*13段落目の表現の一部を修正して再送します。
<異次元のような国>
山本氏(仮名)は2010年5月、初めてアンゴラを訪問した。片道25時間かけてアンゴラに到着。ほっとしたのもつかの間、入国審査を終えて、さあ荷物を受け取ろうとしたら係官に呼び止められて別室に連行。3時間後にようやく開放された。ビザもあるのになぜか。
ホテルへ向かう道は恐ろしい渋滞で全く動かない。車外を見るといたるところで建設ラッシュ。でも作業員の姿はまばらで、作業が進んでない現場があちこちにある。なぜか。
気を取り直して、海岸沿いのレストランへ。価格を見てびっくり。ひとり1万円は優に超える。外国人向け高級レストランだからと思いきや、アンゴラ人の家族連れが楽しげに食事をしている。ホテルも1泊400ドル。なぜこんなに物価が高いのか。アンゴラ人の給料はいったいいくらなのだろう。
翌日、商談開始。消費財、生産財すべてが国際価格を上回る値段で取引されている。これは有望と商談に臨むが、客先から出てくるのは、ぼやきばかり。国際価格の倍で売っても利益は「とんとん」だと言う。本当なのか──。なぜなのか──。
<内戦で破壊された社会インフラやシステム>
1975年に独立したアンゴラは、2002年までの約30年間、政府側と反政府側が石油、ダイアモンドという資金源を背景に内戦を続けてきた。その間、道路、鉄道、工場は破壊され、全土に800万個以上の地雷が敷設されるなどの目に見える破壊に加え、教育システムの破壊や、自分の農地を放棄せざるを得なくなり大量の難民化が起こったことによる農業生産への大きなダメージ、文化の荒廃など、目に見えない大きなつめ跡を残した。
アンゴラの国土は日本の3.3倍。人口1850万(2009年末推定、注1参照)で、首都ルアンダに450万人(同)が集中している。政府は地方の産業振興を促進するための投資優遇を行うなど、地方への移住を推進しているが、効果は限定的。政府の最大の課題は社会インフラ整備であり、公共事業投資が石油産業以外の最大の産業となっている。
<原油埋蔵量は131億バレル>
2010年の石油総輸出額は520億ドル以上と見込まれており、国内総生産(GDP)予想870億ドル(2010年推定、注1参照)の50%以上が原油生産となる。全輸出の約95%は原油に依存しており、政府歳入予算の70 80%が原油収入になる。GDP成長率も石油価格の下落した2009年はマイナス成長、2010年は9.4%の伸び(注1参照)を見込む。2009年の石油収入落ち込みはアンゴラ経済を冷え込ませるのに十分だったようで、政府の公共工事業者向け支払いは滞っており、多数の現場で工事が中断されたままになっている。20億ドル以上と言われる未払い額は6月以降に延べ払いで支払うことが決定したが、これも今年度の原油価格が好調だからできる話。原油の確認埋蔵量は131億バレルで、今後15年間にわたり現在の生産量を維持できる量となっており、これからもアンゴラの将来を握るカギ、それも唯一のカードとなる。
<社会の縮図、高コスト構造>
荷役クレーン、倉庫等、港湾設備が極めて貧弱な中で、大量の貨物が輸入されている。5─35%の関税に加え2─30%の消費税が賦課され、さらに輸入通関料、倉庫使用料、国内輸送費が高額。時には港での滞船が2カ月になることもあるため滞船料も必要。その結果、トン当たり100ドルを超えるコストがかかることもまれではない。
アンゴラは食料のほぼ80%以上を輸入に頼っていると言われ、生活必需品は非常に高い。2010年消費者物価指数(CPI)は前年比13%程度の上昇が見込まれ、日常食料品に限れば17%の上昇が予想されている。これも輸入コストを含む高流通コストが原因。インフラの未整備が物価高を呼ぶ悪循環だ。レストランやホテルも同様だが、一部の大企業勤務、あるいは自営業のアンゴラ人は高収入のため、高価なレストランでも十分許容範囲となる。
失業率は30─40%と推定され、特に若年層の雇用に問題がある。しかし、技能労働者は不足しており外国人に頼らざるを得ない。アンゴラはポルトガル語圏であり、英語を理解する事務職は慢性的に極端な売り手市場となっている。教育の充実と人材の育成が課題だ。賃金は高い生活コストもあってか非常に高く、都市部なら現場作業員でも月額300ドル程度となる。石油産業を中心とした外資系企業はさらに高賃金で雇用しており、優秀なアンゴラ人は年収10万ドルを容易に超えると言われている。
内戦終結と前後して中国がアンゴラに進出したが、インフラの早期再建のため中国人労働者の大量入国を容認したため、現在約5万人程度が滞在しているようだ。正規で単純労働者を入国させることは非常に難しいため、外国人の不正入国に入国管理局幹部が関与、巨額の賄賂を受け取っていたことが判明し、不法就労阻止のため、空港での水際検査が強化された。
収入格差も問題で、貧困層をいかに減らすかが、政府の大きな課題。1人当たりGDPは世界の平均程度であるのに、平均寿命は50歳以下、乳児死亡率がワースト5で、富裕層と貧困層で富の不均衡が発生している。首都とその他の地域格差是正もこれからの課題だ。
<急がれるインフラ整備と資金の課題>
原油依存経済から脱出し、国内雇用増大を図るためには国内産業を再興する必要がある。しかし、現状のアンゴラのコスト構造で、国際競争力のある事業を構築するのは簡単でない。最も急がれる課題は高コスト体質を是正し、正のスパイラルに転換することである。そのためには港湾、道路をはじめ社会インフラの整備を最優先に、今後も自己資金、各国制度金融、multilateral agencyからの資金をフルに活用して加速していく必要がある。
次に流通インフラの構築となるが、すでに中国企業など一部の外資系企業は動き出している。社会インフラが整えば、無駄なコストが大幅に削減できるはずで、公共工事予算の削減につながる。国内産業、特に農業が発展すれば輸入が減少し、外貨節約と同時に安価な国内品の消費者物価も安定する。また、輸入が減ることから港湾の異常な混雑も解消され輸入コストも下がる、とすべてはプラスに回りだすだろう。長期的に見れば、教育への投資を促進することが、アンゴラの真の自立に最も寄与すると考える。
山本さん、これで答えになりましたか。
注1)EIU Country report May 2010
双日株式会社 ルアンダ駐在員事務所長 松江 正俊(ルアンダ)
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<略歴>松江 正俊(まつえ・まさとし)1978年3月、大阪大学工学部卒業。同年4月、日商岩井(現双日)入社。1982―1985年カナダ駐在 1992年─1997年ロンドン駐在、1997年海洋エンジニアリング部プロジェクト課長、2005年ITコンテンツ事業部長、2008年11月から現職
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