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フォトログ:ロックダウンと悪性腫瘍、隔離治療に入った我が娘

[タロロック(マルタ) 9月28日 ロイター] - 不思議なことに、私の家族の生活を一変させた外科医の顔をはっきりと思い描くことができない。街で偶然出会っても、その人と分かるかどうか自信がない。それでも、14歳の娘の肩のレントゲン写真を見た瞬間、その表情がさっと青ざめたことはありありと思い出せる。

9月28日、娘が訴える慢性的な痛みは、最初、よくある炎症だろうと診断された。次いで筋肉に何か問題があるかもしれないが、少し理学療法を施せば治ると診断された。だが2019年10月31日、それが非常に悪性度の高い珍しい骨腫瘍、「ユーイング肉腫」であることが分かった。写真はマルタの病院で、最後の放射線療法を終えて笑顔を見せるレベッカ・ザミットルピさん(2020年 ロイター/Darrin Zammit Lupi)

娘が訴える慢性的な痛みは、最初、よくある炎症だろうと診断された。次いで筋肉に何か問題があるかもしれないが、少し理学療法を施せば治ると診断された。だが2019年10月31日、それが非常に悪性度の高い珍しい骨腫瘍、「ユーイング肉腫」であることが分かった。

(2020年 ロイター/Darrin Zammit Lupi)

レベッカ(ふだん私たちは「ベックス」と呼んでいる)は、突然、命を賭けた戦いに巻き込まれた。

私たちはイタリアとアフリカのあいだ、地中海に浮かぶ小さな島マルタに住んでいる。最初に私たちが言われたのは、娘が手始めに9サイクルにわたる化学療法を受け、その後、英オックスフォードにあるナフィールド整形外科センターで、骨を人工骨に置き換える手術を受ける必要がある、ということだった。

だが6ヶ月も経たないうちに、ベックスの戦いの展望はいっそう悪くなった。全世界的なパンデミックのせいで、免疫システムが弱まっている娘がウイルスに感染するのではないかという悪夢、医療のサプライチェーンが混乱する懸念、そして何よりも最悪なのは、家族が共にいることが何よりも必要な時期に離ればなれになってしまうことだった。

(2020年 ロイター/Darrin Zammit Lupi)

治療を重ねるあいだ、ベックスは綿密な経過観察を受けられるよう入院した。妻のマリサ(「マース」)は娘と共に病院に留まった。私はロイターの写真記者としての仕事を続けながら、毎日見舞いに行った。

だが3月15日、マルタ島で新型コロナウイルスの感染者が出たことで状況は変わった。日曜日だった。私は救出された移民の到着を取材していた。この15年間、実に頻繁に取り上げてきたテーマだ。そこへ、マリサがパニック状態で電話をかけてきた。病室もロックダウンの対象になる、と彼女は言った。

その翌日から、年少者や脆弱性の高い患者を感染から守るため、院内にいる者は院内に、院外にいる者は院外に留まることになった。私たちは急いで生活を見直す必要に迫られた。このロックダウンがどれほど長く続くのか見当もつかなかった。私は機材を家に放り出して病院に駆けつけ、結局その晩を最後に、病院でベックスと過せるようになるまでには非常に長い時間を経ることになった。

私たちはその晩、いつものように過した。米ドラマの「フレンズ」を何回分か見て、お喋りをして笑い合い、ボードゲームやカードゲームを楽しんだ。娘を残して病院を離れるのは、これまでに味わったことがないほど辛い体験だった。

それでも、この措置が娘自身の安全のためだということは分かっていた。(化学療法により)娘の免疫系は存在しないも同然だったから、新型コロナへの感染は致命的になると思われた。

(2020年 ロイター/Darrin Zammit Lupi)

家に残る身としては、不安に苛まれるようになった。外出するたびに、どこかの店に入るたびに、車に戻って帰宅すると、靴を脱いで靴底を消毒し、購入した食料品の包装を解いて何もかも消毒剤で拭くという、偏執的な作業を繰り返した。

家の中に入ってくる物すべてを消毒・殺菌する。そんなことは到底やっていられないと感じられることもあった。だがすぐに、それを上回る不安がやってくる。ちゃんとできているだろうか。どこか見逃した場所はないか。ウイルスを家に持ち込んでしまったのではないか。私自身が感染してしまったのではないか。

この大変な時期に、私は日記をつけるようになった。一つの理由は、ベックスの戦いを記録しておこうと心に決めたからだ。だがそれは、私自身が何とか正気を保つためでもあった。

2020年3月31日: 昨日、外出するときに初めてマスクを着けた。洗剤を購入するために雑貨屋へ。通路は狭く、かなりの客がいた。N95マスク(薬剤師の友人が数日前私のために3枚確保してくれた)のせいでメガネが曇ってしまった。ここ何年も閉所恐怖症を感じたことはなかったが、これは堪らない。その場ですぐにマスクを外さないでいるのは、かなりの精神力が必要だった。

(2020年 ロイター/Darrin Zammit Lupi)

COVID-19の状況は世界的に悪化していき、レベッカの治療計画も変更を余儀なくされた。医師たちは、オックスフォードでの大手術の後に行うはずだった分も含めて、化学療法を当初予定していた9サイクルよりも長く続けることに決めた。

