[デトロイト 9日 ロイター] - 米ゼネラルモーターズ(GM)GM.Nのメアリー・バーラ最高経営責任者(CEO)は、2021年までに電気自動車(EV)事業を黒字に転換させる、という大胆な公約を投資家に向けてぶち上げた。
バーラCEOが詳しく語っていないのは、その主要自動車メーカーもまだ成功に至っていないEV事業の黒字化を、GMがどうやって実現しようと考えているのか、という点だ。
その答えは、独自のバッテリー技術、低コストで自由度の高い車体設計、そして中国を主要拠点とする大量生産に向けた、同社の「大きな賭け」だということが、GMや同社サプライヤーの現旧幹部6人、業界専門家6人に対するロイターの取材で明らかになった。
バーラCEOが描く野心的な黒字化目標を達成した場合、GMは2020年半ばまでに2つの異なる事業を抱えることになる。
つまり、北米でガソリンやディーゼルエンジンによるトラックやSUV、乗用車などの伝統的事業に注力する一方、中国を中心とするグローバルEV事業では、自動運転タクシーなど従量料金制サービスを手掛けるのだ。
今回の黒字化宣言は、消費需要というより政府の政策主導で動いてきたEV市場において、かなり思い切ったものだ。世界最大手のEVメーカーであるテスラTSLA.oでさえ、EVの低価格化が進まず、四半期で10億ドル以上もの損失を計上している。
バーラCEOとGMは、EVに巨額投資を行ってきた。投資家に対しては過去1年、最新モデル「シボレー・ボルトEV」の成功とコスト削減を武器にすれば、テスラにも太刀打ち可能と繰り返し説得してきた。
同社の戦略に詳しい関係者2人によれば、黒字化に向けた計画の重要な要素の1つは「EMC1.0」と呼ばれる新型バッテリーシステムで、これによりコバルト使用量を削減できるという。
リチウムイオン・バッテリーのセル材料の中で最も高価なコバルトは、この2年、自動車メーカーによる需要急増を見込んで価格が高騰しており、ロンドン金属取引所で今月に入り過去最高を更新した。
GMによる新設計のバッテリーでは、ニッケル使用を増やすことで貯蔵・生成するエネルギーを増大していると関係者は語る。同社幹部や提出された特許書類によれば、それ以外にも、バッテリーの車体組み入れの効率化、エネルギーフローの制御やバッテリーセル冷却に関するシステムの改善など、設計や技術上の改善にも取り組んでいる。
詳細は明らかにされていないが、これらの変更でバッテリーセルのコストを3割以上削減、現在の毎時1キロワット145ドルから、2021年には100ドル以下への低下が見込まれているという。
現在GMが「ボルトEV」で採用しているようなバッテリーパックの総コストは約1万─1万2000ドルで、車両価格3万6000ドルのほぼ3分の1に相当する、と専門家は試算する。
だが、GMの元エンジニアリング・ディレクターで現在はコンサルタントのジョン・べレイサ氏は、バッテリー価格は2021年には6000ドルまで低下すると予想する。同氏は「シボレー・ボルト・ハイブリッド」の開発に貢献し、GMによる初期のリチウムイオン電池の開発を主導した人物だ。
バッテリーの化学構造やパッケージングの改善によって、次世代「ボルト」では「バッテリーのコストをほぼ維持したまま走行可能距離を45%延ばすか、同じ走行可能距離のままコストを45%削減できる」とべレイサ氏は語った。
グローバルEVプログラム担当のパム・フレッチャー副社長などGM幹部からは、2020─21年に導入予定の新バッテリーシステムの詳細についてコメントを得られなかった。
確かに、世界の自動車販売全体に占めるEVの割合は、まだほんの僅かだ。他のメーカー同様、GMにとっても、独自のコスト削減や車両性能の改善だけでなく、需要増大が頼みの綱となっている。その牽引力となるのが、環境汚染対応と石油依存度の抑制を目指して中国政府が掲げたEV導入目標だ。
