[ロンドン 17日 ロイター] - 国債市場は、15―16日の連邦公開市場委員会(FOMC)がタカ派的な姿勢に転じたことで、数週間続いた相場上昇(利回り低下)に終止符が打たれた。しかし今年初めに見られたような相場急落の再発に今賭けるべきではない。
10年物国債利回りは米債が1.5%台を回復して約2週間ぶりの高水準を付け、ドイツは17日にマイナス0.15%前後と3週間ぶりの水準に上昇した。
2月の国債市場の急落は株式市場にも影響を与えただけに、投資家が不安を抱くのは無理もない。
しかし需給面の短期的な動きや、安全資産としての国債に対する世界的な需要の強さにより、大規模な国債売りは抑えられそうだ。
こうした要因は、債券が忌み嫌うインフレが上昇する中で国債市場が底堅さを保っている理由を説明するのにも役立ちそうだ。米国は5月の消費者物価指数(CPI)上昇率が5%と2008年以来の伸びを記録。英国とユーロ圏は、経済がコロナ禍によるロックダウン(都市封鎖)から抜け出し、インフレ率が一時、目標の2%前後を上回った。
そして、たとえテーパリング(量的緩和の縮小)があっても、中央銀行は市場で大きな存在感を保つだろう。
ピクテ・ウェルス・マネジメントのストラテジスト、フレデリック・デュクロゼト氏は「今回は前回よりポジションがきれいで、FRBが長期間にわたり国債を買うというファンダメンタルズにも変化がないため、利回り上昇が増幅されていない」と述べた。
世界的な準備通貨で買える最高位格付けの債券は、入手可能な全体量が明らかに減っているため、欧米では利回りに強力な低下圧力が掛かっている。
ユーロ圏では欧州中央銀行(ECB)が1兆8500億ユーロの新型コロナウイルス対策の下で国債を大量に買い入れており、すでにドイツ、オランダ、フィンランドの国債市場ではECBの保有比率がほぼ3割に達している。
アナリストの推計によると、こうした動きに後押しされ、ドイツ国債の浮動比率が20%以下と過去最低になった。
ECBは緊急刺激策だけで月額約800億ユーロの国債を買い入れているが、一方で国債の新規供給はペースが鈍い。INGの推計によると、ユーロ圏の国債の総供給量は第3・四半期が2930億ユーロ前後と、第2・四半期の3640億ユーロから落ち込む見通し。
ユーリゾン・SLJ・キャピタルの推計によると、ユーロ圏、日本、英国の中央銀行による国債買い入れは、基調的な財政赤字に対する比率がそれぞれ161%、110%、129%となっており、事実上、政府の発行分よりも多くの国債を買い入れている。
一方、FRBはこの比率が37%。そのため上位4つの準備通貨の浮動国債指数に占める米国債の比率はこの10年間で約2倍に上昇して60%となった。
アリアンツ・リサーチのエコノミスト、パトリック・クリザン氏は「浮動国債の継続的な減少が利回り水準に重大な影響を及ぼしている」と指摘した。
<供給は減少>
こうした動きが、米国の一時的とはいえ異常な要因で国債利回りが通常よりも低くなっているタイミングで発生している、と専門家は指摘する。
米国の債務上限はコロナ禍の期間中は凍結されていたが、7月31日に適用が再開される。米財務省は上限の突破を防ぐためにキャッシュバランスを抑えており、6月9日時点では6700億ドル前後と、昨年10月の1兆8000億ドルを大幅に下回った。7月31日時点の目標を4500億ドルとしている。
財務省一般口座(TGA)からキャッシュが引き出され、国債発行は予想よりも少なくなっている。
国際金融協会(IIF)のロビン・ブルックス首席エコノミストの推計によると、6月までの3カ月の国債発行は700億ドルと、予想の4630億ドルを大幅に下回り、FRBの四半期買い入れの2400億ドルより少なくなる。
財務省が支出した資金の多くは最終的に銀行のバランスシートに乗り、多くの場合マネーマーケットファンド(MMF)に流れる。
FRBが短期金融市場で資金吸収のための調節手段としているリバースレポ・ファシリティーの取引額は17日、7558億ドルと過去最高を記録し、短期金融市場にいかに大量のキャッシュが流れ込んでいるかが浮き彫りになった。
こうした余剰のキャッシュは短期金融市場の金融商品の利回りを大きく押し下げ、国債利回りを圧迫している。
米年金基金による米国債の構造的な需要や、国内投資家の国債投資なども利回りを押し下げている。
JPモルガン・ファンズのストラテジスト、デービッド・ケリー氏は米投資信託協会(ICI)のデータを元に、長期国債のファンドと上場投資信託(ETF)への今年の資金流入は3500億ドル余りで、株式への流入額は1520億ドルだと指摘。アビバの北米投資適格債ヘッドのジョシュ・ローマイアー氏は「取りに足りないとは言えない構造的な需要がある」と述べた。
(Dhara Ranasinghe記者)
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