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再送-〔インサイト〕マウント・ゴックス、既存の決済システムに依存 資産の分別管理を疑う見方も

(この記事は12日に配信しました)

[東京 12日 ロイター] - 2月末に破たんした仮想通貨「ビットコイン」取引所、「Mt.Gox(マウント・ゴックス)」(東京都渋谷区)の経営実態が次第に明らかになってきた。同社は顧客拡大のため、少なくとも海外7地域にペーパーカンパニーを設立する一方、資金取り込みや決済は銀行を通じた既存システムに大きく依存。さらに顧客資産と自己資産を分別管理していなかった可能性を指摘する声もある。同社急成長の裏には、規制官庁が不在のまま「ビットコイン天国」とも皮肉られる日本の行政対応があったことも否定できない。

  <銀行との取引継続が「命綱」>

「銀行としては口座をクローズしたい」。「こちらは口座を開けっ放しにしていたい」――。  

2人の男性の生々しいやり取りを記録した録音がネット上に流出している。関係者によれば、マウント・ゴックスのマルク・カルプレス代表と取引銀行のみずほ銀行担当者との会話だ。このやり取りの中で、同社の口座の解約を迫るみずほ担当者に対し、カルプレス代表は口座を閉じる意思がないことを伝える。なぜカルプレス氏は口座の維持にこだわったのか。

事情を知る関係者によると、同社がビットコイン購入者から資金を受け入れる場合、銀行口座を経由した資金ルートの利用に頼っていたためだ。いったんビットコインを受け取れば、海外へのコイン「送金」はネット上で簡単かつ低コストでできるが、ビットコインを入手する資金の払い込みには、銀行が提供する既存の決済システムが不可欠な存在となっていた。

関係者によると、マウント・ゴックスは、ネット専業のジャパンネット銀行にも口座を保有。みずほ銀行は2012年から、ジャパンネット銀行は2013年からそれぞれ決済口座を開設した。米政府の資料などによると、三井住友銀行にも口座を持っていたが、2012年までに解約したとみられる。

マウント・ゴックスの口座に入金される資金は国内からの円建て資金よりも、海外の銀行を利用した外貨建て資金が多かったと関係者は語る。昨年12月、ニューヨーク在住の男性が同社に対して預け金の返還を求める民事訴訟を東京地裁に起こしたが、この男性は同社のアカウントに昨年7月時点で93万5000ドル(約1億円)を預けていたと主張するなどしており、日本国外からの資金流入の激しさが見てとれる。

また、顧客の中には、送金手続きが終わってからキャンセルを申し込む人も少なからずいたという。このような動きも背景となって、各銀行は同社との取引を見直す動きを進めていた模様だ。 流出した録音記録の中で、みずほの担当者は口座閉鎖に「コンプライアンス上の理由」があったことをにじませた。ある邦銀幹部は、匿名性を売りにするビットコインについて、「マネーロンダリング(資金洗浄)に利用される可能性のある取引にかかわるわけにはいかない」と話し、資金洗浄に使われかねないビットコインのリスクについて、金融機関が極めて神経質になっていることをうかがわせた。

  <実態不明な海外子会社>

同社のカルプレス代表は、ペーパーカンパニーを設立して銀行口座を開き、それを顧客との資金のやりとりに使うというビジネスモデルを各地で展開していた。ロイターが世界各地の登記簿を調査したところ、同氏は日本に本社を置く一方、過去3年間に、ニュージーランド、ポーランド、米国、カナダ、英国、アイルランド、香港など少なくとも海外の7地域にそうした子会社を登記していた。   しかし、これらの子会社がどこまで実質的な企業活動をしていたかは定かでない。香港子会社のTibbanne Ltdはカルプレス氏が唯一の株主であり取締役となっているが、ロイター記者が同社の住所に行ったところ、受付担当者からカルプレス氏のオフィスは存在しないと告げられた。

マウント・ゴックスは2013年に世界最大のビットコイン取引所に成長した。しかし、ビットコインに懐疑的な金融機関は日本国内にとどまらず、同社は海外の取引銀行からも次々に取引を打ち切られている。

2012年には、英銀大手のバークレイズが決済業務を打ち切ったほか、米国では昨年5月、地銀大手のウェルスファーゴや送金サービスのDwolla社にあったマウント・ゴックスの口座が、米国土安全保障省によって凍結された。しかし、関係者によると、最後まで同社と取引していた銀行は邦銀の2行とポーランドの現地銀行など少なくとも3行程度はあったとみられ、次々と銀行の取引を失いながらも、同社が新たな取引銀行を見つけて、業務を拡大させていた姿が浮き上がる。  <「日本はビットコイン天国」>

ビットコインはどのような法的な位置付けにあり、何が違法行為になるのか。取引業者はどのような規制の下で監視されるのか。日本政府は3月7日に公表した国会への答弁書で一応の見解を示したが、それまでこうした点が不明のまま取引が行われていた。

米国では、昨年3月、財務省傘下でマーロンダリングを所管する法執行機関FinCENが仮想通貨の取引指針を公表するなどすでに具体的な対応をとっており、米金融機関にあるマウントゴックスの口座を凍結する判断は、この指針がもとになった。

これに対し、日本は行政上の監督責任も明確にはなっていない。今月5日、消費者保護の法整備を議論した自民党のIT戦略特命委員会には金融庁や消費者庁など6省庁と日銀が参加したが、裏返せば今回の破たんを所管する役所が決まっていない実態を示す結果ともなった。  「ビットコイン天国」(金融関係者)。明確な規制も担当官庁もはっきりしない日本の現状について、こう皮肉る声も広がっている。

2月28日に東京地裁に民事再生法の適用を申請したマウント・ゴックスは、3月12日になって、米国の裁判所に連邦破産法の適用を申請し、認められた。経営再建のためには、資産を保全し、米国内の資産が差し押さえらえる事態を避ける必要があるためだとしている。

カルプレス代表は東京地裁での記者会見で、同社と顧客分の計85万ビットコイン(時価で約560億円)のほぼすべてが失われたほか、預金残高が最大28億円不足していると説明した。さらに、それらが不正アクセスで盗まれた可能性もあるとしたが、金融関係者の間では、「ビットコインはともかく、銀行口座にある預金残高が(ハッカーによる攻撃で)盗まれることはありえない」という疑念の声が出ている。

外部からの不正行為で資金が抜きとられた可能性がないのに預金残高が不足しているとすれば、預かった顧客資産の管理方法に対する疑念が生じる。顧客資産と自己資産を分けて管理する「分別管理」は、信託銀行や証券会社など顧客資産を預かる業態では法令上の義務となっている。マウント・ゴックスの資金管理の実態は明らかになっていないが、金融関係者の間では、同社が「分別管理」を十分に実行していなかった可能性を指摘する見方もあり、同社の説明責任が問われそうだ。 (布施太郎、Sophie Knight 編集:田巻一彦、北松克朗)

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