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焦点:4選狙うメルケル首相、難民巡る「どん底」からの復活劇
2017年9月17日 / 00:56 / 1ヶ月後

焦点:4選狙うメルケル首相、難民巡る「どん底」からの復活劇

[ベルリン 10日 ロイター] - メルケル首相は、ドイツ北部で最近行った選挙演説の終盤で、2015年の欧州難民危機に触れ、二重の意味をはらんだ元気づけるメッセージを聴衆に送った。

 9月10日、難民申請者に2年前国境を開放したメルケル独首相(写真)は、その後自身の支持率が急降下するなかで、これまでの政治キャリアにおいて「どん底」とも言える状況からはい上がってきた。写真は8月、選挙キャンペーンに臨む同首相(2017年 ロイター/Matthias Schumann)

漁村スタインヒュードに集まった1000人を超える聴衆に対して、中東の戦火や迫害から逃れてきた数十万人の難民申請者に対して暖かい歓迎を示したことを、ドイツ国民は誇りに思うべきだ、とメルケル首相は語りかけた。

そこで語調を変え、「2015年に起きたことの再現はあり得ないし、それを許してはならない」と断言した。

今月24日実施されるドイツ連邦議会(下院)選挙において、4選が有望視されるメルケル首相は、このフレーズを各地の街頭演説で繰り返してきた。

2年前、メルケル首相は「迫りくる人道上の大災害」を防ぐため、難民申請者に国境を開放した。その結果、自身の支持率が急降下するなかで、同首相はこれまでの政治キャリアにおいて「どん底」とも言える状況からはい上がってきた。

この復活劇には多くの要因がある。だがそのなかでも特に重要だったのは、2015年の国境開放に対する賛否はともかく、難民危機について、ドイツ国民の多くが支持できるストーリーを紡ぎ出すことのできるメルケル首相自身の手腕だ。

「メルケル首相は国境開放政策を争点に掲げておらず、そのことが国内の空気にぴったり合っている」とドイツ政府の難民危機対応についてベストセラーを執筆したロビン・アレクサンダー氏は語る。

「多くの人々は、ドイツが人道的行為の模範であるというイメージを好む。その一方で、以前のようにこの国が難民を歓迎し続けることはできないということも分かっている。こうした絡み合った感情にメルケル氏はアピールしている」

2015年末までにドイツに入国した難民申請者は89万人。多くは適切な身元確認もなく、その流入は地元コミュニティを圧倒した。

メルケル首相の行動は、欧州を分断へと導き、反移民感情の台頭を招いた。強硬右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)も、今回の選挙で連邦議会での初議席獲得が確実視されている。

メルケル首相の難民受け入れ決定から1年、ドイツ国内ではイスラム系武装勢力による小規模な攻撃が相次ぎ、首相の支持率は30ポイント急降下して45%に達し、4選目の可能性も疑問視された。

だが現在、ドイツ国民の63%が、メルケル首相はよくやっていると評価しており、ベルテルスマン財団が今月行った調査によれば、59%がドイツは正しい道を進んでいると回答している。

「長く、困難な道だった」と首相側近は言う。「だが、選挙戦において、もはや難民問題がメルケル首相にとってマイナスにならないところまで、なんとかこぎつけた」

<「他に選択肢はない」>

海外で起きた出来事もメルケル首相に追い風となった。

たとえば昨年、英国が欧州(EU)連合からの離脱を決めた国民投票、そして米大統領選におけるドナルド・トランプ氏の勝利は、いずれも「安定の擁護者」としてのメルケル氏の魅力を高める結果となった。

2016年初頭にマケドニアがギリシャとの国境の閉鎖を決めたことで難民の流入は食い止められ、ドイツの苦境はは緩和された。また有権者の反移民感情の引き金になりかねない、イスラム系武装勢力による大規模なテロ攻撃もドイツでは発生しなかった。

