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アングル:アブハジア、活況の違法マイニングが盗難の標的に

[トビリシ 6日 トムソン・ロイター財団] - ある秋の朝、ジョージアの分離独立派地域アブハジア自治共和国内にあるガレージを見回りに来たバレリーさん(31)は、ドアが壊され、開いたままになっているのを発見した。このガレージでは、ビットコインの違法マイニング(採掘)事業を小規模ながら行っていたが、夜中に侵入した犯人たちが約1万ドル(115万円)相当のマイニング用サーバー20台を持ち去っていた。

 1月11日、ある秋の朝、ジョージアの分離独立派地域アブハジア自治共和国内にあるガレージを見回りに来たバレリーさんは、ドアが壊され、開いたままになっているのを発見した。写真はビットコインのマイニングに使われているコンピューターサーバーのケーブル。伊フィレンツェで2018年4月撮影(2022年 ロイター/Alessandro Bianchi)

地元出身のバレリーさんは、「ガレージは空っぽになっていた。残されたのは怒りと苛立ちだけだ」と、振り返った。

これは特殊な事件ではない。暗号通貨のマイニング事業者らによると、アブハジアでは侵入窃盗事件が多発しており、暴力行為が伴う例もある。

きっかけは、当局がエネルギー危機を阻止するため、2020年に大量の電力を消費するマイニング活動を禁止したことだ。

同地域の検察当局によれば、10月には拳銃とカラシニコフ自動小銃で武装した5人の男たちが、マイニング用サーバーを盗もうと農家に侵入した窃盗犯を銃撃した際、誤って仲間の1人を射殺したという。

また12月には2人の覆面の男たちが中心都市スフミの民家に侵入し、家族を銃で脅迫してサーバー3台と現金15万ルーブル(約23万円)を奪って逃走した。警察の発表ではその後1人が逮捕されている。

多くの地元住民はマイニング事業を数少ない生計手段の1つとみなしているが、多発する盗難事件により、状況は一変している。

アブハジアは、ソビエト連邦の崩壊後、1990年代初頭にジョージアからの分離独立を宣言した。

アブハジアを独立国家として承認しているのは、同地域に軍事拠点をもつロシアの他、数カ国にすぎない。そのためアブハジアはおおむね孤立したままで経済発展も進んでいない。

身許を明かさないことを条件に取材に応じた34才のビクトルさんもビットコインの採掘に携わっているが、「この小さな共和国の状況が今よりもう少しマシだったら、何か他の仕事をしていただろう」と語る。

<電力供給の混乱>

アブハジアは緑豊かな細長い地域で、かつてはソ連の特権階級の保養地だった。ビットコイン価格が高騰した昨年は、マイニング事業が活況を呈した。

ビットコインは「マイニング」と呼ばれるプロセスで生成される。グローバルなコンピューターネットワークが複雑なアルゴリズム解読を競い合うプロセスだ。

こうしたコンピューターを稼働させるには大量の電力が必要になる。暗号通貨が地球温暖化対策の障害になる可能性について、気候変動の専門家が懸念を表明するほどだ。

暗号通貨マイニングが盛んになったことで、アブハジアの時代遅れの電力供給システムは綱渡り状態に追い込まれ、停電が起き、過負荷状態になった発電所の火災が生じた。これを受けて、アブハジア政府は2020年12月、マイニング活動を改めて禁止するに至った。

警察はマイニング事業拠点の摘発に着手した。民家の屋根裏部屋やレストランにまで踏み込み、発見したマイニング用サーバーの電源ケーブルを切断した。政府は3月、違反者に対する高額の罰金を導入した。

アブハジア内務省はトムソン・ロイター財団の取材に対し、押収したマイニング機材を保管するための警備付き専用倉庫を設けるとともに、疑わしい行為を通報するための専用窓口を開設したと述べた。

アブハジア政府は、2021年夏に電力網の負担が軽減されたのはこうした取締りのおかげだとしていた。だが危機は去っていなかった。秋になるとまた電力消費量が増大したのである。

