January 19, 2018 / 1:04 AM / 7 months ago

コラム:賃金上昇でもインフレが起きない可能性

[ロンドン 16日 ロイター] - 世界各国で長期金利が上昇している。世界的な好景気、高水準でさらに上がり続ける石油価格、企業の活発な設備投資、ここ数年(国によってはここ数十年)で最も低い失業率など、インフレの兆候となるジグソーパズルのピースが揃いつつあるからだ。

 1月16日、世界各国で長期金利が上昇している。インフレの兆候となるジグソーパズルのピースが揃いつつあるからだ。写真は各国紙幣。2017年5月撮影(2018年 ロイター/Kai Pfaffenbach)

残る最後のピースは賃金上昇だ。世界経済が潜在成長率に近いペースで快調に飛ばし、先進諸国における失業率がこれだけ低い現在の環境下で、賃金上昇が始まるのは、時間の問題だろう。

ひとたび賃金が上昇し始めれば、少し先で常にちらついていたインフレが、私たちの真ん前にその姿を現すだろう。各国中央銀行は本当に緊縮政策を実施せざるを得なくなり、その波紋はあらゆる市場に及ぶことになる──。

以上ここまでが、「フィリップス曲線」を信奉し続けるエコノミストや投資家の一致した見解だ。すなわち、経済成長は雇用を増やし、失業率を引き下げ、賃金の上昇、ひいてはインフレをもたらす、というものだ。

だが、賃金上昇が常にインフレの材料になるとは限らない。今年もそのパターンだとすれば、政策金利や市場金利がどこまで上昇するかの予測を、投資家は根本的に改めなければならないだろう。

ナティクシスの米国担当チーフエコノミスト、ジョー・ラボルニャ氏は、さらに踏み込んだ意見だ。同氏によれば、米国では過去四半世紀にわたり、賃金上昇とインフレ、賃金上昇と失業率との相関は、「基本的にゼロ」だったという。

比較的好景気だった時期であっても、これほど長期にわたって賃金上昇がこれほど鈍くなった理由は、よく知られている。それは、テクノロジーの急速な進化、オートメーション、グローバリゼーション、労働組合の組織率低下、さらにはパートタイムやフリーランス、非正規労働による労働市場の細分化だ。

労働から資本に向かう富の移転が、近い将来、減速ないし停止、もしくは反転する兆候はほとんど見られない。

所得成長は、その増加分が貯蓄に回される場合、インフレをもたらすことはない。消費者の累積債務残高がいかに大きいかを考えれば、現在の環境下では、そうしたリスクが存在する。マッキンゼーによれば、「家計債務の増加ペースは依然として高く、レバレッジ解消はまれ」だという。

例えば米国の学資ローンや自動車ローンのように、国によっては特定の債務残高が過去最高水準に達している。借り手は、賃金が上昇しても、消費ではなく債務返済に充てるだろう。

すると、所得成長はどう配分されるのかという問題が生じる。世界の最富裕層はますます豊かになっており、クレディスイスによれば、世界の総資産のうち、上位1%の富裕層が保有する比率は、10年前の43%から、今や50%にまで達しているという。

こうした富裕層は、実際に消費をどれだけ増やす可能性があるのだろうか。

<崩れる生産性と賃金の相関>

実際に賃金上昇が始まると仮定しよう。

伝統的な経済理論では、賃金上昇は、ほぼ確実に生産性向上(今般の景気拡大ではそれが見られないことが特徴的なのだが)によって起きる。時間当たりの生産を増やした労働者は、より多くの時間給を要求するためだ。

だが、生産性向上はデフレ要因である。他の条件が同一であれば、単位時間当たりの生産量が増えれた場合、生産される財・サービスの名目価値は低下するからだ。

いずれにせよ、生産性と賃金の関係は崩れ去りつつある。

昨年発表されたOECDの論文は、次のように結論付けた。「過去20年間、ほとんどのOECD諸国における総労働生産性の伸びは、実質報酬の中央値の上昇とは切り離されていた。つまり、生産性向上は、労働者の実質賃金上昇をもたらすには十分ではないことを意味する」

また、所得成長がはっきりと確認できない場合、過去20年間における日本の経験が、グローバル金融危機後の市場経済の多くの側面と同様に、有益な手掛りとなるだろう。

2000年前後の3年間という短い期間を除けば、1950年代初頭以降、どの月を見ても、日本の失業率は米国のそれを常に下回っていた。日本の労働市場はほぼ一貫して米国市場よりもタイトだったのだ。

だが、賃金上昇とインフレには勢いがなかった。実際には、この期間の大半において賃金は低下した。

日本は数十年にわたりデフレと闘ってきた。タイトな労働市場にもかかわらず、2013年後半から15年後半までの期間を除けば、過去40年間、日本のインフレ率は米国のそれを一貫して下回っていた。

いずれにせよ、賃金上昇は、現在多くの人が予想するようなインフレの原因にはならない可能性は否定できない。

*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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