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コラム

コラム:TPP参加は避けて通れず、公平な仲裁手続き不可欠

 田巻 一彦   

 11月10日、国論を二分している感のある環太平洋連携協定(TPP)の問題は、これまで国民の目からわかりにくかった国内規制のあり方をオープンに議論するための格好の場を提供すると考える。写真は10月に都内で撮影(2011年 ロイター/Yuriko Nakao)

 [東京 10日 ロイター] 国論を二分している感のある環太平洋連携協定(TPP)の問題は、これまで国民の目からわかりにくかった国内規制のあり方をオープンに議論するための格好の場を提供すると考える。

 ただ、投資ルールに関連した紛争仲裁の手続きで、交渉力の強い米国の意向だけが取り入れられる制度になれば、日本にとって不平等条約になりかねない。公平な紛争仲裁手続きを確保できるかどうかが国益を左右するとも言え、TPPに盛り込まれなければ、国会での批准が危ぶまれる事態も予想される。

 TPPへの交渉参加について、野田佳彦首相が10日中に会見し、交渉参加の方針を表明すると国内メディアは報道している。しかし、TPP交渉参加に反対する超党派の議員は10日、232人の署名を集めたと発表した。衆院の過半数まで9人という規模まで膨れ上がっており、交渉参加に強い意欲を持っているとみられてている野田首相にとって、大きな重圧になりつつある。

 <TPP交渉きっかけに規制めぐる議論の活発化期待>

 私は日本の将来を考えた場合、活発な貿易をサポートする環境を整備するTPPへの参加は、避けて通れないと考えている。9日のコラムでも言及したように、輸出企業が衰退するようなら、日本経済の成長力はゼロへと向かい、1000兆円に迫る債務残残高を抱え、返済能力への疑問が内外の市場参加者から出てくると思うからだ。

 また、TPPへの参加反対を強く主張している農業団体は、農業の活性化に関し、何ら前向きの構想や計画を提示していない。新多角的貿易交渉(ウルグアイ・ラウンド)でコメ市場を開放した際、約6兆円の対策費を当時の政府は投入したが、農業の生産性は全く改善されていない。6兆円の中から農業とは関係ない最新式の体育館など箱もの建設に資金を投入したことについて、事後の評価も示されていない。TPPに参加しない場合、日本の農業をどのように改革し、安全な農産品を提供していくのか、農水省や農業団体はプランを示すのが責任ある態度であると思う。

 農業分野が典型的な例だが、TPP交渉への参加を契機に、国内規制で手厚く保護されている分野について、国民の前に広く情報を開示し、オープンに議論することが望ましい。国内規制をめぐっては、複雑な規制体系や入り組んだ利害関係などもあり、専門的な知識を持たない一般の国民には、その実態が不透明な部分が多かったと思う。TPP交渉に参加した後は、国内規制の撤廃がどのような利益と損害をもたらすことになるのか、情報を公開して国民の判断材料を提供するべきだろう。

 <TPPの性格決めるISD条項>

 しかし、一部で強い批判が出ている政府と投資家の紛争を処理する仲裁手続き(ISD条項)に関しては、今後の交渉次第で、日本国民の安全や健康が侵害されるリスクが存在すると指摘したい。TPPに入ると、政府は国内企業と海外企業を同等に取り扱う義務(内国民待遇の付与)を負う。例えば、米国企業が米国内の規制に合わせて、日本国内で事業展開しようとしたところ、日本政府が国内法規を前提に事業を認めない場合、「公正な競争が阻害された」として訴えられる可能性がある。

 このようなISDにおける仲裁機関の1つとして、世界銀行の傘下にある国際投資紛争解決センター(ICSID)を活用した手続きが、TPPにおいて想定されている。ICSIDには仲裁手続き規定があり、企業が政府を訴えた場合は、その規定に従って判断が下される。判断を下すメンバーは、企業と政府が1人ずつ推薦し、もう1人を両者の合意で選任することになっている。

 また、判断には強制力があり、上訴できないルールも明確化されている。このほか国連には、国際商取引法委員会規則というルールがあり、このルールに則って判断が下されるという選択肢も存在している。先に示した例で米企業が日本政府に勝った場合、損害賠償金を得ることができるが、日本の国内法を改正することはできない。

 <政府に求められる情報公開>

 もし、今後のTPP交渉でこのISD条項の内容が、交渉力の強い米国主導で決定され、米国企業が一方的に有利になるシステムが組み込まれれば、日本にとっては幕末に締結した不平等条約の再来となると言ってもいいだろう。TPP交渉に参加した場合、このISD条項の公平化の担保が不可欠になる。政府は、この点を含め、交渉経過について、情報の公開に向け最大限の努力をするべきだ。

 TPPの交渉終結のメドは不明だが、ISD条項の公平化が担保されないまま、政府がTPP参加を決めて署名しても、国会での批准という大きな関門を通過することはできないだろう。条約の批准は衆院の優越が憲法で明記されており、野党過半数の参院で否決されても、TPP参加はできる。だが、すでに衆院で232人の反対署名が存在する中、不平等条約の色彩が濃い内容のTPPなら、衆院での可決もおぼつかなくなると予想する。

 紋切型の賛成・反対の応酬ではなく、日本経済の成長力強化に直結するような議論の展開を希望したい。その前提は、TPP交渉の経過を含めた情報の透明性確保であり、規制をめぐる活発な議論の展開があれば、閉塞感の強い今の国内情勢を変化させる大きなきっかけになると考える。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。 

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