February 8, 2018 / 7:30 AM / 8 months ago

コラム:市場の敵は市場自身、株価暴落の「教訓」

Jamie McGeever

 2月6日、極めて高い水準を誇っていた世界の主要株価が暴落した衝撃音で、過去の危機を連想したかもしれないが、現在の市場構造は、多くの点において、リーマンショックの起きた10年前の状況とは比較にならないぐらい複雑だ。写真は7日、ニューヨーク証券取引所を眺める女性(2018年 ロイター/Brendan McDermid)

[ロンドン 6日 ロイター] - 極めて高い水準を誇っていた世界の主要株価が暴落した衝撃音で、過去の危機を連想したかもしれないが、現在の市場構造は、多くの点において、リーマンショックの起きた10年前の状況とは比較にならないぐらい複雑だ。

金融市場の混乱はこれまでも常に生じてきたし、今後もそれは変わらないだろう。しかし現在、資金フローやトレーディング戦略、資産価格をかつてないほどに動かしているのは、コンピューター主導のアルゴリズム取引モデル、そして「パッシブ(受動的)」投資だ。

人間味の欠如と今回の暴落スピードは、いくつかの疑問を生んだ。こうした状況に対し、市場に多少なりとも堅固な基盤があるのか。そして、記録的な低ボラティリティーによって醸成された市場の脆弱性が、最終的にはシステムに対する脅威になるのではないか──。

米国株式市場で5日、2011年以来最大の下落を引き起こした過去数日間の膨大な売りは、経済や政治、金融情勢に原因があるというよりも、「ボラティリティー」に由来している、というのが共通したコンセンサスだ。

このコンセンサスは同時に、市場の「ファンダメンタルズ」は依然として堅調だとの主張でもある。世界経済成長は2010年以降で最も力強く広範囲に及んでおり、銀行の資本構成は健全で、企業収益も成長を継続し、中央銀行の流動性供給も引き続きネットでプラスだ。

こうした状況下では、株価は上がるしかなく、ボラティリティーは上昇するはずがないように思われる。だが実際は、「ゴルディロックス(適温経済)」や「メルトアップ」のような最近の浮かれた言説こそが、すでに行き過ぎだった安心感を、さらに増幅させてしまった。

S&P500のインプライド・ボラティリティー(予想変動率)を示すVIX指数は5日、28年の歴史において最大の上昇を記録した。これが契機となって、ボラティリティー関連のヘッジング及びオプション取引プログラムが一斉に反応し、世界中の株式市場を席巻したのだ。

<1000億ドルの流出>

クレディスイスの国際資産管理部門で最高投資責任者(CIO)を務めるマイケル・オサリバン氏によれば、昨年300%近く上昇したショート・ボラティリティー商品は、この1日で約8割下落した。

ボラティリティーの急激な上昇によって、低ボラティリティーを前提としていたポジションやトレーディング戦略が、全てつまずいてしまったのだ。

ボラティリティーが低い場合、ある程度のリターンを確保するためにリスクを高く取ることが奨励される。ボラティリティーがさらに低下すれば、さらに大きなリスクを取る必要が生じるだろう。これを何年も続ければ、投入されるリスクインプットは危険な高さに達する。

今回のボラティリティー急上昇を契機として生じたシステマティック・トレード戦略による資金流出は、数日間で最大1000億ドル(約10.9兆円)に達する可能性があると、JPモルガンのマーコ・コラノビック、ブラム・カプラン両氏は試算している。

 2月6日、極めて高い水準を誇っていた世界の主要株価が暴落した衝撃音で、過去の危機を連想したかもしれないが、現在の市場構造は、多くの点において、リーマンショックの起きた10年前の状況とは比較にならないぐらい複雑だ。写真は2日、ニューヨーク証券取引所にて(2018年 ロイター/Lucas Jackson)

サクソバンクのスティーン・ヤコブセン最高投資責任者(CIO)は、市場にとって最大のリスクは、市場自体だと言う。なぜならポートフォリオ全体に占める各資産のリスクの割合が均等になるように保有する「リスクパリティ」ファンドに加え、アルゴリズム主導のプログラム売買、上場投資信託(ETF)やボラティリティー対象商品など、誰もが同じ戦略を追求するからだ。

しばらくは、その戦略は成功を収める。

VIX指数は昨年、9を割り込む過去最低水準まで低下。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチによれば約4410億ドルという空前の額を、投資家が株式ETFに突っ込んだことにより、リスク資産の価値は記録的な高さに舞い上がった。

<一方通行>

だが5日、VIX指数は過去最大の上昇を記録した。6日には40を上回った。これは10年前の世界金融危機以降で4度目だ。

2010年5月にギリシャ債務危機が噴出し、S&P500は2カ月間で17%下落した。2011年8─10月、ユーロ圏危機が最悪の状態を迎えていたこの時期、S&Pは2割下落。そして、中国が2015年8月に人民元を切り下げたことで、S&Pは10週間で12%下げた。

今回、米国株価はわずか6日間ですでに8%の価値を失った。この損失の半分は5日だけで生じたものだ。

サクソバンクのヤコブセン氏は、単純な経験則として、市場が2─3日で5─6%超下げない限り、「状況は改善するだろうし、ボラティリティーは次第に低下する」と語る。だが終値で継続して6─7%超下落する場合は、皆が急いで損失カバーと利益確定に走ることになる。

ここに危険が潜んでいる。アルゴリズムからリスクパリティ・ファンド、ETF、CTA(商品取引アドバイザー)、そしてボラティリティー戦略に至るまで、どれも同じようなポジションをとる。多くの点で、市場にとって最大のリスクは、市場自体なのだ。

「潤沢な流動性は、同時に、短期筋(ファストマネー)や、モデルやアルゴリズム主導の投資家が、ロングからショートへと迅速にポジションを切り替えることを可能にしてきた。これが価格の下降シフトを加速させた」。ケイムズ・キャピタルのスティーブン・ジョーンズCIOもこう語り、賛同を示した。

どの程度の「感染」をもたらすかは、今後明らかになるだろうが、これまでのところ、外為市場、信用市場、債券市場はかなりの程度影響を免れているようだ。

ドル相場は上昇するも小幅に留まり、ハイイールド債も上昇したものの、11月の水準に戻っただけだ。新興市場諸国ソブリン債のスプレッドは拡大したが、これも1カ月前の水準に戻ったにすぎない。ユーロ圏周縁国の債券スプレッドは、ほぼ安定している。

騒ぎが収まるまで、投資家は静観し、市場を「ハードボイルドなトレーダー」に委ねるべきだ、とジュリアス・ベアのチーフストラテジストとしてリサーチ部門を率いるクリスチャン・ガティカー氏は語る。 「現在見られるような市場の混乱は、トレーダーにとっての問題であって、投資家は関わるべきではない。原因も結果も不透明なのだから」

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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