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〔アングル〕外貨準備急減のエジプト、頼みの綱はIMFかカタールのみ

 ◎外貨準備が急減し、政策余地がほとんどなくなる

 ◎IMFの支援なしでは議会選挙まで持ちこたえられない可能性

 ◎政治的合意が不可欠だが、野党は選挙をボイコット

 ◎カタールが追加支援実施しても根本的問題は解決せず

 [カイロ 26日 ロイター] エジプト政府は25日、修正した経済改革プログラムの一部を公表した。また、投資庁のサーレフ長官は48億ドルの融資実行に関する国際通貨基金(IMF)との交渉を来月初めに再開することを明らかにした。

 こうした動きは融資に対する緊急性が新たに生じたことを示唆している。エジプトは昨年11月、IMFからの融資を受けることで暫定的に合意したが、その後の街頭での激しい抗議行動を受けて最終調印が延期されていた。

 エジプト政府は資金がほとんど枯渇し、IMFに頼るか、湾岸諸国の友好国であるカタールに追加支援を要請するしかない現実を認識しつつあるようだ。

 モルシ大統領の出身母体、イスラム組織「ムスリム同胞団」を中心とするエジプト政府が数カ月遅れで打ち出したのは、外貨準備の減少に歯止めを掛け、国家全体を揺るがしかねない財政赤字の解消に取り組むプログラムだが、新たなプログラムは外部の金融支援を前提にしている。

 6月に終了する予定の人民議会選挙後までエジプト政府が持ちこたえ、補助金カットなどの痛みを伴う改革を先送りできる可能性は低い。

 そのため、エジプト政府がすぐさま実施できる選択肢はIMFとの交渉再開などに限られるものの、IMFは一定の緊縮措置を要求し、それによって選挙キャンペーンの最中に街頭での抗議行動がさらにエスカレートする恐れもある。

 別の選択肢としてカタールへの追加支援要請もあるが、カタールが既に実施した支援をもってしても、エジプトの外貨準備の急減は防止できなかった。

 バークレイズのエコノミスト、Alia Moubayed氏は「エジプト経済に新規資金が流入していないため、当局には政策実施余地がほとんど残されていない」と指摘した。

 <問題山積>

 昨年の街頭での激しい抗議行動以降、エジプトでは問題が山積している。中央銀行はムバラク政権崩壊に至る過程で通貨ポンドEGP=を防衛するために200億ドルを費やした。昨年12月末にはドルの定例入札を開始し、新システムの下でポンドが8%以上下落するのを容認した。政変以降のポンドの下落率は合計で14%に達している。

 ポンドの防衛は、貧困層も依存している輸入品の物価上昇を抑制する上で役立ったものの、国家にとっては巨額の代償を払う結果となった。

 ムバラク政権末期に360億ドルあった外貨準備は、1月には136億ドルに急減した。この額は3カ月分の輸入代金を下回っており、エコノミストは警戒を強めている。

 困難な状況にある多くの国と同様、エジプトでも1つの問題が片付くとさらに深刻な問題が生じている。中銀は現在、ドルの入札額を週当たり1億2000万ドルという比較的少額にとどめているが、付随するポンド相場の下落は政府の補助金支出を押し上げている。

 軍部の後押しを受けていたムバラク政権やその前任者らは、エネルギー、パンなどに大量の補助金を支給して大衆の支持を得ようとした。このシステムは、政府が国際市場で小麦や原油をドルで購入することで成り立っている。

 市場はポンドがさらに大幅に下落するとみている。先物EGPNDFOR=は1年後の対ドルでのポンド相場が現在の水準から15%下落し、少なくとも1ドル=7.95ポンドになることを示唆している。

 食品やエネルギーといった優先分野に関わりを持たない企業や個人はドルを手にするチャンスがめったになく、闇市場でのドルの入手を余儀なくされている。闇市場の相場は1ドル=6.90/7.25ポンドで、公定レートの6.7375ポンドと比べると大幅なポンド安水準だ。

 ポンドの下落は既に財政上の重荷を増幅させている。政府の計画によると、モルシ政権が改革を開始すると仮定して、赤字は現在の会計年度の国内総生産(GDP)の10.9%に達する見通しだ。改革が行われなければ、赤字はGDP比12.3%に急増する。

 <国民の支持が得られるか>

 投資庁のサーレフ長官は、エジプト国民がIMFとの合意の代償になるであろう緊縮・改革プログラムを支持するとの楽観的見方を示した。同相は25日、ドバイで投資家に対し、「エジプト国民がプログラムを拒否する理由は見当たらない。最終的に受けられる恩恵が、今後の負担を上回ると気がつくだろう」と語った。

 しかし同長官の楽観的見方に同調するアナリストやエコノミストは少ない。4月から6月まで4回に分けて実施される議会選挙の後であれ、抜本的な改革は実現しそうにない。

 政治リスク分析・助言会社メープルクロフトのアンソニー・スキナー氏は「エジプトが経済再建に必要で、IMFとの合意に沿った一貫性のある改革プログラムを維持できるとは考えづらい。現在の財政状況や悲観的な政治情勢を考慮すると、現実的にどのように達成できるか分からない」と指摘した。

 ヘガジ財務相は26日、改革プログラムは2日以内に議会に提出されるが、必ずしもIMFとの合意が迅速に進展する保証はないと述べた。アバディーン・アセット・マネジメントのアンソニー・シモンド氏は「政治的合意がより重要な課題であり、(IMFとの)合意に調印する前に解決される必要がある」と話した。

 何はさておき、エジプトは財政安定を目指した改革についての政治的合意が必要だとエコノミストは口をそろえる。しかしモルシ大統領はエジプトの将来像に関してリベラル派や左派と対立しており、コンセンサスが形成される可能性は低い。

 リベラル派および左派団体の集まりである救国戦線(NSF)は26日、選挙のボイコットを決定した。ただ、IMFを満足させるため、モルシ大統領は与党のみで改革を推進する可能性がある。大統領は昨年末にも議会が策定した新憲法案をめぐり、野党と激しく争った。

 IMFと最終合意を結べば、世界銀行や欧州連合(EU)、米国、湾岸諸国など、現在は二の足を踏んでいる国や国際機関からの最高120億ドルの支援に道が開かれる可能性がある。

 一方、湾岸諸国でIMFとの合意がなくても支援を名乗り出そうな唯一の国がカタールだ。同国は既にエジプト中銀への預託と供与の形で50億ドルの金融支援を実施しているが、カタールの支援だけでエジプトポンドの下落に歯止めが掛かるとみる向きはほとんどいない。

 バークレイズのMoubayed氏は「2国間支援で可能なのは時間稼ぎだけで、エジプトの対外ポジションおよび財政ポジションが持続可能な軌道に乗ることはない」と語った。

 ムスリム同胞団とサウジアラビアとの関係は著しく冷え込んでいる。エジプトの高官は、ムバラク政権崩壊後に軍部が直接統治をしていた時期に多数の湾岸諸国がエジプトを支援したと指摘した。しかしモルシ大統領が最初の外遊先にサウジの首都リヤドを選んだにもかかわらず、そうした友好的な関係は昨年6月のモルシ大統領の就任以来途絶えている。

 同高官は「現在、エジプト経済を実際に支援しているのはカタールのみだ」と述べた上で、「続く国が出てくると期待している」と付け加えた。

 (David Stamp記者;翻訳 関佐喜子 ;編集 宮崎亜巳)

※(sakiko.seki@thomsonreuters.com; 03-6441-1863;sakiko.seki.reuters.com@thomsonreuters.net)

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