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アングル:マクロン仏政権、いまだ拭えぬ「ベナラ事件」の脅威

[パリ 13日 ロイター] - マクロン仏大統領はこの4カ月間、反政府運動「黄色いベスト」の脅威を抑え込むための対応に追われている。だが、これとは別に、政権に長期にわたって暗い影を落としている問題がある。

2月13日、マクロン仏大統領(右)はこの4カ月間、反政府運動「黄色いベスト」の脅威を抑え込むための対応に追われている。写真左はアレクサンドル・ベナラ容疑者。パリで2018年2月代表撮影(2019年 ロイター)

それは「ベナラ事件」だ。ベナラとは、エリゼ宮(大統領府)の元警備責任者で、マクロン大統領のボディガードを務めていたアレクサンドル・ベナラ容疑者(27)のことだ。

昨年5月、ベナラ容疑者がメーデーのデモ参加者に暴行を加えている映像が公開され、スキャンダルに発展した。9カ月たった今でも、この事件を巡り細切れのリーク情報が報じられ、議会で証人喚問が開かれ、警察の捜査も継続するなど、仏政権の足元を脅かし続けている。

仏上院では今週、ベナラ容疑者とロシア人富豪との私的なセキュリティ契約についての喚問が行われた。ベナラ容疑者は慎重な受け答えに終始し、法相から、もし宣誓下の証人喚問で嘘をつけば、最大5年の刑に処される可能性があると警告を受けたほどだった。

マクロン大統領の不正を示すものは何も出ていないが、議会はどの段階で誰が何を把握し、なぜ早期に対応が取られなかったのかについて調査を続けており、フィリップ首相は12日、改めて透明性へのコミットメントを強調せざるを得なかった。

「司法当局が然るべき捜査を行い、もし不法行為が判明すれば、処罰が下される。当然のことだ」と、フィリップ首相は議会で語った。「首相府は、全ての疑問に完全な透明性をもって答え、司法の独立を尊重する。これは保証する」

ベナラ事件が起きる前からマクロン大統領の支持率は下がり始めていたが、大統領府が情報を隠しているとの疑惑から支持率は21%にまで急下降した。BFMテレビの調査では、73%の人がベナラ事件でマクロン氏のイメージが傷ついたと回答している。

閣僚も、同事件がマクロン大統領の5年の任期に及ぼす影響についての懸念を公言している。ある閣僚はロイターに対し、エリゼ宮はこの「ナンセンス」を収拾すべきだと指摘。ベナラ容疑者のような若くて経験の浅い人物に大統領府内で影響力を持つことを許した判断に不信感を示した。

<ロシア・コネクション>

ベナラ容疑者がデモ参加者に暴行を加えている様子が撮影されたのは5月1日だが、仏メディアがビデオを報じてスキャンダルに発展したのはその2カ月後だった。

当初、ベナラ容疑者は2週間の停職処分を受けたが、エリゼ宮が2カ月も事件を放置したことに批判が高まり、解雇された。

マクロン大統領はスキャンダルを「コップの中の嵐(ささいな事)」と呼び、判断ミスを謝罪。スキャンダルの早期鎮静化を願った。

だが、そうはならなかった。

野党側はエリゼ宮の対応の遅さを批判し、議会による捜査に着手した。

その後、マクロン大統領の側近でもあるコロンブ内相が5月2日に映像の存在を把握していたことが明らかになった。同内相は、議員からの集中砲火を受けて2カ月後に辞任した。

ベナラ事件はその後、さらに規模が拡大している。

エリゼ宮が発行した外交パスポートの使用について捜査を受けたことに加え、上院では解雇後のセキュリティ・コンサルタントとしての仕事についても疑問が呈され、在任中から同様の仕事を請け負っていたかどうかについても調査を受けた。

ベナラ容疑者は11日、ロシアの有力鉱山事業主イスカンダル・マフムドフ氏のことは知らなかったと仏調査報道サイト、メディアパーの報道を否定。同サイトは12月、マフムドフ氏がフランス滞在中の家族の警護を依頼する契約を仏セキュリティ企業と結び、当時エリゼ宮に勤務していたベナラ容疑者が、同契約を仲介したと報じた。

マフムドフ氏の側近と連絡を取ったことがあるか尋ねられたベナラ容疑者は、「以前の同僚や職場、雇用主を通じて、たくさんの人を知っていた」と答えた。

マフムドフ氏側は、コメントの求めに応じなかった。エリゼ宮は、司法の捜査が続いているのでコメントできないとしている。

メディアパー報道を基に、フランス会計院は先週、マフムドフ氏を巡る汚職容疑について捜査を始めたと発表。ただ、現段階ではマフムドフ氏側の不正を示すものはないという。

マクロン大統領の側近で、ベナラ容疑者とも親しかったストラテジストのイスマエル・エメリヤン氏は、3月末での退任を発表。政府高官がまたも辞任に追い込まれた格好だが、エメリヤン氏はベナラ事件との関係を否定した。

一方のマクロン大統領は、「黄色いベスト」運動の勢いをそぐために有権者との対話を続けており、支持率は34%に回復している。

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

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