[香港 22日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)は、対中政策で「デカップル(切り離し)」ではなく「デリスク(リスク低減)」を目指す方針を示した。だが、中国から見れば、G7は中国の戦略産業を妨害し、自国の防衛予算を増額していると映る。
G7にはサプライチェーン(供給網)や市場アクセスを脅威にさらさずに、習近平国家主席の野望を封じ込めたいという思惑があるのかもしれない。ドイツのショルツ首相は、G7の対中投資は今後も続くと説明したが、中国政府が警戒を緩めるとは思えない。「リスク低減」は一見穏当な言葉に聞こえるが、要は中国経済が脆弱な局面にある中で中国製品の輸入を強制的に減らすということだ。
G7には中国を外交的に孤立させたいという思惑もある。日本の招待で来日したウクライナのゼレンスキー大統領は、サミットの合間にインドのモディ首相らと会談し、ロシアとの関係にくさびを打ち込もうとした。インドやブラジルがウクライナに接近すれば、プーチン大統領を支持する習主席の孤立感が一段と強まることになる。
G7は、途上国へのインフラ投資や債務免除を拡大する方針も示しており、アフリカや中南米などに対する金融支援を巡り中国の影響力が低下することも考えられる。
軍事面では、米国を軸とする同盟国が台湾問題を巡る動きを強めている。日英豪は最近、そろって防衛費の大幅な増額を発表。岸田首相は2027年度に防衛費をGDP比2%程度に拡大する意向を示した。
G7声明に憤慨した習近平政権は、日本の駐中国大使を呼び出し抗議。21日には中国国家インターネット情報弁公室(CAC)が、3月から調査を進めていた米半導体大手マイクロン・テクノロジーの製品について購入を一部禁止した。
このタイミングは露骨だ。マイクロンは数日前、日本政府の支援を前提に最大5000億円の対日投資を発表したばかり。ハイテク製品の供給網を強化するG7の取り組みの一環だ。
マイクロンの財務への影響は甚大ではないとみられるが、強大な権限を持つCACが外国企業に対する処分を発表したのは今回が初めて。恐らくこれが最後ではないだろう。
確かに、月間ベースで過去最高近い900億ドルの貿易黒字を稼いでいる中国が、敵対国に報復するのは容易ではない。「グローバルサウス」(南半球を中心とする新興・途上国)への影響力も、中国の銀行がリスクの高い開発融資から手を引いており弱まりつつある。
だが、習主席にしても中国企業にしても、G7の「リスク低減」を座視するのは得策ではない。この婉曲的な表現は一見するよりも多くのリスクをはらんでいる。
●背景となるニュース
*G7サミット、対ロ制裁とウクライナ支援強化 中国にもメッセージ
*中国、G7広島サミット巡り日本大使呼び抗議
*中国、米半導体大手からの調達一部禁止 「安全上のリスク」
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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