August 11, 2018 / 12:13 AM / 6 days ago

アングル:エネルギーのロシア依存、深まるドイツのジレンマ

[ベルリン 6日 ロイター] - 過去数十年、「フレンドシップ(友情)」と命名されたパイプラインがロシアから欧州へと石油を供給してきた。冷戦が最も深刻であった時期でさえ、その石油がドイツの家庭に暖をもたらしていたのである。

8月6日、過去数十年、「フレンドシップ(友情)」と命名されたパイプラインがロシアから欧州へと石油を供給してきた。写真は2018年5月、ロシア南部ソチで会談するメルケル独首相とプーチン露大統領(2018年 ロイター/Sergei Karpukhin)

だが、ロシアからバルト海の海底を経由して直接ドイツに天然ガスを運ぶ新たなパイプラインは、今のところ「友情」とは縁が薄い。ドイツとその同盟国のあいだに不和をもたらし、メルケル首相にとっては頭痛の種になっている。

トランプ米大統領にとって、この新パイプライン「ノルド・ストリーム2」は、ドイツのロシア産エネルギー依存を増大させる「とんでもない」代物である。またロシアの支援を受ける分離独立主義勢力と戦っているウクライナは、この新パイプラインが完成すれば、ロシア政府が高収益で戦略的重要性の高いガス輸送事業からウクライナを締め出すことが可能になるのではないかと懸念している。

メルケル氏にとってはいかにもタイミングが悪い。欧州と米国の同盟関係が揺らぎ、ロシアと中国が自己主張を強めるなかで、メルケル氏は、ドイツが欧州の政治的リーダーとしての役割をもっと担わなければならないと認めてきた。

先月メルケル氏は「グローバル秩序は圧力にさらされている」と語った。「私たちにとって、これは挑戦だ。ドイツの責任は増大している。ドイツはもっと汗を流さなければならない」

メルケル氏は4月、それまでは商業的な事業であると位置付けていた「ノルド・ストリーム2」について、政治的な配慮があることを初めて認めた。

大半の欧州諸国はドイツに対し、欧州としての影響力をもっと行使し、ロシアによる侵食に神経を尖らせる東欧諸国の保護に向けて努力することを望んでいる。

だが、ロシアがドイツに対し天然ガスを輸出する一方でウクライナを迂回できるようにしてしまえば、正反対の結果になってしまう。ウクライナ政府はガス輸送に伴う歳入を奪われ、ウクライナ、ポーランド、バルト海沿岸諸国ではガス供給途絶に対する脆弱性が高まる。

「代償として、バルト海沿岸諸国、ポーランド、ウクライナからの信頼喪失という、さらに大きな損失を被ることになる」と指摘するのは、ドイツ連邦議会外務委員会におけるメルケル氏の盟友であるロドリッヒ・キーズベッター氏。

「我々ドイツ人はいつも、西側の結束を固めることが我々の『重心』であると口にしているが、少なくともエネルギー政策に関しては、ドイツをこうした西側の団結から引きずり出すという点で、ロシアによるアプローチは成功している」

多くのアナリストは、「ノルド・ストリーム2」のビジネス上の根拠は薄弱だという。すでにバルト海海底を経由する別のパイプラインがロシア・ドイツ間を結んでいる。「ノルド・ストリーム2」によって輸送量は倍になるが、将来の需要は未知数である。

その一方で、ドイツ産業界は、エネルギーがこれまでより低コストで供給されるのであれば、何であれ歓迎している。

連立与党としてメルケル氏と提携する社会民主党は、ドイツ国内においてロシアに対する融和的なアプローチを求める代表的な勢力であり、やはり新パイプラインに好意的である。

