[東京 24日 ロイター] - 政府は24日の月例経済報告で、公式な景気認識を示す総括判断を小幅下方修正した。[nT9N22P02J]「回復」の文字を残し基調判断は維持し、今年10月の消費増税実施の方向性を確認した。
ただ、5月に入ってからの米中経済摩擦の激化は日本政府にとって想定を超えた展開であり、海外経済の減速が大きくなってきたと判断した場合の「増税延期」カードを、安倍晋三首相は手放していないとの声も依然として存在している。
5月の総括判断は「景気は、輸出や生産の弱さが続いているものの、緩やかに回復している」とした。
4月の文言から「このところ」と「一部に」との表現を削除。小幅ながら景気の減速感を表現した。中国経済の減速が続いている中で、トランプ米大統領が対中追加関税第3弾の実施を表明し、輸出・生産の回復が想定以上に遅れると判断せざるを得なくなったためだ。
項目別では、設備投資の判断を32カ月ぶりに引き下げたほか、生産も2カ月ぶりに引き下げた。
もっとも雇用・所得が高水準にあり、消費など「内需に腰折れ懸念はない」(内閣府幹部)との判断から、「回復」との判断は維持した格好だ。
<見通せない海外発のリスク>
市場関係者の一部には、2019年1─3月期国内総生産(GDP)の1次速報を受けて月例経済報告の判断が大幅に引き下げられ、消費増税延期判断の引き金になるのではないか、との見方が事前に浮上していた。
しかし、消費増税に関しては「実施を最終判断したわけでなく、しばらく様子を見る」(政府・与党関係者)とのスタンスだ。
複数の関係筋によると、政府が最終判断に踏み切れないのは、米中経済摩擦の激化による世界経済や日本経済へのマイナスの波及の程度を読み切れないためだ。
今回の月例報告では、米国が追加実施を表明している3250億ドルの対中輸入に対する追加関税第4弾の影響を織り込んでいない。「第4弾が発動されれば、大きな判断変更材料」と、ある政府関係者も認める。
また、今回はトランプ大統領が打ち出した中国通信大手華為(ファーウェイ)[HWT.UL]との取引制限についても、その影響度合いは「盛り込まれていない」(内閣府幹部)。
TDK6762.Tや住友電工5802.T、東芝メモリなどファーウェイ向け取引が大きい国内電機メーカーが少なくなく、日本の輸出・生産のさらなる下振れ要因となりかねない。
ある与党幹部は、米国の対中追加関税について「世界経済へのボディーブローを考えれば、そのショックはすでにリーマン・ショックを超えている」と延べ、増税延期の要件はそろったと解釈する。
<注目される安倍首相の最終判断>
他方、増税実施を主張する与党議員の間では、増税分を財源に充てることが決まっていた教育無償化の財源がなくなってしまうことや、日本国債への格下げリスク増大で、民間企業の格付けや外貨調達環境に悪影響が出るとの懸念が広がっている。
さらに増税延期には「企業などがシステム対応済みで、反発を招く可能性がある」(与党関係者)などの批判も根強い。
これに対し、安倍首相に近い本田悦朗・前スイス大使(TMI総合法律事務所顧問)はロイターとのインタビューで、無償化財源が不足すれば、国債発行で賄えばよいと主張している。
今後、安倍首相はフリーハンドを確保したうえで、様々な要因を比較検討の上、最終判断に下すとみられる。本田氏は「6月中に最終判断されるだろう」と述べている。
安倍首相がどのような決断をするのか、発言内容への市場の注目度は、一段と上がりそうだ。
竹本能文 編集:田巻一彦
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