January 22, 2019 / 7:21 AM / 6 months ago

コラム:米制裁に対抗、ロシア「脱ドル化」の現実味

[16日 ロイター] - 2016年の米大統領選挙でドナルド・トランプ候補の選対本部長を務めたポール・マナフォート被告が、ロシア情報機関との関係を指摘されているロシア側ビジネスパートナーに対し、非公開の選挙データを渡していた疑いがある。

 1月16日、米国による制裁に対して、ロシアのプーチン大統領が掲げる対抗策の1つは、ドルの利用を最小限に、あるいはゼロに抑える「脱ドル化」だ。写真は2018年、ドル紙幣とロシアのルーブル硬貨(2018年 ロイター/Maxim Shemetov)

この新情報は、公開された裁判資料によって明らかになったもので、連邦議会が対ロシア制裁を強化する根拠がさらに強化されることになりそうだ。

同じく重要なのは、ロシア政界にもその反響が及びそうだという点だ。ロシア政界では米国による制裁の影響に対する怒りといら立ちが増しているが、これは暗にプーチン大統領の指導力の否定にもつながる。

制裁に直面するプーチン大統領は、もっぱらナショナリズム的な論調を強め、米国の力を侮る態度をとっている。対抗策の1つは、ドルの利用を最小限に、あるいはゼロに抑えることだ。

プーチン大統領は、ドルの利用が米国系金融機関への依存につながるとみている。

だが、石油・天然ガスの輸出から主要な貿易契約に至るまで、あらゆる決済に広くドルが使われていることを考えれば、これは国際的に事業を展開するロシア企業にとっては危うい政策である。

プーチン氏の政策はロシア企業を支援するどころか、ビジネス上、非常に不都合であり、ロシア金融界の重鎮数人が、プーチン氏の手法に伴うリスクを公然と検証するという意表を突く措置に訴えている。

ロシア金融界の最重要人物の1人であるオレグ・ビューギン氏は昨秋、プーチン大統領に「脱ドル化」について警告し、この政策はドル建ての貿易に関係しているロシア企業にとって取引コストの増大をもたらすと指摘した。

ロシア連邦証券市場局長官や大手民間銀行の会長を務めたビューギン氏の主張は現実的だ。

世界の企業の大半が貿易契約を締結する際にドル決済を選んでいるときに、ロシア政府がドルの使用を禁止すれば、ロシア企業が何を売るにせよ、よけいな外為取引を追加で行う必要が出てくる。これにはコストも時間もかかり、ロシア企業のビジネスに負担をかけることになる、というものだ。

欧州復興開発銀行(EBRD)のチーフエコノミストを務めるセルゲイ・グリエフ氏は、さらに批判をヒートアップさせる。グリエフ氏はロシアの主要経済紙ベドモスチに対し「ロシアは、その開発段階や教育水準の高さを考えると、予想よりもはるかにひどく腐敗している」と語った。

ロシアで政府の政策に異議を唱えることは容易ではない。国家はすべてのテレビネットワークを統制しており、ソーシャルメディアへの統制も強めつつある。外国資本が印刷メディアの株式を20%以上保有することを禁じる2015年の法律のおかげで、ロシアの新聞は自己検閲を学ばざるを得なくなった。

たとえばロシアのメディアグループであるRBCは、マナフォート被告が提供したとされるデータを「社会学的な調査結果」と表現し、トランプ大統領の就任式に出席したウクライナ人に関する記事では、マナフォート被告の供述についていっさい触れなかった。

ロシア政府寄りの新聞は「マナフォート被告はロシア情報機関の関係者と協力したのか」という見出しの記事で、このデータを「共和党が実施した社会意識調査」と表現した。だが、米大統領選の期間中、ロシアがソーシャルメディアによる意図的なデマキャンペーンをどのように活用していたかという文脈抜きでは、「意識調査」という言葉は穏やかで些細なものに思える。

