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コラム

コラム:英中銀、使いたくない「マイナス金利砲」

[ロンドン 4日 ロイター BREAKINGVIEWS] - ロシアの劇作家チェーホフの舞台に銃が登場したなら、それはいずれ火を放ち、人を死に至らしめる定めだ。イングランド銀行(BOE、英中央銀行)のベイリー総裁は新たな金融政策の武器をあつらえたが、それが「チェーホフの銃」にならないことを願っているだろう。

 英中銀は2月4日、市中銀行に対し、今から6カ月後以降はいつでもマイナス金利政策に対応できるよう、準備を求めた。2020年3月、ロンドンで撮影(2021年 ロイター/Toby Melville)

英中銀は4日、市中銀行に対し、今から6カ月後以降はいつでもマイナス金利政策に対応できるよう、準備を求めた。諸外国の中銀は過去に、こうした正式な事前通告をせずにマイナス金利政策に突入した。しかしBOE傘下の健全性規制機構(PRA)は、すべての英国の銀行が必要なシステムや手続きの変更を行うには、少なくとも6カ月を要するとの認識を示した。

ベイリー総裁はPRAの見解について、マイナス金利政策の導入を予定しているという合図ではないと強調する労を取った。仮にマイナス金利政策が必要になった場合に実行できるよう、入念に準備しているだけだと説明した。マイナス金利政策の「発砲」が近いと覚悟していた金融市場はこのメッセージを理解し、ポンド相場は跳ね上がった。

ベイリー氏は1月、マイナス金利政策を導入すれば銀行は利ざやの確保が難しくなり、企業向け貸し出しに支障が出る恐れもあると指摘していた。とはいえ、ある時点で引き金を引かざるを得なくなる可能性は残っている。

何よりもまず、英国で現在実施されている新型コロナウイルス感染拡大阻止のための制限措置は、中銀が昨年11月に想定していた内容よりも厳しい。つまり今年1―3月期の景気は従来の見通しよりも弱くなるだろう。もちろん、中銀の予想通りに事が運べば杞憂に終わる可能性はある。

中銀の最新の経済見通しは、数四半期中に制限措置が緩和され、家計支出が回復することを中心シナリオに据えている。しかも英国と欧州連合(EU)が結んだ新たな貿易協定の主要部分は、中銀が11月の経済見通しで想定した内容と非常に近い。つまり、経済への打撃は中銀の想定と同程度になるはずだ。中銀の想定では、EUとの貿易に障壁がない状態が続いた場合に比べ、新協定の下で英国の貿易は10.5%前後、国内総生産(GDP)は3.25%程度、長期的に減少する見通しとしている。

しかし物事が想定通りに進まないこともあり得る。ワクチンが効かない新型コロナ変異株が出てくれば、制限措置を解除しては再開する繰り返しが続くかもしれない。EU離脱絡みの摩擦によって、経済にもっと深刻な影響が及ぶ恐れもある。ベイリー総裁が最良のシナリオを願うのは自由だが、適切なのは最悪の事態に備えることだ。

●背景となるニュース

*イングランド銀行は4日の金融政策委員会(MPC)で政策金利を0.1%に据え置き、資産購入プログラムの総規模も8950億ポンドに維持した。

*BOE傘下のPRAは、市中銀行がマイナス金利に対応するには少なくとも6か月間の準備期間が必要になるとの認識を示した。銀行から意見聴取した結果、「6カ月よりも短い期間では業務運営上のリスクが高まる」ことが示されたとした。

*3日に終わったMPCの議事要旨によると、中銀は将来のある時点で政策金利をマイナス圏に下げる意向だというシグナルを送ることは望んでいない。ただ、仮にそうした政策が必要になった場合に銀行が対処できるよう、準備を始めるのが適切だと考えている。

*PRAトップを務める中銀のウッズ副総裁は4日付の銀行向け書簡で、「今から6カ月後以降、銀行がいつでもマイナスの政策金利に対応できるよう」、PRAは銀行と協力していくと表明した。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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