[東京 14日 ロイター]野村資本市場研究所のシニアフェロー関志雄氏はロイターとのインタビューで、中国のインフレはピークに近く、今後は成長率の鈍化を受けて沈静化していく、と予想した。また、インフレ抑制には、政策金利の引き上げよりも、預金準備率の引き上げが効果が高く、預金準備率を主軸とする金融政策運営が続くとの見方を示した。
14日に発表された中国の5月CPIは前年比5.5%上昇し、34カ月ぶりの高水準となった。同日夕、中国は預金準備率を50ベーシス・ポイント引き上げることを決定した。引き上げは年初から6度目となり、今回の引き上げで預金準備率は過去最高の21.5%となる。
<インフレの現状>
中国では、過去10年の平均をみると、景気がピークを打ってから3、4四半期後にインフレがピークアウトするという傾向がある、と関氏は指摘する。それに従えば、同国のインフレは昨年の第4四半期付近で天井を付けるはずだったが、「米国のQE2(量的緩和第2弾)や一次産品価格の上昇などで、インフレのピークが後ずれしている」。言い換えれば、「中国のインフレは、レベルそのものは高いが、極めてピークに近い」と同氏は言う。
GDP成長率(実質)は2010年第1四半期に11.9%とリーマンショック後の最高水準となったが、関氏は「今年第2四半期以降のGDPは9%前後まで減速する」と予想。これに伴って「インフレは今年の後半にかけて緩やかに低下し、来年には3%台へと沈静化していくだろう」とみている。
CPIは構成要素の3割超を占める食料品が5月に年率11.7%上昇と依然高い伸び率を示した。経済成長が加速し所得が上昇すると、需要が拡大して食料価格上昇につながる。これに加え、中国では「好景気とともに都市部の賃金水準が上昇し、農村部から都市部への労働力の流入が起こる。農村部では農業従事者が不足し、供給が縮小することで、食料価格を押し上げている」と同氏は分析する。一方、干ばつや水害などの天候要因は、「中国全土の中の一部地域の問題であり、景気要因に比べれば、食料価格にそれほど大きな影響を与えない」と述べた。
<預金準備率>
「インフレ抑制のために、預金準備率がこれからも主軸の金融政策ツールになる」と予想、過剰な流動性を抑える手段として預金準備率の操作が「利上げよりも効果が上がっている」と指摘する。他方、「政策金利の引き上げは、内外金利差拡大による中国への資本流入を促し、引き締めの効果を相殺する」としている。
中国人民銀行(中央銀行)が13日発表した5月の中国マネーサプライM2伸び率は、前年比プラス15.1%と予想の15.4%を下回った。マネーサプライM2伸び率は2009年に27.7%、2010年に19.7%と極めて高水準だったが、「マネーサプライ伸び率の鈍化は、いずれCPIに反映されるだろう」と関氏は予想する。
<人民元>
中国人民銀行(中央銀行)は、14日の人民元CNY=CFXSCNY=SAECの基準値を1ドル=6.4822元に設定した。今月上旬には1ドル=6.4795ドルと切り上げ以降最高値に設定されたが、足許では再び軟調に推移している。関氏によると、中国では、インフレ率が高い時は人民元の対ドルレートの上昇率が高いという過去のトレンドがある。「これによって、中国政府はインフレを抑制するための手段として為替レートを使っていることがうかがえる。人民元の切り上げを通じて、インフレを抑制する必要性が低下すれば、人民元の上昇ペースはスローダウンする」と関氏は言う。
<景気循環>
中国の景気について、同氏は「2011年第1四半期は高成長・高インフレの景気『過熱期』だったが、今後は成長率がリーマンショック以降の平均値(9.5%)を下回る低成長になるだろう」と予想。一方で、「遅行指標であるインフレが高止まりするため、低成長・高インフレの『スタグフレーション期』に入る可能性が高い」と指摘する。2012年については、中国で5年に一度の共産党大会、米国で4年に一度の大統領選挙が重なる20年に一度の年となるため、スタグフレーション期が長引くリスクは小さいという。「過去の実績では中国の実質GDP成長率は共産党大会の年に上昇する傾向が見られ、米国でも大統領選の年は好景気となる。同年後半には、高成長・低インフレの『回復期』に入る可能性が高い」という。
(ロイター 森佳子記者 編集:北松克朗)※(yoshiko.mori@thomsonreuters.com;03-6441 1877;ロイターメッセージング:yoshiko.mori.com@reuters.net)