[オークランド(米カリフォルニア州) 24日 ロイター] - グーグルは前週、3Dビデオ会議システム「プロジェクト・スターライン」を発表した。パンデミック後の世界に向けた絶好のタイミングだが、システムを使ってみた3人の人物によれば、直接の対面とオンラインでのミーティングをシームレスに結合するための道のりは、まだかなり遠いようだ。
アルファベット傘下のグーグル、そしてマイクロソフト、アップル、フェイスブック などのライバルは、いずれも「複合現実(MR)」と呼ばれる新たな領域を、スマートフォンに続くコンピューター分野の新たなビッグウェーブとして捉え、その開拓に乗り出している。
「スターライン」では高額なカメラ、センサー、最先端のスクリーンを駆使して奥行きに錯覚を生み出すことで、別々の場所で専用のブースに着席したユーザーたちがお互いの姿を「等身大、3次元で」目にすることを可能にする。これがグーグルのうたい文句だ。
前週開催されたグーグルの年次開発者カンファレンスで、サンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)は「スターライン」を大々的に宣伝。何年もかけて開発したテクノロジーとして、画期的な奥行きセンサーやディスプレー、メディアアルゴリズムを自慢した。
だが「スターライン」はまだ初期段階にある。グーグルではメディアや医療関連企業とともに利用実験を計画しているというが、具体的な参加企業の名は挙げていない。さらに価格設定は発表しておらず、一般公開の時期も明らかにしていない。
ある情報提供者は、昨年以降の社内プレゼンテーションに触れ、「スターライン」に必要な機器は1ユニット数万ドルもかかると話した。これは複数の専門家による推定コストとも合致している。
3人の情報提供者は「スターライン」を使用したミーティングについて、直接顔を合わせるのとほとんど変わらないように感じられたという。ただし、それもシステムが正常に機能している限りの話だ。
「質感や服装の印象は……完璧だった」と1人は言う。だが残りの2人によると、相手が身体を動かすと、画像の乱れが見られたという。
グーグルはコメントを控えるとしている。
<テクノロジーの飛躍的発展>
だが、誰もが3Dに期待をかけているわけではない。ベライゾン・コミュニケーションズ傘下のブルージーンズの共同創業者であるアラグ・ペリヤナン副社長は、ユーザーは「創造性を育むような即興の会話」をするためのもっと簡単な方法を必要としていると主張。「特別設計のオフィスにある専用のハードウェアが必要な、予定調和的な交流」に疑問を投げかける。
とはいえ、大学の研究者やシスコシステムズなど会議用テクノロジー大手は、以前からずっと、オンラインチャットの没入感をもっと高めようと努力を重ねてきた。カメラの奥行きセンサー機能や画像処理テクノロジーの最近の飛躍的進歩により、そうした没入感の向上は可能になっており、ルッキング・グラス・ファクトリーやウープティクスといった新興企業は、中核となる部品をこれまでより低コストで開発しつつある。
複合現実テクノロジーについて複数の企業にアドバイスを提供しているアビ・バージーブ氏は「品質の良しあしは、技術が不可能だという言い訳にはもう使えない」と語る。
マイクロソフトは3月、没入型アプリを開発する企業向けに、同社のヘッドセット「ホロレンズ」などさまざまなタイプの機器で使えるソフトウェアキット「メッシュ」を発表した。「メッシュ」を使えば、バーチャルなデザインや文書をめぐる職場での共同作業に向けた3Dディスプレーの設定が可能になる。
昨年、ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ、シスコ、マイクロソフトといった企業のオンライン会議ツールの売り上げは、リモートワーク需要により急激に増加した。長期的にも、企業がオフィスとリモートワークを組み合わせたハイブリッドの業務プランを採用するなかで、好調な需要が維持されるものと予想されている。
「スターライン」企画を進めるグーグルの担当者は、以前は「カードボード」「デイドリーム」などのバーチャルリアリティ(仮想現実、VR)用ヘッドセットに取り組んでいた。だがこれらのプロジェクトはユーザーの拡大に苦戦し、ここ数カ月の間に中止された。
今のところの様子では、「スターライン」は医療分野で活躍することになりそうだ。カリフォルニア大学サンフランシスコ校のリサーチエンジニア、グレゴリッジ・クリリョ氏によれば、「スターライン」があれば、患者はかかりつけ医の診察室にいながらにして、遠距離にいる専門家の診察を受けることが可能になるという。
だが、たとえばバーチャルのフィットネス教室や、3人以上による交流などの場合に、「スターライン」が十分な安定性を示すかどうかはまだ不明だ。
このテクノロジーには扱いが難しい側面があり、予想外の問題も生じている。企業幹部向けのデモにおいても、「スターライン」はある時点でトラブルに陥った。昨年、この出来事について説明を受けた情報提供者によれば、「スターライン」は平均的な身長に合わせて調整されていたが、デモの参加者には背の高い人が多かったために発生したという。
この情報提供者によれば、当時「スターゲート」と呼ばれていた「スターライン」担当チームは、身長の高いユーザーにも対応できるように設計を修正すると話していたという。「スターライン」はまず開拓すべき顧客市場として企業幹部を想定しており、複数の調査によれば、企業幹部は平均よりも身長が高い傾向があるとされている。
そうした設計の修正が実際に行われたかどうかは、確認できていない。
(翻訳:エァクレーレン)
*記事の内容は執筆時の情報に基づいています。
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