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コラム:日銀、物価目標達成までマイナス金利を継続するか=鈴木明彦氏

[東京 4日] - 2016年9月の金融政策決定会合で、日銀は総括的な検証に基づき、金融緩和強化のための新しい枠組みを決定、金融政策は大きく転換された。その連想からか、今月の金融政策決定会合で発表される予定の金融緩和の「点検」でどのような政策変更がなされるのか、関心が集まっている。

 2016年9月の金融政策決定会合で、日銀は総括的な検証に基づき、金融緩和強化のための新しい枠組みを決定、金融政策は大きく転換された。その連想からか、今月の金融政策決定会合で発表される予定の金融緩和の「点検」でどのような政策変更がなされるのか、関心が集まっている。写真は日銀本店前。2020年5月撮影(2021年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

もっとも、総括的な検証が行われたのは、黒田東彦日銀総裁の異次元緩和が行き詰まりを見せていた時だった。マネタリーベースをいくら増やしても金融緩和効果が表れず、2年間の約束期間を過ぎても2%の物価目標は達成できなかった。

その際に導入された新しい枠組みは、いくつかの修正を経ながら、新型コロナウイルス禍にあっても日銀の金融政策の基本として機能している。むしろ、新型コロナ対応に踏み出すことで、日銀はこの枠組みの中で強力な金融緩和の手段を手に入れたとも言える。

現在、2%の物価目標は相変わらず達成できていないが、総括的検証の時と異なり、日銀の金融政策は行き詰っていない。日銀が今回の金融緩和の点検について、今の枠組みを変更することにはならないと強調するのはこれが理由だ。

<政策微調整にとどまるとの思惑>

金融緩和の点検の結果、黒田日銀の金融政策に何らかの修正が加えられるのか。この点については、政策の微調整にとどまるとの見方が広がっている。具体的には、誘導目標である10年国債金利の変動幅を拡大させる、あるいは上場投資信託(ETF)の購入ペースを抑えるといった政策調整だ。

10年国債金利の変動幅を広げることは、日銀が大量の国債購入によって金利を人為的に低い水準に抑え込む状況を和らげ、イールドカーブのスティープ化という効果も期待できる。また、ETFの購入を抑えることは、株式市場の過熱を回避することにもつながる。

今回の金融緩和の点検ではこうした微調整を打ち出すことになりそうで、大きな政策変更が示されることにはならないのではないか。

そもそも、10年国債金利の上下0.2%程度の変動幅という現在の誘導目標は、政策決定会合で正式に決まったことではなく、会合後の記者会見で総裁が口頭で披露した政策のめどにすぎない。今月の会合後の記者会見で総裁がその幅のさらなる拡大を示唆するとしても、政策としての中途半端な位置付けが解消されるわけではない。

そうした曖昧さをなくすため、政策決定会合では10年金利の誘導目標をレンジで示すという決定がなされる可能性はある。ただ、その場合でも変動幅はプラスマイナス0.25%が限度だろう。それ以上広げてしまうと、調節の現場の裁量で金融政策の事実上の変更ができるようになってしまう。

ETFの購入についても、購入ペースを抑えたり、購入頻度や規模にメリハリをつけたりということはできても、ETFの売却には踏み込めない。

もとより、中央銀行である日銀がETFを大量に購入し、民間企業の大株主になることは、正常な姿ではない。ましてや、株価が30年ぶりの高値を付けるまで上昇しているのに、日銀がETFの購入を続けることには無理がある。

ただ、ETFについては、日銀が売却をにおわせただけでも、株価が暴落する恐れがある。ETFの売却を始めるには、かなり入念な準備が必要だ。今は購入ペースを落として、日銀保有残高の拡大を抑えることに専念すべきだろう。

<コロナ後を見据えた準備>

米金利の上昇もあって日本の10年金利は上昇し、ETFの購入ペースもすでに抑制されている。今回の点検で予想される政策の微調整は、こうした現状を追認するだけの意味合いになる。日銀は、すでに上昇している10年金利をさらに押し上げる気はない。

