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焦点:EU、まさかのロシアワクチン入手検討 域内生産も視野か

[ブリュッセル 15日 ロイター] - 欧州連合(EU)はロシアが自国産の新型コロナウイルスワクチン「スプートニクV」を世界に供給する「キャンペーン」を展開していることについて、「好ましくない体制」が仕掛けている宣伝工作だとして表向きには取り合っていない。しかし、域内4500万人への接種計画が難航する中、EUは水面下でスプートニクVの確保に動き始めている。

 3月15日、欧州連合(EU)はロシアが自国産の新型コロナウイルスワクチン「スプートニクV」を世界に供給する「キャンペーン」について、表向きには取り合っていない。しかし、域内での接種計画が難航する中、水面下で確保に動き始めている。写真はアルゼンチンの空港に到着したスプートニクV、1月撮影(2021年 ロイター/Agustin Marcarian)

EUを代表しワクチンメーカーとの交渉に当たる外交筋によると、EU加盟政府の中にはEUとしてのスプートニクV開発者との協議開始を検討する動きがある。EUは加盟4カ国から、そうした作業を始めるよう要請が来ているという。

<イタリアが国内生産を検討>

国単独ベースではハンガリーとスロバキアが既にスプートニクVを購入。チェコも関心を示している。EU当局者によればイタリアが、同国バイオ医薬品レイテーラがローマ近郊に所有する同国最大のワクチン製造設備を使って、スプートニクVの生産を検討している。

EUでは、離脱したばかりの英国が接種ペースを加速し、移動制限措置を緩和しつつあるのに対し、域内の接種が遅れていることに批判が強い。イタリアは制限措置の強化を迫られ、パリ地域の病院は収容能力が限界に近づいている。ドイツは感染第3波に警戒を呼び掛けた。

これまでにEUは西側ワクチンメーカー6社と契約し、さらに2社との協議にも入っている。認可済みのコロナワクチンは4種類に上る。しかし、工場の生産遅延によって接種計画は足を引っ張られ、一部加盟国は独自の解決策を模索している有様だ。

EUがスプートニクVも承認すれば、ロシアにとっては外交的勝利と言える。EUとの通商は何年も手足を縛られた状態になっていたからだ。ロシアによるウクライナのクリミア併合やウクライナ東部紛争への介入を巡って、EUが制裁を導入してきたことが背景にある。ロシア政府にいかなる勝利を与えることにも絶対に反対な国々と、EUがロシア政府と協調できることを示すのに賛成する国々とで、域内に亀裂が入るリスクもある。

<露ワクチンへの疑念に変化>

別のEU当局者によると、イタリアの当局者はある会合でレイテーラ工場について、同社以外の企業のワクチン製造拠点として使う可能性に言及した。レイテーラは30%を政府が出資し、自社のコロナワクチンを開発中だ。

ワクチンメーカーとのEUの協議を調整する欧州委員会の報道官は、欧州医薬品庁(EMA)がスプートニクVを承認したとしても、加盟国から同ワクチン開発者と協議を始めるようにとの要請は来ていないと述べている。同ワクチンを2国間契約で注文した国々が、EUの合同調達に関心を持つかも明らかではない。

そもそもワクチンメーカーとの交渉は通常何カ月もかかり、その後にようやく供給契約を結ぶ。EU当局筋はこの問題について、域内で協議しスプートニクVの開発者にアプローチするかどうかについては、まだ何も決定していないと話した。

それでもEU政府間で何らかの議論が行われたということは、スプートニクVを巡る大きな方針変更を示唆する。EUは何か月も同ワクチンについて疑念を表明してきた。データ不足を理由に挙げ、同ワクチンをロシア政府の外交政策宣伝の道具と呼んできた。

フォンデアライエン欧州委員長は2月17日、ロシア国内の接種が低調なのに数百万回分をロシアが輸出するのはなぜかと疑問を投げ掛けた。公式データに基づくとロシアでの接種率はEUよりも低い。

先週にはミシェルEU大統領も、スプートニクVを宣伝するロシアの動機に疑念を示した。同氏は、中国とロシアという「われわれの価値観よりも望ましくない価値観」を持つ体制に惑わされるべきでないと主張。「彼らはワクチンを他国に供給するため、的をかなり絞りつつも広く宣伝される活動を組織している」とした。EUならば、ワクチンを宣伝目的に使うことなどないとも訴えた。

