融政策がそろそろ正常な領域に達しつつあることを認めた格好だ。

こうした状況での長期金利上昇は、再び株式相場へのストレスとなる可能性が高い。しかも今回、トランプ大統領が、通商政策面での強硬姿勢を勝因とみなすような中間選挙の結果が出れば、ますます2020年大統領選での再選に向け、保護主義を強める恐れもある。

ちなみにドル円が上昇した過去6年の第4・四半期を振り返ると、全ての年において9月末より10月末の方がドル高円安となるスタートダッシュを切っている。今年同じ条件を満たすためには、月末までに113円台後半を回復する必要があり、ややハードルは高い。

さらに言えば、第4四半期に続く翌年の第1四半期では、過去6年中、4年でドル安円高が進行している。特に、直近では3年連続してドル安円高だ。仮にアノマリー(合理的に説明できない経験則)通り、年末にかけてドル高円安が進んだ場合でも、反対に来年第1四半期はドル安円高に備える必要がありそうだ。

内田稔 三菱UFJ銀行 チーフアナリスト

*内田稔氏は、三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。一貫して外国為替業務に携わり、2012年より現職。J-money誌の東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では2013年から18年まで個人ランキング1位。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

(編集:山口香子)

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