しかし、こうした微調整だけでは金融緩和の点検にならない。変動幅の拡大やETFの購入抑制は金融引き締めの印象すらある。

日銀が金融緩和の点検によってめざす本丸は、そうした微調整ではなく、2%の物価目標実現のためのより効果的で持続的な金融緩和を展開することだ。それは日銀にとってコロナ後を見据えた準備としての意味が大きい。

今年は日本でもワクチンの接種が始まるが、国民に広く接種が進み、免疫効果が広がって、感染が収まってくるのはかなり先になるだろう。その間、強力な金融緩和が長期に続くとなると、将来のバブルの懸念も出てくる。

さらに、強力かつ長期にわたる金融緩和でマネーストックがバブル期並みに増加しても、物価は下落している。エネルギー価格の大幅低下やGOTOトラベルによる宿泊費の急低下など、特別な要因が影響しているとはいえ、2%の物価目標を実現するには程遠い状況にある。

新型コロナの感染が収まっても、デフレ脱却のために今の強力な金融緩和を続けるべきという意見が強まるのは確実だ。

<マイナス金利の深掘りはしたくない日銀>

金融緩和の点検について、政策金利のマイナス幅深掘りの思惑が出てくるのは自然な流れだろう。確かに、イールドカーブを立てたいのであれば、短い金利を下げることは矛盾しない。

しかし、日銀はマイナス金利の深掘りをしたくない。マイナス金利政策は導入する時から反対意見が多く、導入後もその適用は日銀当座預金の一部に限定されていた。2016年の新しい枠組み導入以降は、イールドカーブ・コントロールの導入などマイナス金利政策の弊害を軽減する取り組みがなされてきた。

2019年10月に、マイナス金利深掘りの思惑が高まった時に日銀が決めたのが、新たな政策金利のフォワードガイダンスだ。このガイダンスは今も続いているが、政策金利は、現在の長短金利の水準、またはそれを下回る水準で推移することを想定している。

このガイダンスについて、日銀は長短金利水準が政策金利を下回ってきた時は、政策金利の引き下げ、つまりマイナス金利の深掘りも辞さない姿勢を示すものとした。しかし、イールドカーブ・コントロールによって、長短金利の水準が政策金利を上回るように誘導できれば、政策金利を据え置いて深掘りを回避できる抜け道が用意された。今はそれが効果を発揮している。

<物価安定目標と連動させたマイナス金利継続>

もっとも、今はコロナ禍にあって少し状況が変わってきた。新型コロナ対応金融支援特別オペによる資金供給が急増している理由の1つに、利用残高見合いで日銀当座預金に0.1%付利されることが挙げられる。

お金を借りて利息がもらえる実質的なマイナス金利の導入によって、金融機関はもともとのマイナス金利のコストを相殺できるようになった。日銀から見ると、金融機関がお金を遊ばせておくと利息をとる罰則金利としてのムチのマイナス金利があるおかげで、プラス付利というアメのマイナス金利による緩和効果を高めることができるようになった。

日銀はマイナス金利の深掘りはしたくないが、マイナス金利政策は続けてもいいと思っているのではないか。一方、リフレ派の審議委員の中には、政策金利のフォワードガイダンスを、物価目標と関連付けたものに修正すべきと主張する委員がいる。

2%の物価目標が安定的に実現するまでマイナス金利政策を続けるとコミットすることが、現実的な策として考えられる。

無担保コールレートが、事実上の政策金利のようにゼロ%近くで安定的に推移しており、マイナス金利の弊害は一段と軽減されている。マイナス金利の継続をコミットして時間軸効果が出てくれば、10年金利の急上昇を防ぐこともできる。

これなら2%の物価目標を実現するためのより効果的で持続的な金融緩和の点検という看板にふさわしい見直しとなるのではないか。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*鈴木明彦氏は三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究主幹。1981年に早稲田大学政治経済学部を卒業し、日本長期信用銀行(現・新生銀行)入行。1987年ハーバード大学ケネディー行政大学院卒業。1999年に三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)入社。2009年に内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、2011年に三菱UFJリサーチ&コンサルティング、調査部長。2018年1月より現職。著書に「デフレ脱却・円高阻止よりも大切なこと」(中央経済社)など。

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