 9月10日、難民申請者に2年前国境を開放したメルケル独首相(写真)は、その後自身の支持率が急降下するなかで、これまでの政治キャリアにおいて「どん底」とも言える状況からはい上がってきた。写真は8日、バースで撮影(2017年 ロイター/Fabrizio Bensch)

だが同じく、決定的に重要だったのは、メルケル首相には、ドイツ人がどう行動するかを理解する才覚があったことだ。

メルケル氏が公衆の前に姿を現す場合、反移民を主張する人々に出迎えられることが多い。彼らは、口笛や「メルケルは去れ」などのシュプレヒコールによって、首相の演説をかき消そうとする。

スタインヒュードでは、1人の女性が、指でひし型を作るメルケル首相お得意のジェスチャーと、中央部に血まみれの弾痕のあるドイツ国旗を重ね合わせたプラカードを掲げていた。そこには「あなたに恐怖と死、混乱を与える」と書かれていた。

だが、数十名程度の抗議者は、メルケル首相のメッセージに拍手喝采で応える支持者に比べれば圧倒的に少数派だった。

「難民危機について、他に対応策があったかどうかは、自信がない。難民たちは、どこかの地に向かわなければならなかった」と近隣のフロートーで下水処理工場を営むウィリー・コルデスさん(70歳)は話す。「他の誰かなら、もっとうまく対応できたとは思えない」

選挙戦においてメルケル首相にとって好都合だったのは、ライバル候補のマルティン・シュルツ氏率いる中道左派の社会民主党(SPD)を含め、既成政党の多くが首相の国境開放政策を支持しているという事実だ。

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<汚れ仕事>

メルケル首相の人気復活の背景にある重要な要因の1つに、ドイツに入国する難民申請者の減少がある。2016年には約28万人となり、今年はさらに減少する可能性がある。

これは首相の功績だ。トルコを経由して欧州に流入する移民数を削減するという、トルコとEUの合意を仲介したからだ。

だが、難民減少に本当に効果があったのは、首相が反対していたバルカン諸国の国境閉鎖だった、と指摘する批判派もいる。

これをユーロ圏の金融危機におけるメルケル首相の対応と重ね合わせる見方もある。当時、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は、通貨制度を維持するために「何でもやる」と断言した。だからこそメルケル首相は、結果を恐れることなく、ギリシャなどのユーロ圏諸国に対して厳しい態度を貫けたのだ。

難民危機においては、マケドニアやトルコ、ハンガリーなど、難民の移動経路を封鎖した国々が、メルケル首相に代わって「汚れ仕事」を引き受けてくれた。そのおかげで、首相は戦火を逃れた人々を助けた「心優しきリーダー」というイメージを維持できたのだ。

このアプローチによってメルケル首相は、自身の影響力を、従来の支持層である中道派よりも、左に広げることができた。右派の支持者の一部はAfDに流れた可能性があるが、世論調査からすると、従来は左派寄りだった都市部の若年層がその穴を埋めているようだ。

ドイツ経済は十分に好調で、社会に大きな亀裂を生むことなく難民の流入を吸収することができる。難民危機の発生時には、大方の事前想定とは異なり、ナチスという過去に対する反省もあり、ドイツはオープンで寛容な国として名乗りをあげた。

今月発表された調査では、ドイツ国民にとっての懸念事項の首位となったのはテロだった。だがビルト紙が行った別の調査によれば、移民抑制は優先課題とは考えられていない。

「ドイツ国民は驚くほどグローバル、かつリベラルで、世界に対してオープンだ」とインファス応用社会科学研究所のメンノ・スミッド所長は語る。同研究所が先月発表した調査では、ドイツにおいて難民が広く受け入れられていることを示していた。

「われわれはグローバリゼーションの勝者だ。トランプ政権誕生に至ったような経済的要因は、この国にはまったく存在しない」と同所長は述べた。

(翻訳:エァクレーレン)

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