2020年4月3日: ベックスは肩のMRI検査を受けた。改善は見られたが、活発ながん細胞は残っている。化学療法の継続に加えて、放射線治療も受けることになる。必要な薬品を確保できなかったため、PETスキャンは延期された。

イタリア国内のサプライチェーンには問題が生じつつある。面識のある医療関係者に連絡したところ、すぐに調べてもらえた。1日もしないうちに、以前キリマンジャロでの仲間だった放射線医から、数日中に供給が回復するだろうと連絡があった。ローマ・フィウミチノ空港の地上貨物取扱スタッフに何か問題があったようだが、すでに解消されたという。

(2020年 ロイター/Darrin Zammit Lupi)

病院での「独房監禁」は厳しかった。ベックスとマリサは数週間にわたって、実質的に病室に監禁されていた。病室の周辺を歩き回ることも、ナースステーションに立ち寄ってお喋りすることも、テラスに出て新鮮な空気を吸うこともできなくなった。

閉所性発熱が見られるようになると、当局はいくつかの措置を緩和し、病室のテラスの利用も再び認められるようになった。ただしテラスに出るのは交代で、数分間のみである。

(2020年 ロイター/Darrin Zammit Lupi)

2020年4月6日: 今日はベックスに、そしてマースに会えた! マースは私たちがお互いの顔を見られる方法を編み出した。病室のテラスは医師専用駐車場を見下ろす位置にあり、いつも午後になれば車の出入りはほとんどない。そこで、天気が良くベックスがテラスに出ることを許されれば、チャンスが巡ってくる。

お互いの顔を見たのは3週間ぶりだ。

フェンスの隙間を通して2人の顔を見ただけだが、それでも特別なものがあった。家族全員にとって、胸に迫る瞬間だった。

(2020年 ロイター/Darrin Zammit Lupi)

病院の隔離措置は約2ヶ月後にさらに緩和され、新型コロナ陰性が検査で確認されること、自宅にいるあいだは厳しい検疫措置を守ることを条件に、付添いの親の交代が認められた。その後2ヶ月のあいだ、私は3週間ずつ2回にわたり病院で娘に付き添った。

2020年4月27日: ついに娘に再会できるとは、何て素晴らしいことなのだろう。彼女は私たちと一緒に、たくさん遊びたがっている。その望みにどれだけ応えられるかは分からないが、とにかくやってみよう。

2020年5月11日: これほど長く、娘と2人だけで一緒に過したことはなかった。「フレンズ」のエピソードをたくさん見た。そう、最終シーズンは昨日見終わった。このシリーズを見始めたのは彼女の具合が最初に悪くなったときだ。それ以来、たくさん一緒に笑ってきた。この試練を潜り抜けるうえで、このドラマはとても助けになった。

(2020年 ロイター/Darrin Zammit Lupi)

この時期、ベックスは辛い放射線治療も毎日受けるようになっていた。その副作用は生半可なものではなかった。看護師たちは娘を励まそうとして、放射線治療が終ったとき、彼女のためにささやかなパーティを開いてくれた。その頃になると、娘は医学用の画像診断や放射線治療にすっかり魅了され、将来なりたい職業としてさえ考えるようになっていた。

ベックスはロックダウンにポジティブな面を見出すまでになっていた。この記事を書いている最中も、彼女は私に「ロックダウンが始まって、私の楽しみはすべて奪われてしまった。でも、良いこともあった」と話した。

「5ヶ月も学校に行けなかったけど、オンライン授業が導入されたので、ようやくいくつかの授業に参加して、先生たちと話をすることができた。何カ月もお願いしてきたことで、私のために授業をストリーミング送信してくれと頼んでいたのに、いつも断られた。

他に選択肢がなくなって、どうすればオンライン授業ができるのかが分かった。だから私は、新型コロナ後も、私のように健康上の理由で学校や大学に行けない生徒のためにオンライン授業を続けるよう要求し始めている。今年は一番辛い年ではあるけど、自分の声が届いたのが嬉しい」

2020年5月16日: 家に戻る。3週間、ベックスと一緒に病院でロックダウン状態だった。自宅なのに見慣れない、よそよそしい感じがする。

(2020年 ロイター/Darrin Zammit Lupi)

べックスは7月中旬、ついに退院した。病院に閉じ込められて4ヶ月、最後となる14サイクル目の化学療法を完了したのだ。当面、外来患者として病院に通い続けることになる。

まだ終わりには程遠い。こちらの医師たちが必要だと考えている手術を受けさせるためにオックスフォードに連れて行くことになるのか、まだ結論が出ていない。だが、良いこともあった。ベックスは先日15歳になり、以前の友人たちが誕生日を祝いに来てくれたことは、彼女にとって何よりのことだった。

退院してから数日後、ベックスにとって最初の外出として、ネオワイズ彗星の光を少しでも見られればと、夜遅く、島のなかでも比較的暗いエリアである北西端に彼女を連れて行った。

そこで私たちは流れ星を見た。私たちは願い事をした。当たっても賞品は出せないが、さて願い事の内容は何だと思われるだろうか。

(翻訳:エァクレーレン)

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