ロシア政府と中国政府からミシェル氏の発言について公式な反応は出ていない。ただ、ロシアは以前、EUがコロナワクチンを政治問題化していると批判したことがある。

<ドラギ発言の重み>

しかし、EU内でのスプートニクVについての論調は既に変わり始めている。きっかけは2月2日に公表された同ワクチンの臨床試験データだ。有効性が92%とされ、アストラゼネカのワクチンの有効性を上回り、ファイザー・ビオンテック連合やモデルナのワクチンの有効性に近いことが査読済みのデータで示された。

2月25日にはさらに新たな展開があった。ドラギ新イタリア首相が、初参加したEU首脳会議でコロナワクチンについて、域内の接種と生産ペース加速を求める強い姿勢を示したのだ。

欧州中央銀行(ECB)前総裁のドラギ氏は、ユーロを最悪の危機から救ったとしてEU内で高く評価されている人物だ。同氏は他の域内首脳に対し、EUはワクチン購入を増やさなければならず、その中には域外からのワクチンも含まれていいと表明。ワクチン生産の拡大も訴えた。

イタリアは伝統的にもロシア政府に対する柔軟姿勢を支持する国ではあるが、今や、スプートニクVを検討するようEU加盟各国政府の背中を強く押そうとしている。3月10日のEU外交当局者会合に出席した外交筋によると、イタリア代表はEUにスプートニクVを含め、ワクチン供給を拡大するよう要請した。

これについて、イタリア側のスポークスマンはコメントを控えている。

イタリアの保健当局者は3月に入ってスプートニクVについて質問されると、「何らかのワクチンに効果があり規制当局が安全だとわれわれに言うのであれば、(そのワクチンを開発したのが)どこの国であるか私はほとんど気にしない。イタリアはロシア政府と協調する用意がある」と断言した。

こうしたイタリアの姿勢が明らかになり始めたのは、ドラギ首相の指名後のことだ。同氏の指名は右派「同盟」や、ベルルスコーニ元首相率いる中道右派「フォルツァ・イタリア」が支持した。両党とも、かねてからEUに対ロシア制裁の段階的廃止を訴えている政党だ。

ただしEU当局者らは、域内ではワクチン供給が緊急に必要になっているのはまさに現時点であり、スプートニクVをこれから契約しても域内に届いて有効に活用するには遅過ぎる可能性があると指摘する。EUは既に計13億回分のワクチンを注文済みで、年内にはこの納入が加速する見通しだ。

<欧州規制当局が承認に動く>

ただ、もしEMAがスプートニクVを承認し、また加盟国が自国内で同ワクチンを生産することでロシア側と合意すれば、その開発者との協議開始を渋る雰囲気も弱まるかもしれない。

EMAは3月4日、スプートニクVの逐次審査を開始した。EU全域での承認につながり得る第1歩だ。事情に詳しいEU筋によると、承認判断は早ければ5月に出る可能性がある。

生産面では、スプートニクV開発に関わるロシア政府系ファンド「RDIF」が先週、スイスの医薬品アディエンネと、イタリアで同ワクチンの少量を生産する契約を締結した。

契約にはイタリア政府は関与していない。ただ、もし同政府がレイテーラとスプートニクV生産で契約を結べば、同ワクチンは欧州主要国の政府によるお墨付きという大きな後ろ盾を得ることになる。ロシア政府がこれまでブラジルやアルゼンチン、インドなどと結んできた契約などはかすんでしまうだろう。

ドイツ政府も国内でのスプートニクV生産に関心を表明している。ロシアのRDIFはこれまでに、複数のEU加盟国と生産協定を話し合っていることを明らかにしている。

<EU分断の要因になる懸念>

EU外交筋によると、EMAがスプートニクVを承認すれば、域内加盟国はロシアとの協調を巡り、賛成派と反対派で分かれる可能性が高い。

ロシアと西側諸国の関係は既に冷戦後で最悪の状態にあるが、最近はロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏への扱いを巡って対ロ圧力が再燃している。同氏の収監はEU政府と米政府による新たな対ロ制裁を引き起こした。

EU外交筋は「われわれはいつものような分断に陥るだろう。ロシアなのだから協調は駄目だと主張する陣営と、ロシアと協調する必要がある、歓迎だと主張する陣営だ」と説明。「ワクチンを使った今回の宣伝活動でロシアに勝利を与えたくない者もいれば、これをEUがロシアと協調していることを実際に示せる絶好の機会だと見なす者もいる」と話した。

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