[東京 8日 ロイター] - 中国リスクへの警戒感が市場に広がっている。上場銘 柄の約半数が売買停止となる「異常事態」にグローバル投資家は、株式や商品などのポジ ションを手仕舞い始めた。実体経済への影響も懸念され、金利は低下、リスクオフの円買 いも出ている。ギリシャの財政問題も混迷を極めており、市場の楽観ムードは大きく後退 している。 <アジアに広がるリスクオフ> 約半数の銘柄が売買停止となる異常事態となった。8日の中国株式市場の上海、深セ ン取引所では約1300社の企業が売買停止。全上場企業2808社のうち約45%が売 買できない状況となっている。 事前には「売ることができなければ、株価が下がることもない」(外資系証券)との 楽観論もあったが、株安は止まらなかった。上海総合指数 と滬深300指数<.CSI 300>はともに一時8%下落。取引可能な株に売りが集中しただけで、抑止効果はほとんど なかった。 予想に反し中国株が大きく下落して始まると、日本を含むアジアの市場は動揺。日経 平均 は3%を超える下落となり、2万円大台を大きく割り込んだ。香港ハンセン 指数 は6%、台湾加権指数 も3%を超える下落となっている。株式などリ スク資産のポジションを落とす動きが加速している。 中国株式市場への外国人の直接の投資は制限されており、マネーフローでの連関性が 高いわけではない。しかし、名目GDP(国内総生産)で世界2位(1000兆円超)に 巨大化した経済国における株式市場の「異変」に投資家も警戒感を強めている。 「中国株の下落はリスク量を増大させ、他市場でのグローバル投資家の利益確定売り につながる。さらに株安が中国の実体経済に影響を与えれば、世界経済もただではすまな い。影響は限定的と楽観視はできない」と、アムンディ・ジャパン投資情報部長の濱崎優 氏は話す。 <CTAやHFからの売り> 実際、金属など商品市場では中国の景気減速に警戒感が強まり、価格が大きく下落。 汎用性が高い金属で景気や需要に左右されやすい銅 は8日の市場でやや反発した が、前日に6年ぶり安値を付けた。原油など19商品の先物相場で構成されるトムソン・ ロイター/コアコモディティーCRB指数 は7日の市場で3カ月ぶりの安値に 下落している。 「コモディティ商品の最大の買い手は中国。株安による実体経済への影響が明確に見 えたわけではないが、リスク回避の動きが世界の投資家に広がっている」(ばんせい投信 投資顧問・商品運用部ファンドマネージャーの山岡浩孝氏)という。 前日7日の米ダウ が場中に切り返しプラス圏で引けたことで、安心感が広がり かけたが、止まらない中国株の下落に投資家心理も消沈したようだ。市場では「株式や商 品にはCTA(商品投資顧問業者)や、マクロ系ヘッジファンドなどからの手仕舞い売り が目立っているようだ」(大手証券トレーダー)との声が出ていた。 ギリシャ問題の行方も不透明感が一層濃くなっており、マーケットにはリスクオフム ードも広がってきた。円買いが強まり、ドル/円は一時122円割れ。金利も低下し、日 本の10年債利回りは0.415%と2週間半ぶりの低水準をつけた。 <矢継ぎ早の対策が「火に油」> 中国株が下落したこと自体を、市場関係者が驚いているわけではない。上海総合指数 は年初から60%、昨年7月からは2.5倍という急上昇をみせてきた。その間、中国経 済は減速感を強め、今年の成長率目標は7.0%と11年ぶりの低水準。景気に逆行して 株価だけが上昇してきた一種の「バブル」であり、株価下落自体は健全な「調整」ともい える。 市場の警戒感を強めているのは、中国政府のあわてぶりだ。学習院大学・経済学部教 授の渡邉真理子氏は「ファンダメンタルズからかい離したような株価の調整はある程度、 想定されていたと思うが、矢継ぎ早に出てきた対策は、場当たり的な対策が中心だった。 その裏には何があるのかと、逆にマーケットの不安をあおっている」と話す。 約半数の銘柄が売買停止となっただけではなく、口座や空売りの監視や、自己勘定で の株買い支援や投資上限の引き上げなど、株安対策が連日発表されているが、株価は下落 。むしろ油を注いでいるようだ。PER(株価収益率)などバリュエーション面では割高 感も解消されつつあるが、実体経済に株安の影響が出てくれば、水準は切り下がらざるを 得ないだろう。 日経平均は年初から6月24日の高値まで20%上昇。それまで、ほとんど調整らし い調整はなく、今回の下落も「絶好の押し目買いのチャンス」(国内証券ストラテジスト )と強気な声も残っている。だが、日本にとって最大の輸出先であり、インバウンド消費 を支える中国経済だけに、単なる「調整」とはかたづけられない不気味さもある。 (伊賀大記 編集:田巻一彦) <東京市場 8日> ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 日経平均 国債先物9月限 国債339回債 ドル/円(15:00) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 19737.64円 147.35円 0.415% 121.98/00円 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ -638.95円 +0.44円 -0.035% 122.55/57円 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 注:日経平均、国債先物、現物の価格は大引けの値。 下段は前営業日終値比。為替はNY午後5時。
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