August 18, 2016 / 5:46 AM / 3 years ago

コラム:問題はらむ世代間格差拡大、早めの政策対応を

[シカゴ/ロンドン 17日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 2000年以降に社会人になった「ミレニアル世代」と、ベビーブーム世代との経済格差が先進各国で拡大している。世代間格差を放置すると経済や金融市場だけでなく、民主主義にも深刻な影響を及ぼす恐れがある。賢明な政策を講じれば状況を改善できそうだが、改革へのハードルは高い。

 8月17日、2000年以降に社会人になった「ミレニアル世代」と、ベビーブーム世代との経済格差が先進各国で拡大している。写真はパリで2013年8月撮影(2016年 ロイター/Charles Platiau)

若年層の失業率は高止まりし、超金融緩和政策は貯蓄者を罰する一方で高齢の既得権益層が持つ住宅や株式の価値を押し上げ、世代間格差への懸念を煽っている。

18歳から34歳の世代の多くが、親の世代に比べて貧しくなるのは事実かもしれない。ただ、好況時の果実を高齢労働者がもぎとり、若年層にツケを回すという単純な構図で片付けられるものではない。事実はもっと複雑で、過去の経済政策と同様に構造的変化も格差拡大に大きく関係している。

<幅広く所得減>

賃金を例にとろう。マッキンゼー・グローバル・インスティテュートが最近公表した調査結果によると、先進国の世帯の60─75%で、2005年から14年にかけて実質賃金が横ばい、あるいは低下した。1世代前の1990年代半ばから2000年代初頭では、こうした経験を味わった世帯はわずか2%程度だった。

マッキンゼーによると、米国では30歳未満の高卒労働者の所得が、45歳以上の高卒労働者の倍近い率で減少している。高学歴者で見ても、若年層の所得が2002年から12年にかけて6%減少したのに対し、45歳以上は2%の減少にとどまった。

所得の減少は、労働組合加入率の低下やオートメーション化の進展、労働分配率の低下と同時に進行してきた。これらの要因と人口動態の変化は、政策選択の結果というより主に構造変化だ。

だからといって、多くがベビーブーム世代である政治家に非が無いわけではない。年金を不可侵のものとして大判振舞いしてきたことと、資産価格の上昇が世代間格差に拍車を掛けたのだ。例えば英国の国家年金は、支給額が「消費者物価インフレ率」、「2.5%」、「平均賃金上昇率」のうち最も高い数字に連動して毎年増えるようになっている。

ギリシャ、スペイン、イタリアなど南欧諸国では、若年層の失業率が近年40─50%で推移し、「失われた世代」と呼ばれている。上の世代が享受した雇用の権利や年金支給も今は損なわれてしまった。

<ミレニアル世代にも利点>

ただ、ミレニアル世代が何もかも不利なわけではない。可処分所得の減少は、税引き前の数字が示すほど激しくはない。これは高所得者から低所得者に資金を移転する税制および社会福祉政策のおかげだ。今の若年層の方が有利な側面は他にもある。米国では、ベビーブーム世代が住宅を買い始めた1970年代後半から80年代初頭以来、インフレ調整後の住宅価格が倍近くに上昇したが、住宅ローン金利と所得税率は現在の住宅購入者の方がずっと低い。

米連邦準備理事会(FRB)のデータによると、現在の米世帯の方が1980年代に比べて可処分所得に占める債務の返済費が少ない。テレビや食洗機といった家電製品を見ても、大半は1世代前より値下がりし、品質は良くなっている。

しかし今後10年間でベビーブーム世代への年金支給が始まると、若年労働者にとって状況は厳しくなる。大半の経済協力開発機構(OECD)加盟国で高齢化が進んでおり、退職者数に対する労働者数の比率が下がるため、医療費や年金について現役世代の負担が増えていく。政府は増税あるいは社会保障費の削減をいかに公平に実施するか、真剣に議論する必要が出てくるだろう。

確定給付型年金が徐々に姿を消し、確定拠出型への移行が進んでいるため、若年層は自分で老後の資金を蓄えなければならないという問題もある。

一部の裕福な家族なら、相続などによってこの問題は相殺されるだろう。しかし大勢の人々の苦難は消えない。所得の減少によって支出も減り、経済に悪影響が及ぶかもしれない。そうなれば投資収益率が下がり、世代間の緊張がさらに高まりかねない。

何も手を打たなければ、欧州連合(EU)離脱の是非を問う英国民投票や、米国のトランプ現象に見られるような、既得権益層や移民に向けた怒りが一層煽られる恐れがある。しかし移民は一般に若く生産性が高いため、流入制限を強めると実際には高齢化がさらに深刻化するかもしれない。

<シルバー民主主義>

退職者と現役世代の負担を公平化するような政策を増やせば、問題解決につながるかもしれない。しかし政治的な障壁は高い。米国の一部州では、憲法に退職者への約束が明記されている。例えばシカゴ市は最近、年金基金の積み立て不足を、支給額の物価スライド制を撤廃することによって穴埋めしようと試みたが、イリノイ州最高裁に棄却され、増税を余儀なくされた。

ベビーブーム世代の発言力が増せば、世代間衝突の現実味が増す。 だが賢明な改革を正しく組み合わせれば、そうした嵐をかなり鎮めることができるだろう。

実施すべき改革の中には、今退職を迎えている世代を利する政策の見直しが含まれる。各国政府は年金支給年齢を引き上げ続けるほか、年金支給の物価スライド制にもメスを入れる必要がある。相続税の税率引き上げも世代間格差の縮小に役立つかもしれない。

高齢世代の痛みが少なくてすむ政策もある。税金を支払う現役世代移民の受け入れ拡大が、選択肢の1つだ。多くの先進諸国で金利が極端に低下しているため、政府が借金してインフラ投資に回せば若年失業者向けの雇用を増やせるだろう。金利が低いため、彼らが受け継ぐ国家債務が持続不可能なほど増えることもない。

最低所得層に対する学生ローン債務の棒引きや、ベーシックインカム制度の導入など、より過激な政策も検討に値する。いずれの政策も消費性向の高い層、主に若年層と貧困層への所得配分を増やし、経済全体の需要を押し上げるという副産物が期待できる。

ミレニアル世代がベビーブーム世代に代わって主導権を握り始めるよりずっと前に、これらの構想を議題に乗せていかなければならない。

●背景となるニュース

*マッキンゼー・グローバル・インスティテュートが7月に公表した調査結果によると、先進25カ国の世帯の60─75%、つまり5億4000万─5億8000万人が、2005年から14年にかけて実質賃金が横ばいにとどまる、あるいは低下するという経験を味わった。1993年から2005年では、こうした世帯はわずか2%程度だった。

*ただ、政府による資金移転と税率の低下を考慮に入れると、05年から14年にかけて可処分所得が横ばい、あるいは低下した世帯は20─25%にとどまっていた。

*フランス、イタリア、米国を対象とした分析では、最も打撃を被ったのは若く、教育水準の低い労働者だった。

*フランス、英国、米国で実施した市民感情についての調査では、自身の所得が増えていないと答えた人々は、増えている、あるいは変わっていないと答えた人々に比べ、「合法的な移民が、われわれの社会の文化と結束を損なっている」と信じている割合が倍に達した。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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