この問題はドイツ中央政界に亀裂を生じさせている。与党各党は今年初めに行われた連立協議において新パイプラインを支持することで合意しているが、文書化はされていない。

「ノルド・ストリーム2」に批判的なシンクタンク欧州政策分析センターのアナリスト、マルガリータ・アセノバ氏によれば、新たなルートを建設しなくても、既存のウクライナ経由のパイプラインを使えば、ロシアは欧州向け天然ガス輸出を倍増させることができるという。

だが、欧州諸国、米国政府、さらにはメルケル氏自身の党内からも反対があるにもかかわらず、「ノルド・ストリーム2」事業は続いている。外交におけるドイツの野心が、同プロジェクトの露骨なビジネス上のロジックによって邪魔されている格好だ。

<東方外交>

一方、プロジェクトの事業主体であるノルド・ストリーム2AGを保有するロシア国営の巨大エネルギー企業ガスプロムからは、強力な支援がある。ノルド・ストリーム2AGのトップであるマティアス・ワーニヒ氏は、西独企業に関する報告を任務とする東独側のスパイだった過去があり、ベルリンでも最も有力なロビイストの1人と見られている。

「ノルド・ストリーム2」は、ロシア政府が支援するプロジェクトで構成されるパイプライン網の一部だ。このパイプライン網は、かつてロシア政府が支配していた国のなかで最大かつ最も扱いにくい国であるウクライナを迂回することを意図しているように見える。他のプロジェクトとしては、ウクライナを迂回して黒海を経由して南方に至る「テュルク・ストリーム」などがある。

ドイツの複数の国会議員によれば、ワーニヒ氏は同プロジェクトに関する彼らの懐疑的な問い合わせに応えて、彼らの懸念をプーチン露大統領に直接伝えることを約束したという。こうなると、同パイプラインがロシア政府の戦略的利益にかなうものだという感触はいっそう強まる。

だが、ガスプロムにとっては理にかなっている。宣戦布告のないままロシアと交戦状態にある国を経由するのはリスクが大きいし、旧ソ連時代に建設されたウクライナ国内のパイプラインは老朽化しており、信頼性にも欠ける。

ドイツとEU諸国は、現行のガス輸送契約が2019年に失効する時点で、ウクライナ経由でのガス輸送の継続に向けて、ロシア・ウクライナ両国政府の合意を仲介しようと試みている。だが、これでは欧州消費者の負担によってウクライナを支える形になってしまうという批判もある。

ドイツの社会民主党内部では「ノルド・ストリーム2」に対する支持が根強い。SPD出身の最後の首相であるゲアハルト・シュレーダー氏は、退任後、ロシアの複数のエネルギー企業で役員の座に就き、プーチン氏を親しい友人として認めている。

シュレーダー氏の世代の多くにとって、ロシアとの協力は、彼らの英雄である1970年代のブラント首相による「東方外交」の流れを汲むものだ。ブラント首相は、懐疑的な米国政府に従わずにソ連陣営に手をさしのべた。今日ではこれが冷戦終結に向けた序曲になったと考えられている。

だが、SPD党内でも若い世代は、シュレーダー氏のロシア政府との親密さを批判することも多く、警戒心が強い。

ドイツとロシアのあいだには、数十年間にわたるエネルギー供給協力という絆がある。だが、ドイツは西側の同盟国にも何かを提示する必要がある、と当局者は言う。

ロシアとの協力は大いに進んでいる。先週、メルケル氏はロシアのラブロフ外相をベルリンに迎えた。ラブロフ外相には、ゲラシモフ参謀総長が同行していた。ロシアが2014年にウクライナからクリミア半島を奪って以来、EUでは入域禁止になっていた人物だ。

ロシア政府とのつながりを保つ政策は、ドイツ国内では人気がある。世論調査によれば、ロシアに対する好感度は、他のどの国と比べてもドイツが高くなっている。

だが当局者のあいだでは、ドイツが同盟国のあいだで面目を失うという点で、あまりにも高い代償を払いつつあるのではないかという疑問がますます高まっている。

(翻訳:エァクレーレン)

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