<空前の規模となるオバマ経済対策、大量発行の米国債>
今週に入り明らかになったオバマ次期政権の3100億ドル(約28兆円)の大型減税構想。2年間で総額7750億ドル(約72兆円)に上ると伝えられている巨額の財政支出計画の4割に相当する規模である。刺激策の総額はすでに市場予想を大きく上回っているが、さらに拡大するとの見方もある。今回の景気後退の特徴となっている劇的な落ち込み、その変化率の大きさに対応するためには、迅速かつ大規模な対応策が必要と考えていると見られる。
すでにオバマ次期政権は複数年にわたり財政赤字が1兆ドルを超えるとの見通しを示したが、かつて例のない赤字拡大というコストを覚悟の上で、超がつく大規模な刺激策は必要のある政策との判断である。さもないと景気は底割れしてしまうと──。
当然、国債の発行額は急増するし、すでにそれは始まっている。2008会計年度(08年9月に終了)は単年度で過去最高となる4547億ドルの財政赤字を記録したが、09会計年度は既に10、11月の2カ月で約4050億ドルの赤字となっている。これから本格化する国債増発に向けて円滑に消化できるのか。投資家ならばだれもが抱く懸念だろう。中国や日本また産油国など従来の大量購入国は、これまでのように米国債を買い続けてくれるのか。当事者の米国はもとより、米国を貿易相手に国家の骨組みが成り立っている間接的な国も含めると世界全体が利害関係者であるために、温度差はあれどの国も他人事ではない。
<市場の注目集めた中国の口先介入>
注目されているのは9月に5850億ドルと日本(5732億ドル)を抜いて保有額でトップに立った中国である。中国はこれからも米国債を買い続けるのかどうか。 以前から中国による米国債や米連邦機関債(政府系住宅金融債など)の大量保有は、米国財務省のみならず米国防総省の関心事でもあるとされてきた。
物理的な戦争行為がなくとも、金融市場の混乱を引き起こすことで米国にダメージを与えることができる、すなわち国家の安全保障にかかわる事項として研究が行われてきたとみられる。こうした軍事的な背景は別として、足元の問題は米国債の受け皿として外貨準備の急増した中国と言えども、これまでのように大口の買い手として期待できないのではないかという懸念である。また、よりシンプルに運用の安全性と効率性から中国が米国債の保有比率を落とす、すなわち一部を売却するのではないかという懸念である。
09年1月6日付の日本経済新聞朝刊によると「米国債をある程度売って、ユーロや円の資産を増やすべき」という意見を5日付中国証券報が伝えた。こうした意見は、以前から見られる。金の保有を増やすべきという意見も中国国家外為局や国家発展改革委員会という政府内部の機関のエコノミストなどから過去複数回出てもいる。
今回の話が現実味を持って受け止められているのは、足元で米国の財政赤字急拡大に対する懸念が高まっているという環境に加え、08年8月末に中国4大銀行の1つ中国銀行による保有米連邦機関債の売却が判明したという事実がある。ちょうど金融危機の炎がメラメラと燃え盛ろうとしていたタイミングでもあり、大慌てでポールソン財務長官がファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)FNM.NFNM.P、フレディ・マック(連邦住宅貸付抵当公社)FRE.NFRE.Pへの資本注入を発表し、火消しに走るという一幕があった。この時は米国債のCDS保証料もポンと跳ね上がって市場関係者は皆、驚いたのだった。市場が米国債の信用力に疑問符を付けたことを意味するためだ。
08年12月4日の北京。米中戦略対話に際し、中国側議長の王岐山副首相が「中国の在米資産や対米投資の安全を確保するように希望する」と米国側議長のポールソン財務長官に要求したと伝えられていた。おそらく今回の話は、その延長線上で捉えられるもので中国側からのウォーニングという意味合いの強いものということだろう。
<米国債売れない中国の事情>
一方で昨年9月24日、国連総会出席のためにニューヨークを訪問した温家宝首相が、ガイトナーNY連銀総裁(オバマ次期政権の財務長官に内定)やルービン元財務長官ら米金融界の大物と会合を持った際に(おそらく米国側の働きかけと思われる)、同首相が使った言葉が「誰也離不開誰」だったという。意味するところは、「お互いに離れられない」。今回のテーマに即した理解をするなら“too big to sell(大き過ぎて売れない)”ということだろう。
米国債を手離すことは、手離すほうにも火の粉が掛かるということだし、米国債が消化難に陥ることは避けたいのは中国も同じということ。いわばそれだけガチガチに中国は市場経済に組み込まれている──、もしくは入らざるを得なかったということか。
その後に発表されたデータによると08年10月末現在の中国の米国債保有残高は1カ月で659億ドル増え6529億ドルとなった。年初からの増加率は36.7%にもなる。ちなみに2000年9月末の保有残高は621億ドルなので8年間で10倍の規模になったわけだ。
おりしも今年は米中国交回復から30年になる。今週5日には当時のキッシンジャー元国務長官が出席してニューヨクで記念式典が開かれたという。
同じく今週、訪中しているネグロポンテ米国務副長官が8日に北京で記者会見し、会談した中国政府幹部が保有する米国債の問題について、中国はとても責任ある態度で対応してきたと語ったと伝えられているが、米中外交の重要事項として中国による米国債保有の問題がクローズアップしているのがわかる。
この問題はこれからも外交のカードとして、米国に対する中国の切り札という存在にはなるのは間違いないが、結局、中国は米国債の最大の買い手としてオバマ新政権の空前の財政刺激策の一翼を担うことになるのではなかろうか。それはまた、未曾有の金融危機の中で国際外交の舞台における中国のプレゼンスを高めることにつながりそうだ。
もちろん国債消化難から米長期金利上昇というリスクシナリオが存在することは事実である。昨年11月に約4兆元(約52兆円)規模の積極財政にかじを切った中国。内需刺激策の高まりの中で経常黒字の減少が考えられるが、そうなると米国債の購入量が減ることは十分ある。
その時は第2の購入国・日本の状況にも関心が高まりそうだ。再び、為替介入に出る可能性もあるとみられるが、いずれにしても2009年は「米国債」が外交テーマの1つになるのは間違いなかろう。それほどの規模のオバマ新政権による積極財政ということでもある。
亀井幸一郎 マーケット ストラテジィ インスティチュート代表 金属・貴金属アナリスト
(9日 東京)
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