for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up

アングル:「職も住む場所もない」 上海封鎖でさまよう出稼ぎ労働者

[北京 27日 ロイター] - 上海が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として厳格なロックダウン(都市封鎖)に突入したのは2カ月前。ソン・ウーさん(22)がウェイターとして働くフレンチレストランは休業に入った。農村から都市に働きに出ている他の多数の人々と同様、ソンさんは仕事を失った。

5月27日、 上海が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として厳格なロックダウン(都市封鎖)に突入したのは2カ月前。ソン・ウーさん(22)がウェイターとして働くフレンチレストランは休業に入った。写真は12日、上海の路上で歯を磨く配達員の男性。封鎖のため自宅に戻れていないという(2022年 ロイター/Aly Song)

ソンさんは生計を維持するため、ロックダウン下の住民向け政府配給物資を仕分けする仕事を手伝って1日250元(約4800円)を稼ぎ、新型コロナ対策のルールに従ってそれまで住んでいた宿舎を出て作業現場である倉庫で暮らすようになった。

だが3週間後、ソンさんは倉庫を離れざるをえなくなった。同じレストランの受付で接客係として働いていた、やはり出稼ぎ労働者であるガールフレンドが緊急治療を受けなければいけなくなったためだ。

4月25日、コロナ禍で救急体制が手一杯のため、ソンさんは500元で配送バンの運転手を雇い、2人で病院に向かった。その晩、ガールフレンドは胃嚢胞の摘出手術を受けた。

ソンさんは5月6日の退院まで彼女に付き添い、退院祝いに花をプレゼントし、宿舎まで送り届けた。

だが、ソンさん自身には戻る場所がなかった。

厳しい新型コロナ対策ルールのため、倉庫には戻れなかった。元の宿舎には、必要な期間隔離生活を送れるようなスペースがない。鉄道も運休になっていたため、3000キロ離れた中国南西部の雲南省・大理にある実家に戻ることもできなかった。

「八方塞がりのように感じた」とソンさんは言う。

中国の妥協なき「ゼロコロナ」政策は、世界第2位の規模を誇る同国経済に大打撃を与えた。2500万人の上海市民の多くは、収入減少や食品入手の困難、精神的なストレスを訴えている。だが、それよりはるかに困難な状況に追い込まれているのが、在宅勤務もかなわず安定した給与を得ることもできない、農村出身の出稼ぎ労働者だ。

中国の広大な農村地帯を出身地とする2億9000万人超の出稼ぎ労働者は、工場や建設現場、レストラン、その他の低熟練労働に就くために、特に沿岸部の巨大都市へと集まっている。多くは安定した契約ではなく時給や日給計算で報酬を得ており、繁忙期には月1万元以上稼ぐ者もいるが、ほとんどははるかに少ない所得に甘んじている。

こうした低コストの労働力に支えられて、上海や深センは中国の繁栄を担う拠点に変貌してきた。

今年、最高指導者として過去に例のない3期目に入るとみられている習近平国家主席は「共同富裕」を優先課題として掲げている。だが、ロックダウンにより多くの出稼ぎ労働者が不安定な状況に追い込まれ、中国社会の深部に潜む格差が浮き彫りとなった。

出稼ぎ労働者の苦境は同情を集めており、ソンさんのようなエピソードはネットで拡散されている。とはいえ、ロックダウンがもたらす困難は広範囲に及んでいるため、出稼ぎ労働者を特に支援する措置を求める声は、きわめて稀だ。

<野宿生活>

出稼ぎ労働者によくあることだが、ソンさんもその場しのぎの対応しか取れなかった。

駐輪場から自転車をひっぱり出したソンさんは、小綺麗なオフィスタワーを横目に、小さなテントを広げる場所を見つけようと人影の絶えた上海の道路を走った。旅行のためにガールフレンドとともに購入したテントだ。

「彼女は入院中まったく涙を見せなかった」とソンさんは言う。「でもあの夜は、泣く彼女を置いてくるしかなかった」

最初の夜は地下鉄の駅近くの緑地にテントを張った。次の夜は公園、それから休業中のショッピングモール、そして屋根のある歩道橋。絶えず、警備員から追い立てられた。

日中は、ガールフレンドの暮らす寮の壁の隙間を通じて言葉を交わしながら、彼女が作ってくれた料理を食べる。

自転車を走らせる間に、自分と同じようなホームレス状態の出稼ぎ労働者を「何百人も」見かけた、とソンさんは言う。

ホームレスとはならなくとも、多くの出稼ぎ労働者は混み合った宿泊所に押し込められるか、自分の働く工場や建設現場で夜を過ごしている。トラック運転手も、検疫措置を受けなければ都市を通過できないため、何日も幹線道路上で過ごしている。

トロント大学で中国の政治・労働問題を研究するダイアナ・フー氏は、「出稼ぎ労働者はまたしても低コストで使い捨ての存在として扱われている」と話す。

<絶望の中で>

ソンさんが路上で過ごした7日目の夜、激しい雨が降った。途方に暮れたソンさんは、警察に助けを求めた。

「(警察官には)自分で何とかしろと言われた」とソンさんは言う。

絶望したソンさんは、ソーシャルメディアに投稿した。

ソーシャルメディアサイト「微博」への5月12日の投稿で、ソンさんは「公園でも寝たし、プラザでも寝た。午前3時に陸家嘴にいて、自分と同じ住処のない野良猫に餌をやった」と書いている。陸家嘴は、上海の金融街だ。

「食事のできる居場所が欲しいだけだ」

この投稿は広くシェアされ、出稼ぎ労働者のための支援制度がないことへの怒りを呼んでいる。この問題の根底には、1950年代に設計された「戸口」と呼ばれる戸籍制度がある。

出稼ぎ労働者の場合、働いている都市での「戸口」を持たないため、教育や医療その他の公共サービスを利用できないことが多い。

ソンさんへの同情が高まる一方で、政策担当者の関心は、都市部の若年失業者の問題にあると見られている。

出稼ぎ労働者の失業率は6.6%で、全体の失業率をわずかに上回るにすぎない。対照的に、都市若年層の失業率は過去最高の18.2%まで上昇している。パンデミック下で企業の採用が縮小する一方で、民間教育やテクノロジーなどのセクターにおける規制が強化されているためだ。

農村からの出稼ぎ労働者の苦境について中国民政部にコメントを求めたところ、パンデミック中の出稼ぎ労働者救済措置の要旨を紹介された。それには「感染症のために苦境に陥っている者の救済や支援の取組みを特に重視している」と書かれている。

こうした救済・支援措置には、専用相談窓口の開設や、失業保険に未加入で3カ月以上仕事に就いていない出稼ぎ労働者などの困窮者に向けた一時助成金といった内容が含まれている。

「微博」への投稿が拡散された翌日、別の警察官からソンさんに連絡があった。ソンさんは政府が運営する検疫センターに送られ、別の出稼ぎ労働者と共にもっと大きなテントで暮らすことになった。

上海はまだ概ねロックダウン下に置かれているが、一部の列車は運行を再開している。ソンさんとガールフレンドは26日、500キロ南にある泰洲市に向かう列車に乗った。そこにはソンさんの家族がいる。

2人はそこで2週間にわたる隔離を受け、上海が通常の状態に戻るのを待つつもりだ。上海は6月にロックダウンを解除する計画を示しているが、解除がどの程度の範囲・ペースで進むかはまだ不透明だ。

「この悪夢が終っても、また次の悪夢が始まるのだろう」と、ソンさんはつぶやいた。

(Martin Quin Pollard記者、翻訳:エァクレーレン)

for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up