[ニューヨーク 10日 ロイター BREAKINGVIEWS] - ゴールドマン・サックスGS.Nはこれまで、世界各地で事業の扉をこじ開けるに当たって、「ゴールドマン」のブランド名を全面的に活用してきた。しかし今や、同社は他者の名前を使う手に出ている。今回は、別の有力ブランド、アマゾン・ドット・コムAMZN.Oだ。消費者向け金融事業拡大という野望達成に向けて、アマゾン出店者の一部を選定し、融資を提供する方針。
ゴールドマンは素晴らしいテクノロジーも有しているし、個人データというお荷物も過剰に背負い込まない。さらに、ライバルをしのぐ自信と、「有力者」とのコネを利用する術といった、昔ながらのゴールドマン的素質も健在といったところだ。
ゴールドマンにとっては、昨年のアップルAAPL.Oとクレジットカード事業で手を組んだのと同様、アマゾンとの提携で従来の事業構成に新たな彩りが加わる。招待してもらえる出店者はゴールドマンの消費者向け金融部門マーカスからの融資枠設定が得られる。マーカスの裏でゴールドマンは、出店者に関するアマゾンのデータを使って与信判断を行い、融資を継続していく。ゴールドマンにとって、自分のバランスシートに載ってくる、初めての中小事業者向け融資事業になる。
金融と電子商取引(EC)を融合するアイデアそのものはチャレンジされているし、実証もされている。特に中国でだ。10年前、アリババグループBABA.N9988.HKは出店者への融資事業を開始し、与信拡大で出店者たちのオンライン上の活動データを活用するようにした。
ゴールドマンの今回の取り組みも理屈は同様だ。ただし、ゴールドマンはアリババほど自由には振る舞えない。例えばアリババは出店者と買い手の間のやりとりを閲覧できるし、膨大な消費者データを入手できる。一方、今回のアマゾンの顧客は、ゴールドマンに何のデータがどんな形で提供されることになるのか、もっと警戒しそうだ。
ゴールドマンの最大のリスクは過信だ。これまで何十年も個人向け融資分野に携わってきたライバル行よりも、自分たちの方が効率的に、よりうまく融資できると考えている節がそれとなく伝わってくる。
もちろんゴールドマンには、この分野の新参者としての新鮮な視点がある。だが同社ならではのリスク評価の腕前は、常に小規模事業者向け融資に生かせるわけではないだろう。そうした腕前は本業の1つであるトレーディングの分野でも過去2年、いや金融危機の局面でさえ、必ずしも役に立ってこなかった。ソロモン最高経営責任者(CEO)はテクノロジーに十分な投資をしてきたが、それはライバル行も同様だ。
一方で、ゴールドマンの真骨頂は、適切な場面で友人を作る能力だ。2017年、アマゾンがスーパーマーケットのホールフーズ・マーケットを買収した際に、ゴールドマンは助言を与えた。1990年代には、窮地にあったアップルの資金調達を助けた。リフィニティブによると、ゴールドマンの起債やM&Aの全体の助言実績は、他の投資銀行を上回っている。ゴールドマンは一般大衆市場に近づこうとしているのかもしれないが、その戦略はなお、「有力者」とつながっているということにある。
●背景となるニュース
*アマゾン・ドット・コムは一部出店者向け融資事業でゴールドマン・サックスと提携している。具体的にはゴールドマンの消費者向け金融部門マーカスを通じて資金を提供する。
*融資を受ける出店者は、アマゾンにおける活動に関するデータをゴールドマンが収集することに同意するのが条件。ゴールドマンが融資先に他の商品を販売するためにこのデータを利用することはない。
*アマゾンは既に、バンク・オブ・アメリカと組む「アマゾン・レンディング」という特定出店者向け融資制度を導入している。ゴールドマンとの提携では、融資実行主体はアマゾンではなくゴールドマンになる。
*2016年設立のマーカスは、今年5月時点の預金量が800億ドルで融資残高は70億ドル。一方、アマゾン・レンディングが昨年実行した融資は10億ドルだった。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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