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アングル:環境保護で脚光浴びる「緑の雇用」、希望と失望の現実

[バルセロナ 1日 トムソン・ロイター財団] - 環境にとって有益な商品やサービスを提供しつつ経済的にも成り立つ「グリーンジョブ(緑の雇用)」と呼ばれる仕事は今後、世界中で急増する見通しだ。

環境にとって有益な商品やサービスを提供しつつ経済的にも成り立つ「グリーンジョブ(緑の雇用)」と呼ばれる仕事は今後、世界中で急増する見通しだ。写真はソーラーパネルを設置する作業員。4月19日、北マケドニアのスコピエで撮影(2023年 ロイター/Ognen Teofilovski)

化石燃料産業の衰退とグリーン投資の拡大に伴い、クリーンエネルギーと自然保護の分野だけで、この10年間に数千万人分の雇用を創出する可能性がある。

しかし、グリーンジョブを巡っては、厳密にはどんな仕事なのか、どこで行われているのか、適正な賃金が支払われるのか、必要なスキルは何かなど、疑問が次々と浮かび上がる状況でもある。

米シンクタンク、RMIのシニア・ストラテジー・アソシエイトのニック・ペスタ氏は、労働者自身が国際機関の示す楽観的な見通しに疑問を抱いており、環境汚染産業で働いている人々の間に、特にそうした見方が強いと指摘した。

こうした疑問に答えなければ、産業や地域への悪影響を回避しながら社会を繁栄させる「公正な移行(Just Transition)」という目標を達成するのは難しい、との見解を示している。

注目されるのは、再生可能エネルギー分野のリスキリングが必要な石炭、石油、ガスの労働者だ。

一方で、専門家は若い世代が持続可能な職業を求める中、リサイクルファッションやカーボンアカウンティング(炭素会計)、都市型ガーデニング、電動バスの整備士などグリーンな雇用が新たに生まれつつあると指摘している。

エネルギー分野の雇用に関する予測にはばらつきがあるが、RMIの最近のリポートでは、化石燃料分野で失われる分を差し引いても平均でこの10年間にクリーンエネルギー分野において、2500万人相当の新規雇用が創出されると試算した。

国際労働機関(ILO)と国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の年次報告によると、2021年時点で再生可能エネルギー関連だけで既に1270万人分の雇用が生まれ、その3分の1を太陽光発電産業が占めた。

だが、RMIのリポートは「経済的な成功という約束がほごになったため、多くの人々がクリーンエネルギーの雇用に関する主張に懐疑的になっている」と分析している。

太陽光発電や風力発電の拠点は、化石燃料の採掘現場や発電所から遠く離れた場所にあることが多く「世界中で1200万人分の雇用が生まれたからといって、ウェストバージニア州の炭鉱労働者やナイジェリアの石油労働者が、非常に楽観的になることはない」と分析した。

環境汚染産業の労働者のスキルを向上させる取り組みは、始まっている。例えば、サンフランシスコの新築ビルでは、市の規制により、ガス設備施工業者が既存のパイプを廃水再利用向けに切り替える工事を手掛けることができるようになった。

豪鉄鋼大手フォーテスキュー・メタルズ・グループは運搬用トラックを自律走行車に切り替え、2030年までに化石燃料の使用をゼロにする計画で、採掘作業のデジタル化やグリーンエネルギー生産のための従業員のリスキリングを行っている。

<まずスキルから>

ペスタ氏らアナリストは、低炭素社会への円滑な移行の実現には、従来型グリーンジョブから、農業から輸送に至るあらゆる分野の変革を支援する新しいスキルに重点を移すよう求めている。

ビジネス特化型SNSのリンクトインは、2022年版のリポートで「われわれは今、グリーンな移行を実現するのに十分なグリーン人材、グリーンスキル、グリーンジョブを確保するには程遠い」状態であり「現実は厳しい」と警鐘を鳴らした。

2021年の世界の雇用者全体のうち、完全にグリーンな仕事とみなされる仕事はわずか1%。グリーンなスキルなしでも可能だが、通常は何らかのスキルを必要とする「グリーンに留意した仕事」でも9%に過ぎないという。

リポートは「全ての仕事が純粋なグリーンを必要とするわけではない」と強調。「太陽光パネルの製造だけでなく、サステナブルな衣料品のメーカー、車両管理者、営業管理者なども含まれる」としている。

一方、サステナビリティ関連のトレーニングを提供するAimHi Earthの創業者、マシュー・シュリブマン氏は、グリーンスキルの理解や定義が不十分であることが大きな問題だと訴えている。「ビジネスリーダーや政治家から求められているのに誰も実体を知らないという、奇妙な分断が起きている」と言う。

グリーンスキルは多くの場合、二酸化炭素排出量(CO2)の測定や太陽光発電設備の設置、建物の断熱改修などに欠かせない「ハードな」技術的スキルだと思われている。

しかし、シュリブマン氏は体系的な思考や危機管理、自然とのつながりなど、はるかに幅広い「ソフトな」能力を提唱、グリーンスキルの需要はあらゆる分野で急速に高まると予測している。

また、教育機関に対しても「機械になれ」「反復的な仕事をしろ」という従来の教育方法をやめて、部門間の壁を打ち破り、より広い関係を構築できるイノベーターや問題解決者を生み出すことが必要だと訴えた。

タフツ大学フレッチャースクールのレイチェル・カイト学長は「気候変動に関する科目の追加や持続可能性に関する資格の取得、専門学科の設置だけでは意味がない」と言う。

「私たちが行ってきたこと、そして他のいくつかの学校が行っていることは、獣医であれエンジニアであれ、卒業して働く分野へ向かう中で条件として気候変動について教えることだ」と強調した。

(Megan Rowling記者)

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