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コラム

コラム:「クリーンネルギー革命」は基軸通貨ドルの地位を脅かすか

[ロンドン 10日 ロイター] - 地球規模で石油から再生可能エネルギーへの転換が進んでいけば、世界各国が外貨準備として蓄えるべきドルの額が減るはずだ。この点から基軸通貨としてのドルの将来を巡る根強い疑念が拡大する可能性がある。

 地球規模で石油から再生可能エネルギーへの転換が進んでいけば、世界各国が外貨準備として蓄えるべきドルの額が減るはずだ。写真はドル紙幣。2011年8月、都内で撮影(2021年 ロイター/Yuriko Nakao)

投資を取り巻く巨大な潮流の中でも、再生可能・持続可能エネルギーへの移行加速と、ドル覇権の衰退は最大級の流れになっている。後者は何年も前から予想されてきたが、これまでは進行スピードは遅かった。

しかし前者が大きな動きになれば、後者にも圧力が加わる可能性がある。なぜなら石油輸出国の収入によって築かれた「オイルダラー」が、地産地消型で持続可能なエネルギー源への移行によって衰えるからだ。

新型コロナウイルス感染の世界的流行と、バイデン米大統領が気候変動への懸念と環境対策を優先課題に据えたことがきっかけとなり、再生可能エネルギーへの移行に弾みがついている。このことは、石油需要のピークすなわち「ピークオイル」が10年以内に訪れるという国際エネルギー機関(IEA)の予想に加勢するものだ。

IEAは、「クリーンエネルギー」政策が台頭し、地球温暖化対策の世界的枠組み「パリ協定」が順守されるという想定に基づき、世界の石油需要が20年弱で4分の1以上減ると予想している。

ドル建てで取引されている石油の利用が減り、風力、太陽光、水力発電など地産地消の電源が好まれるようになれば、世界中で膨張したオイルダラーがしぼんでいくかもしれない。1970年代に金本位制が停止されて以来、オイルダラーは世界最大級の産油国によって再投資されてきた。

アクサ・インベストメント・マネジャーのクリス・イゴー最高投資責任者(コア投資担当)は、世界の石油貿易、そして少数の産油国グループへの石油貿易依存が政治や物価を不安定化させ、致命的な悪影響をもたらしてきたと指摘。再生可能エネルギーの利用が進めば、その影響が中和され、より安価で地元産のエネルギー中心の体制に移行していくとの見方を示した。

イゴー氏は顧客向けノートに「政治は再生可能エネルギー開発への技術・資本供給に干渉することができるが、太陽と風をコントロールできる者はいない」と記す。

こうした中で、ドルの中心的な役割にも変化が生じるとイゴー氏は予想。 「再生可能エネルギーの持つ分散的でローカルな性質により、単一の通貨への依存は減るだろう」とし、「『オイルダラー』は過去の遺物になり、特定の通貨をドルにペッグ(固定)させる必要性も消えるだろう」と論じている。

<途方もない特権>

為替レートへの影響はみかけより不透明かもしれないが、それよりもっと重要な変化が起こる可能性がある。

1970年代に始まったオイルダラー体制の土台は、貧しく発展途上の中東諸国が、石油収入を直接・間接的にドル預金やドル建て債券に再投資するという構図にあった。こうした資金環流は、しばしばロンドンなどの巨大金融センターを通じて起こった。

これが一助となってユーロドル(自国以外の金融機関に預けられたドル)市場が台頭し、世界的にドルの流動性が高まり、ひいては1980年代のユーロボンド市場、後には銀行からプライベートエクイティから新興IT企業に至るあらゆる分野の成長を促す巨大なドルの流動性をもたらした。

しかしこの仕組みが何より後押ししたのは、何十年間も世界から巨額の資金を安く借り続けられる米国の地位、すなわち、世界の準備通貨を刷る「途方もない特権」と、世界のエネルギー・通商の表示価格や支払いや決済における「基軸通貨」たる地位だ。これらはしばしば批判を浴びてきた。

しかも主要産油国は、米国が石油の純輸入国ではなくなった今もなお、せっせと数千億ドルの米国債を買い続けている。

昨年11月の米統計をみると、外国人投資家が保有する米国債7兆ドルのうち、サウジアラビア、ノルウェー、アラブ首長国連邦の3カ国だけで2500億ドル以上を持っている。もっとも昨年は石油価格の急落により、1年間で保有額が500億ドル以上減った。

すべての産油国と、カストディアンを通じた間接保有を合わせると額はこの2倍を優に超えるかもしれない。

とはいえ、日本や中国など石油輸入国が保有する米国債2兆ドル超に比べると、この数字もかすんでしまう。ましてや自国の米連邦準備理事会(FRB)は、コロナ禍救済プログラムなどを通じて4兆ドルもの米国債を買い入れている。そして、少なくともFRBが発行残高の4分の1を保有して米国債市場を支えている限り、オイルダラーによる米借り入れコストへの影響は大幅に薄まったままだ。

世界を流れるオイルダラーの規模を把握するもうひとつの尺度として、政府系ファンド(SWF)の資産額がある。中東とノルウェーのSWFは、2019年までの10年間で2倍以上に増えて4兆ドルを超えた。

しかしこれらの資産は広く分散投資されている。石油収入の減少による為替レートと世界市場への影響を単純に予想できないのは、このためだ。

石油が今ほど支配的なエネルギーでなくなった世界では、こうしたドル需要も自然に減って外貨準備に大きな影響が出るのかもしれない。しかし世界中にあふれたオイルダラーは、過去20年にわたってあらゆる通貨に流れ込んできた。

石油価格は過去12年間に大きく振幅し、その動きは特にドルの対欧州通貨レートと強い逆相関を示してきた。この関係は、コロナ禍ショックとその後約1年間の回復期にあらためて証明された。

19年のニューヨーク連銀の論文によると、逆相関が始まったのは2000年以降のことだ。1980年代、90年代と赤字だった中東と北アフリカの経常収支は、石油価格の上昇に伴い2000年に黒字に転じた。

その後も油価が上がるにつれて黒字は膨らみ、欧州と欧州通貨に分散投資される資産の規模も膨張。そして油価が下がると逆の現象が起きた。

今後何十年間か、世界中でオイルダラーの必要性が衰えて石油輸出国の黒字が減り、油価とドルの相関も薄れるかどうかについては、今後の見ものだ。

(筆者はロイターのエディターです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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