バッテリーと車両の設計や性能改善に加えて、GMは中国パートナーであるSAICと協力して、EV組立工場のコスト削減を進めている。複数の関係者によれば、両社は中国において、従来の自動車工場に比べてはるかに小規模で、よりシンプルかつ効率的なEV専用工場の建設を計画しているという。
<バーラCEOの強気な主張>
欧州における複数の赤字部門売却、不採算市場からの撤退、また2018年後半に投入が見込まれる収益性の高い化石燃料を使った次世代ピックアップトラック向け投資をバーラCEOが決定したことで、GMにはEV開発に投じる資金の余裕が生じている。
現在同社では1700人以上の技術者、デザイナー、研究者がバッテリーとEVの開発に取り組んでおり、その多くがミシガン州ウォレンのテクニカルセンターで働いている。2009年、米倒産法の適用申請した1週間後、GMはこの地に電池専門の研究センターを開設した。
業界アナリストによれば、同社のバッテリー・EVグループは世界最大級であり、これに匹敵するのは日本のトヨタ自動車7203.TとドイツのダイムラーAGDAOGn.DEだけだという。
近年、トヨタが特許を取得したバッテリー技術件数はGMを上回っているが、トヨタが力を入れているのは、GMの「ボルトEV」のような純粋に電池で動くEVではなく、ガソリンと電気のハイブリッド車「プリウス」シリーズ向けだ。
2010年以降、米国特許商標庁から入手可能な最新年度である2015年までに、GMではバッテリー技術に関する661件の米国特許を出願している。世界規模のライバルでこれを上回るのは、762件のトヨタだけだ。
バッテリーの取り組みに加えて、GMは次世代EV専用の新たな「プラグ&プレイ」車体構造を開発。関係者によれば、自由度が高くモジュラー方式となっているため、さまざまなサイズのバッテリーシステムに加え、燃料電池の搭載も可能になるという。
GMのグローバル製品開発部門を率いるマーク・ロイス上級副社長は、バッテリーのコスト削減戦略は、バッテリー化学構造の変更といった単体の改善にとどまらず、バッテリー関連技術やパッケージングなどの一連の継続的な改善だとロイターに語った。
「特効薬は存在しない」とロイス上級副社長は語る。また、目標達成のために必要な課題をGMがすべて解決したわけではないと述べ、「『製品開発』と呼ばれているのは理由がある」と付け加えた。
バッテリー技術における最新の開発や改良は公表されていないと、GMのフレッチャー氏は言う。「(量産化にこぎ着くまでは、新テクノロジーを)公開したくないと思って特許出願を選択しなかったものも、たくさんある」とフレッチャー氏はロイターに語った。
<「ボルト」の教訓>
2010年以降の特許出願記録を見ると、GMがバッテリー技術や、パッケージング、加工における改善を重視していることが分かる。同社の出願書類によれば、こうした改善は、バッテリー容量を増やし、1回の充電による走行可能距離を延ばすことに貢献している。
GMは現行バッテリーに関するノウハウを、「ボルト」向け電池や電子部品を製造する韓国LGグループと共同で培ってきた。
2016年10月に発売された「ボルト」は、大量生産されたEVとしては初めて1回の充電で200マイル(約322キロ)超の走行可能距離を実現し、販売価格は4万ドル以下に抑えられた。2017年の販売台数は2万3297台に達した。
テスラのセダン「モデル3」は価格3万5000ドルで、昨年の販売台数は1770台にとどまり、当初目標を大きく下回っている。
「ボルト」が発売され、消費者や専門家、株主などのあいだで広く好評を博したことは、バーラCEOとGMにとって画期的な出来事だった。
GM関係者はその時の心境をこう表現した。「何が可能なのかを考え直す契機となる、『ヤバい』瞬間だった」
(翻訳:エァクレーレン)
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