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過剰流動性の幻想、増えないワールドダラー
2016年3月25日 / 06:51 / 2年後

過剰流動性の幻想、増えないワールドダラー

[東京 25日 ロイター] - 先進国における未曾有の低金利環境にもかかわらず、過剰流動性の目安であるワールドダラーはむしろ縮小気味だ。日欧が金融緩和を強化する一方、米国は利上げ政策に転換。原油安でオイルマネーの勢いもそがれた。景気や企業業績への不安があるなかで、マネーが流れ込んでいるのは「安全資産」の国債。株式などリスク資産価格を押し上げる力は弱い。

 3月25日、先進国における未曾有の低金利環境にもかかわらず、過剰流動性の目安であるワールドダラーはむしろ縮小気味だ。写真は都内で2009年11月撮影(2016年 ロイター/Yuriko Nakao)

<ワールドダラーの停滞>

国際的な流動性の指標であるワールドダラー。米国のマネタリーベースと米国以外の国が外貨準備として保有するドルの合計で、世界で流通するドルの量を表す。

リーマン・ショック直後の2008年10月に3.5兆ドルだったが、米国の量的緩和政策第1弾(QE1)が同年11月に始まり、流動性が急拡大。5年後の13年11月には7兆ドルと倍増した。

しかし、2014年以降はほとんど伸びていない。きっかけとみられるのは、同年1月から米国連邦準備理事会(FRB)がQE3の債券購入規模を毎月850億ドルから750億ドルに縮小したことだ。ゼロ金利政策は継続されたが、緩和拡大路線の転換点となった。

その後、米国は昨年末に10年ぶりの利上げに動いた。日銀や欧州中央銀行(ECB)は金融緩和を一段と拡大しているが、ワールドダラーは15年9月の7.4兆ドルをピークに足元は7.2兆ドルまで縮小している。

「日本にいると緩和マネーがジャブジャブのようにみえるが、世界的にみればカネ余りというのはもはや幻想。過剰流動性は縮小気味で、株式など資産価格の押し下げ要因になっている」とT&Dアセットマネジメントのチーフエコノミスト、神谷尚志氏は指摘する。

45カ国を対象にしたMSCI世界株価指数.MIWD00000PUSは、ワールドダラーの拡大と並行して上昇してきたが、15年4月をピークに下落トレンドに転換。足元の水準は13年12月とほぼ変わらない。

<オイルマネーの縮小>

オイルマネーの縮小にも警戒感が強い。原油価格の急落が産油国の財政を圧迫、政府系ファンド(SWF)による資産売却などが懸念されている。

モルガン・スタンレーの試算では、SWFが世界的に運用する資産は7兆ドル程度で、このうち4兆2000億ドル前後を石油・天然ガス生産国が占める。米調査機関SWF研究所の分析によると、SWFが外部に運用を委託している資産はおよそ2兆7600億ドルだ。

同研究所は、運用資産の約89%を占める最大手クラスのSWFが昨年2133億7000万ドルの上場株式を売却したと指摘。原油価格が1バレル30─40ドルにとどまれば、年内に世界中でさらに4040億ドル相当の上場株式を売却する可能性があるとみている。

対米証券投資を地域別でみると、サウジアラビアなどを含む「アジア・中東産油国」が3カ月連続で米国債を売り越し。過去12カ月の累計では、米国債は55億ドルの買い越しだが、株式や社債を計256億ドル売り越しており、全体では約200億ドルの資金流出となっている。

みずほ証券のシニア外債ストラテジスト、岩城裕子氏は「オイルマネーの注文を経由すると言われる英国からの対米証券投資は買い越しであり、今のところオイルマネーはそれほど大きな動きを見せていないようだ。しかし、原油が40ドルを下回って長期間推移すれば、資産売却に動く可能性が高まる」とみる。

<チャイナマネーの膨張>

一方、過剰流動性が増えている国もある。中国だ。景気後退を防ぐため、中国人民銀行が預金準備率や貸出金利の引き下げを繰り返し、昨年のマネーサプライ(M2)は前年比13.3%増と名目GDP(国内総生産)の伸び率6.4%を大幅に上回った。

マネーサプライを名目GDPで割った「マーシャルのk」は2.06と初めて2の大台に乗せた。リーマン・ショック以降、実体経済の悪化や地方政府の債務問題への対応でマネーが大量に供給された結果、いまの中国にはGDPの約2倍のマネーが流通していることになる。

一方で中国は今年1月、米国債を過去2番目の規模となる372億ドル売り越しており、過剰流動性が海外に向かっているわけではない。

SMBC日興証券・金融経済調査部シニアエコノミストの肖敏捷氏は、この過剰流動性が不動産などのバブルを生み出す素地になりかねないと警戒する。「本来なら引き締めに動くべき状況だが、景気後退への警戒からマネーを回収できない」という。

しかし、中国では過剰流動性の急拡大にもかかわらず、景気は減速傾向を強めている。マネー供給が景気のさらなる悪化を防いだともいえるが、バブル発生のリスクを伴う政策だ。「マネー万能論」の綻びが見え始めたなかで、各国とも過剰流動性に頼らない政策を模索する必要性が高まっている。

(伊賀大記 編集:石田仁志)

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