10月には、アブハジアの電力会社ケルノモレネルゴが「可能な限りの節電」を全住民に要請するとともに、新たな輪番停電の実施を発表した。

「マイニング活動禁止は効果がなかった、という一言に尽きる」と語るのは政治心理学者のマイケル・ランバート氏。同氏はビシケク(キルギスタン)にあるOSCEアカデミーの在外会員で、この問題についての著作がある。

アブハジア経済省と検察庁にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

アブハジアの電力料金は非常に安く、当局による取締りがあるとしても、多くの地元住民にとってマイニングがあまりにも魅力的だという結果になった、とランバート氏は指摘する。

米国のシンクタンクである外交政策研究所のマクシミリアン・ヘス研究員は、政府官僚もマイニング事業に関与しているとの疑惑があるため、マイニング事業者に活動停止を求めても説得力がほとんどない、と指摘する。

「アブハジアは以前からずっと組織犯罪や汚職の温床になっていた」とヘス氏は言う。「地元当局が何か取締りを行っても、必ずしも法に基づく行為としてではなく、対立する派閥間の駆け引きと見なされてしまう」

昨年2月には、ある政治家の側近が政府公用車を使ってマイニング機材をロシアから密輸する現場を取り押さえられたことで解雇され、怒りを招いた。

「政府の代表者たちが自分のマイニング事業拠点を解散しなければ、自分としてもマイニングを止める気にはなれない」とビクトルさんは語った。

<警備は自力で>

違法性のあるビジネスだけに、マイニング事業者としては警察に泣きつくわけにもいかず、盗難を防ぐには自前の手段に頼らざるを得ない。

ビクトルさんは廃工場の倉庫に140台ほどのサーバー(総額約7万2000ドル相当)を収容しているが、盗難未遂事件を経験し、倉庫の内外に監視カメラやモーションセンサー、遠隔通知システムを設置した。

「2000ドルほどかかった」とビクトルさん。10月に発生した銃撃事件のような暴力沙汰は「例外」だという。

「サーバーの盗難は広い範囲で見られる。だがほとんどは若者による犯行で、生活水準の低さと就業機会の欠如が原因だ」

今年初め、ビクトルさんの倉庫への侵入を試みた者は、警報が鳴り出すとすぐに逃走したという。

こうしたセキュリティ対策を怠っていたバレリーさんは、自ら犯人の追跡を試みたが成果は無かったと話す。

「他にも仕事はあるが、主な収入源はマイニングだった」とバレリーさん。「とても良いビジネスなので再開したいが、残念ながら今は機材を買い直す資金が無い」

<解決策はどこに>

暗号通貨マイニングによる危機への対応は、当局にとってますます困難になっている。相次ぐ停電が、広範な住民の怒りを呼んでいるからだ。

アブハジアのブジャニヤ大統領は11月の政府会合で、「国民が怒るのはもっともであり、彼らの怒りは十分に理解できる」と語った。

その数日後、銃を携えた男が電力会社ケルノモレネルゴに向けて数発の銃弾を発射し、その後逮捕された。

警察は犯行動機を公表していないが、地元報道によれば、ソーシャルメディア上では不満を抱く地元住民が銃撃の容疑者を英雄視しているという。

アブハジアは電力の大半をジョージアと共有するソ連時代の巨大ダムから得ているが、このダムは2021年初頭に改修作業が行われた。他のほとんどの水力発電所同様、電力需要が増大する冬季に水位の低下が見られる。

政府は電力供給の不足分を補うためロシアからエネルギーを輸入しているが、そのせいでロシア政府への依存度が高まっており、独立志向の強いアブハジア住民の間では懸念が生じているとランバート氏は語る。

先月、野党各党はスフミで大規模な抗議行動を展開したが、特に槍玉に挙がった問題は政府のエネルギー危機への対応だった。

政府は電力網の刷新、電気料金の計算・徴収のための新システムの整備のほか、マイニング業者が合法的に活動できる「テクノパーク」の創設といった計画を発表した。

だが、ビクトルさんは懐疑的だ。

「戦後ほぼ30年間、政府は上水道やエネルギーといったインフラを修復する能力も意欲も示していない。だから、取り沙汰されているテクノパークにしても眉唾だ」

(Umberto Bacchi記者、翻訳:エァクレーレン)

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