ロシア政府の支配下にある西側向けのメディア(「ロシア・トゥデイ」や「スプートニク」)による報道は、さらに恥知らずなものだ。

米紙ニューヨーク・タイムズは当初、マナフォート被告から情報を提供されたとされる人物を誤って報じ、すぐに訂正したものの、(これらロシア系メディア記事の)やり玉に挙がってしまった。

マナフォート被告のビジネスパートナーであるコンスタンティン・キリムニク氏を通じてデータを受け取ったのは、プーチン大統領の信望厚いオレグ・デリパスカ氏ではなく、ウクライナ系の新興財閥経営者2人だった。上記のロシア系メディア2社は、このウクライナ系経営者がロシアと密接に連携している(したがってロシアにとっては優れた連絡役である)点には触れず、ニューヨーク・タイムズの記事を「ロシア嫌い」の新たな1例として紹介したのである。

ベドモスチ(「記録」の意)紙はビューギン、グリエフ氏らにロシア政府に対する警告を発する場を与えている。米紙ウォールストリート・ジャーナルと英紙フィナンシャル・タイムズの合弁事業として誕生したベドモスチは、2015年に外資による過半数所有が禁じられたことにより、ロシア資本となった。

オーナーのデミヤン・クドリャフツェフ氏は、ソ連崩壊の頃に成人を迎えた。新興財閥経営者ボリス・ベレゾフスキー氏の盟友、ウクライナ「オレンジ革命」の活動家、インターネット起業家、また別の大手ロシア紙の総支配人など、カメレオンのようにさまざまな役割を演じ分ける人物である。

ロシア中銀総裁を務めたセルゲイ・ドゥビニン氏はベドモスチの記事の中で、最近行われた米国人弁護士らとのやり取りを紹介しているが、そこではプーチン氏がもたらす政治的リスクの大きさが浮き彫りにされている。

ドゥビニン氏は、米国の銀行がロシアの銀行との取引を禁じられた場合、一般のロシア国民が保有するドル建て預金はどうなるのか尋ねた。中央銀行総裁の経験を持つ同氏は、そのような制裁によってロシア国内のドル建て銀行口座はすべて凍結されるものと理解している。

米国人弁護士らによれば、米国内での考え方には2つの陣営があるという。一方は、最大限に厳しい制裁の方がロシア政府に対する圧力が増すという考え方。もう一方は、一般国民は除外したいという考え方である。そのどちらが主流になるかという判断は「政治的」なものになるとドゥビニン氏は考えている。

プーチン政権の側からは、政治的な思惑は今のところ聞こえてこない。マナフォート被告とそれ以外のトランプ氏側近との共謀が明らかにされていく中で、制裁は強化される可能性が高く、ロシア企業はさらに苦境に陥ることになる。

結局のところ、トランプ大統領はプーチン大統領が期待していたほど役には立ちそうにない。米連邦議会は、ロシアによるクリミア併合を承認するどころか、米大統領に制裁強化を余儀なくさせている。ロシア国会はシャンパンで乾杯してトランプ氏の当選を祝ったが、ロシアの評論家の1人は最近、トランプ氏について「ロシアの首にぶら下がっている岩」と評した。

ロシア情報機関とトランプ陣営の共謀がさらに暴露される可能性があるため、米国政府による制裁が解除される見通しは暗い。問題はプーチン氏がどう対応するかだ。彼は引き続き、新興財閥の友人たちに、金融的な孤立への引きこもりを支持するよう求めるのか。それとも、ロシアはグローバル金融市場の一部であるという現実を受け入れなければ、自身の政治生命も危ういことを認めるのだろうか。

ドゥビニン氏自身は、自分のドル建て口座をすでに閉鎖したと話している。彼はさらに、ソ連式の「閉鎖経済」は、「テクノロジーと食糧供給の停滞」をもたらすだろうと警告する。このような展望を示されれば、いかにプーチン氏が強力な指導者であろうと、平均的なロシア国民の支持を得られる可能性は低い。

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*筆者はシティバンクNAで中東欧の法人ファイナンス責任者を務めた。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

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