March 21, 2020 / 10:37 PM / 2 months ago

アングル:震災乗り越えた福島の銘酒、情熱で風評跳ね返す

[会津若松市 22日 ロイター] - ひっきりなしに余震が襲う暗闇の中、宮森義弘さんは車を走らせた。建物の灯りも、信号機の光もない。目指したのは、会津若松市にある自身の酒蔵だ。

「宮泉銘醸」の宮森義弘さんの酒造りは2003年、倒産寸前だった酒蔵を父親から引き継いだときから始まった。3月7日、会津若松市で撮影(2020年 ロイター/Athit Perawongmetha)

深夜、ようやくたどり着いて見たものは数百本もの割れた瓶、そこからこぼれる出来たての酒だった。改修したばかりの蔵にもひびが入っていた。

2011年3月11日、宮森さんは同業者の蔵を見学するため宮城県塩釜市を訪れていた。ホテルにチェックインをしたのも束の間、激しい揺れに襲われた。高台に逃れ、津波がすべてを飲み込む光景を見て衝撃を受ける。蔵に電話をしても通じない。

「これまでと同じ生活ができる可能性はない」。宮泉銘醸の社長、宮森さんはそう考えた。

その後の展開は、彼の想像をはるかに超えていた。酒蔵から約100キロ離れた福島第一原子力発電所がメルトダウンを引き起こし、福島県産のコメや水に対する放射能汚染の懸念が広がった。福島の酒は大丈夫なのか。そんな声が県外のあちこちから聞こえた。

宮泉銘醸の売り上げはその月、66パーセント落ち込んだ。2008年に全国販売を始めた「寫楽」が、広く認知され始めたときだった。

<次々と蔵人去る>

あれから9年。福島県の農産物には今も風評被害が残る。宮泉銘醸のために酒米を生産している農家は、食用のコメの買い手が減り、養豚事業も打撃を受けたという。

にもかかわらず、福島県は今や日本酒の銘醸地となった。全国新酒鑑評会で7年連続金賞を受賞した記録がそのことを裏付ける。中でも寫楽は、日本を代表する銘柄として全国の愛好家から高い評価を受けている。

福島の酒の質と味をずっと理解してくれていた全国の酒屋が、消費者に安全性をアピールしてくれたことが大きかった──。こう話す宮森さんだが、そもそもその品質を築いたのは、本当においしい酒を造りたいと震災前から傾けてきた宮森さんの情熱だった。

宮森さんの酒造りは2003年、倒産寸前だった酒蔵を父親から引き継いだときから始まった。父親の泰弘さんは酒造りをすべて杜氏に任せていた。杜氏は鑑評会に出す酒は丁寧に造るが、それ以外には手をかけない。宮森さんが子供のころに味見をした酒は、決しておいしいと思えるものではなかった。

26歳で蔵の経営を任された宮森さんは、酒の造り方を勉強するうちに、自分が求める味と造り方が杜氏のそれとは違うことに気づく。杜氏のように特定の酒だけに手をかけるのではなく、すべての酒を徹底的に、細部にこだわって造りたいと思った

宮森さんのやり方は、周囲から反発を受けた。杜氏を始め、蔵人のほとんどが去っていった。そして宮森さん自らが酒造りの陣頭指揮を執ることになった。

<友との出会い>

手間をかける作業は洗米から始まる。宮泉銘醸では1日約1000キロのコメを15キロずつかごに分け、普通は仕込みに使う水であえて洗う。次にタイマーを見ながら仕込み水に浸し、水を切ってから重さを計る。コメの吸水率は良い蒸米を作るための大切な要素で、酒の味を決める鍵になる。

酒造りにかかわるこうしたデータは蔵のあちこちにあるホワイトボードに書き込まれ、スタッフ全員が常に共有している。かつては杜氏だけが把握していたデータだ。

宮森さんの酒造りへの思いは、2009年に実を結ぶ。全国の酒蔵が競い合う仙台日本酒サミットで、寫楽が3位入賞を果たしたのだ。さらに翌年の3位を経て、震災の年には1位に輝いた。

宮森さんには、酒造りに欠かせない人物がいる。同じ福島県の会津坂下町で酒蔵を営む廣木健司さんだ。

宮森さんは蔵を継ぐために会津若松へ帰る前、東京の居酒屋で廣木さんが造る「飛露喜」を口にした。聞いたことのない銘柄だったが「まろやかでうまみがあり、本当に心からおいしいと思える酒だった」と、宮森さんは振り返る。

そして、廣木さんが自分と同じように廃業寸前の父親の酒蔵を立て直したことを知った。それが自信につながり、以来、廣木さんの背中をずっと追いかけてきた。宮森さんは今、自分の酒がようやく飛露喜に追いついたと考えている。

2人は良き友人として頻繁に酒を酌みかわす仲になった。コンクールでの互いの順位を意識しながらも、冗談を言い合う。「尊敬すべきライバルがいて、自分の酒も磨かれる。寫楽がなければ今の飛露喜の味はなかった」と、廣木さんは話す。

宮森さんが次に目指す「ライバル」はワインだ。ワインが畑やブドウによって味が異なるように、日本酒も造り手やコメによって特徴がある。蔵には個性がある。そのことを世界に知ってほしいと、宮森さんは考えている。

(編集:久保信博)

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