[東京 21日 ロイター] 2013年のドル/円相場は、上値余地を探る展開になりそうだ。安倍新政権による積極財政と日銀の大胆な金融緩和の組み合わせで90円を超えて円安が進む可能性がある。ユーロ/ドルは、脆弱なユーロ圏景気が重しとなり、上値は限られそうだ。
専門家の見方は以下の通り。
●年前半は日本要因で円安に、年後半は米国要因でドル高に
<バークレイズ銀行 チーフFXストラテジスト 山本雅文氏>
年前半は日本の材料で円安に振れやすく、年後半は米国サイドの材料によってドル高に振れやすく、どちらにせよ、ドル/円は上値を探る展開だろう。
安倍政権は財政金融両面から拡張政策を推し進めるとみられる。インフレ目標2%の実現に向けて円高是正政策も必要になってくるとみられ、年前半は円安期待が継続しやすい地合いとなるだろう。
「財政の断崖」問題があるものの、米経済は相対的に良好なファンダメンタルズを維持するとみている。2013年半ばには失業率は7.5%まで低下すると予想する。また、米国の景況感が相対的に強いことで、これまでのFRBのバランスシート拡大政策が見直され、年後半には量的緩和政策が縮小する余地がある。例えば、国債買取りを250億ドルの規模に圧縮し、エージェンシーMBSの購入は年末までに終了する可能性もでてくるだろう。
ユーロについても市場の焦点は次第にファンダメンタルズに移ってくるだろう。ユーロ圏はマイナス成長を抜け出すとみているが、米国に比べて景気が弱いためユーロ/ドルの下値余地は大きく、2013年末には1.22ドルになると予想する。
ドル/円 82―92円 ユーロ/ドル 1.20―1.34ドル
●ドル/円は1―3月に上値トライ
<新生銀行 市場営業本部 部長 政井貴子氏>
ドル/円は日本の政策がポイントになる。1―3月は上値がどこまで拡大するか見極める期間。「デフレ脱却ストーリー」を前進させるべく、大型の補正予算や日銀の政策がテンポ良く打ち出されるなかで、90円を超えて上昇するだろう。ただ、補正予算や日銀人事でもたつけば、安倍自民総裁のリーダーシップが疑われて円高リスクがある。4月以降は、円安傾向や諸政策の実体経済への効果を見極める期間。企業業績の上方修正や消費の改善など「良好な回転」に入っていけばドル/円は値を保つと見込まれるほか、日銀がずっとアクセルを踏み続けるという前提に立てば、円高に反転する展開は考えにくい。
ユーロ/ドルはボックス推移を見込む。ユーロ圏経済は一段の悪化が見込まれ、ECBの金融政策は緩和方向となろう。景気の冷え込みで投資先としての魅力も低く、極端にユーロが買われるのは難しい。一方で、ユーロの「崩壊危機」といった事態までは距離があり、極端な下落は考えにくい。ユーロ圏のデフレ圧力の高まりがユーロのサポート要因となるほか、世界的なリフレ傾向でリスクオン相場となればユーロは底堅く推移するだろう。
ドル/円 82―92円 ユーロ/ドル 1.25―1.35ドル
●日本の材料ではそれほど円安にならず
<三菱東京UFJ銀行 市場企画部 チーフアナリスト 内田稔氏>
ドル/円については、日本の材料ではそれほど円安にならないというのがポイント。日銀が従来通りマネタリーベースを増やす金融緩和を行っても、それほど円安にはなりにくい。マネタリーベースを増やすと、金利低下という経路を通って通貨安になるが、日本の金利水準はすでに非常に低いので、マネタリーベースを増やす金融緩和をたとえ無制限に行っても円安にはなりにくい。また、世界景気の改善による輸出増などで日本の貿易赤字は今年より減少が見込まれる。日本の需給環境の変化で引き続き円高圧力は強くないが、米国の経済情勢によってはまだ80円割れの可能性は残る。
ユーロは、イタリアとドイツの総選挙を乗り切るまでは安心できない。今年はギリシャ総選挙で反緊縮財政派が票を伸ばし、ユーロ離脱観測が突然高まったが、政治家と国民の意識のずれが表面化するのが選挙。ESM稼働などの方策でユーロショートの解消が進んでいるが、ユーロロングにするのは難しいとみる。ただ、ドイツの金利はゼロやマイナスまで低下しており、独米金利差からユーロ/ドルが持続的に下落するのは考えにくい。
ドル/円 78―86円 ユーロ/ドル 1.18―1.36ドル
●円、ドルともに弱い通貨に、75─85円のレンジから抜けられず
<JPモルガン・チェース銀行 債券為替調査部長 佐々木融氏>
円は2010年、2011年と2年連続で最強通貨となった後、2012年は今のところ最弱通貨となっている。2012年に円が弱い通貨となった背景としては、1)日銀の金融緩和に対する期待、2)限定的だった欧州危機の影響、3)日本の国際収支の急激な悪化、4)過剰流動性下でのボラティリティ低下──などが挙げられる。2013年も同様の理由から円は弱い通貨となる見通し。したがって、クロス円では円安を予想している。もっとも、米ドルも同様に弱い通貨になるとの見方から、ドル/円は2年以上続いている75─85円のレンジを抜けられないと予想する。
ドル/円 75―85円 ユーロ/円 105─120円
●日米金利差の拡大なき円売りは持続性に乏しい
<みずほコーポレート銀行 国際為替部 マーケット・エコノミスト 唐鎌大輔氏>
ドル/円は「レンジ相場が切り上がる」程度で、円安基調が根付くとはまだ考えていない。確かに貿易赤字や自民党政権の強烈なリフレ志向、堅調な米経済などを背景に円安は進みやすい地合いである。新政権は消費税増税を確かなものにするためにも上半期はなりふり構わない財政・金融政策で必死に円安/株高を演出しようとするだろう。それゆえ、年初来高値は上期につける可能性が高く、その際、87円や88円という水準は一時的に有り得る。だが、それだけに下半期の反動も心配すべきだろう。歴史的にみれば「日米金利差の拡大無き円売り」は持続性に乏しい。日米金利差が消滅している状況下、普通に考えれば来年もレンジ相場が妥当。金利差はドル/円相場にとって「風」であり、風が吹かなければ基調的な円安は難しい。
ユーロ/ドル相場のボトムは引き続き購買力平価の1.20─1.22ドル付近と思われる。ECBは公式に2013年もリセッションと宣言しており、成長率だけをみれば、日米欧で欧州は一人負けが確定している。ユーロ相場はEU当局の政策対応などにより底抜けが防がれるにせよ、上値を追う材料が極めて乏しいという状況は過去3年と大して変わらないと予想したい。
ドル/円 78―88円 ユーロ/ドル 1.21―1.35ドル
(ロイターニュース 為替マーケットチーム)