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焦点:「災い転じて」、コロナ禍を機に進むインド医療インフラ改善

[バガルプル(インド) 17日 ロイター] - 昨年、インドにおいて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第1波が最も深刻だった時期、バガルプルの東部地区にあるジャワハルラール・ネルー医科大学病院(JLNMCH)は、地方における医療体制の脆弱(ぜいじゃく)さの典型的な例になっていた。

新型コロナウイルスのパンデミックがもたらした惨禍は、むしろジャワハルラール・ネルー医科大学病院に新たな活力を与えている。当局がインドにおける医療部門への慢性的な投資不足という問題に対処しようとしているからだ。写真は12日、同病院で撮影(2021年 ロイター/Krishna N. Das)

一般病室、集中治療室(ICU)とも患者と付き添いの親族であまりにも混み合っており、医師の回診には不測の事態に備えて武装警備員が付き添ったほどである。政府系医療機関であるJLNMCHは、病床数約800で数百万人の住民に対応する想定だが、医師たちによれば、今年の第2波襲来の際にもほとんど役に立たなかったという。

だが、パンデミックがもたらした惨禍は、むしろJLNMCHには新たな活力を与えている。当局がインドにおける医療部門への慢性的な投資不足という問題に対処しようとしているからだ。特にバガルプルのあるビハール州の医療インフラは、国内でも最も劣悪な水準にある。

現在JLNMCHでは、院内での需要のほとんどを賄える自家用の酸素製造設備を整え、数十人の看護師を新たに採用し、ICUの対応能力も2倍近くに強化した。ここ数年で初めて、数百の病床が酸素供給ラインに接続された。同病院の管理担当者は、剥離がひどかったピンクの外装も新たに塗り直される可能性があると話した。

高度医療を提供する200床規模の新病院の建設は数年前に開始されたが、今年になって作業は加速し、来年前半には完成する見込みだ。

JLNMCHの医療最高責任者、アシム・クマール・ダス氏は病院内でロイターのインタビューに応じ、「我々にとってはCOVID-19が良いきっかけになった」と語った。「人類にとっては災厄であり、非常に大きな苦しみをもたらしたが、病院のインフラという点では非常に多くの変化をもたらした」

ダス氏によれば、JLNMCHでは現在、医師や医療従事者が「深刻に不足」したことを受けた人材の追加と併せ、病院本館に200以上の病床を追加するべく州政府と協議しているという。

政府の統計では、インド国内の多くの地域で同じように医療インフラへの関心が高まりつつあることが分かっている。

<酸素供給設備への投資>

4─5月にCOVID-19感染者数が過去最高となったことで厳しい批判を受けたナレンドラ・モディ政権は、各州の政府や政府系企業とともに病院への資金供給を行い、インドの750近い地域すべてが少なくとも1カ所の酸素製造プラントを備えるようになった。

連邦政府は酸素供給プラントのうち約4000カ所について、ここ数カ月以内に稼働開始したものだとしている。

また政府は、病院の新設や既存病院の刷新のために今後数年で約90億ドル(約1兆0300億円)を投資すると約束している。病床数を国民1000人当たり2床に倍増させるという、さらに大きな計画の一環だ。

連邦政府によると、多くの州では医療分野への支出を倍増させることを計画している。連邦政府は、公衆衛生分野への支出を、対国内総生産(GDP)比で今年度の1.2%から2024/25年度には2.5%に引き上げたいと考えている。

世界銀行のデータでは、インドの公衆衛生予算は世界でも最低クラスであることが示されている。つまり、国民が自己負担する医療費は最高水準にある、という意味だ。

<「出発点としては正しいが」>

ビハール州だけでも、来年までに5億ドル近くを投じ、新たに1600カ所の政府系病院を完成させると約束している。2018年の時点では、ビハール州内の大規模な地区・地域病院は80カ所に満たなかった。

「出発点として正しいことは確かだ」と語るのは、非営利団体(NPO)「インド公衆衛生財団」総裁で、心臓科医・疫学者のK・スリナス・レディ氏。

「だが、しっかり訓練された十分な数の人材が全国に適切に配分されていなければ、インフラだけでは役に立たない。『人』という要素にもできるだけ早くフォーカスする必要がある」

バガルプルのJLNMCHの場合、今のところICUの病床数は60だが、ロイターが先日取材に訪れたときには、多くの病室が施錠されているか空室になっていた。

ICU部門担当のマヘシュ・クマール医師は、青いマットレスを備えたベッドが16台並ぶ無人の病室の1つで取材に応じ、「人手が足りない」と述べた。「訓練を受けた医師と医療従事者が必要だ。人手さえあれば、すべてのICU病室を稼働させることも簡単なのに」

8月に公表された公式統計によれば、ビハール州政府が運営する地域病院では、患者数に対する医師・看護師の比率が国内でも最低の水準となっている。

ニューデリーの病院には全国平均の2倍のスタッフがいるが、それでも連邦政府自身が定めた基準を満たしていない。

このデータを示した報告書の中で、政府は主要な問題の1つとして人材不足を挙げ、是正に取り組んでいるとしている。

10月末、国内で最も人口の多いウッタルプラデシュ州で9つの医科大学の落成式典に出席したモディ首相は、インドは今後10─12年間で、1947年に英国から独立してから最初の70年間よりも多くの医師を育成できるだろうと述べた。

COVID-19の感染者数が急減していることで、インドにとっては多少の時間の余裕が生まれた。

聖なるガンジス川の河岸に位置するバガルプルのJLNMCHには、ここ2カ月というものCOVID-19患者は1人も入院しておらず、ビハール州での新規感染者の少なさを物語っている。同州では住民の大部分が7月までに自然感染したものと推測されている。

COVID-19患者100人ほどを受け入れるために確保されている病棟は完全に空だったが、小児科ICUでは16の病床が空いた状態で維持されていた。次の「波」では子どもに感染が広がることが危惧されているためだ。

精神科医のクマール・ガウラブ氏は「第2波以来、インフラは改善され、医療スタッフの能力も向上している」と語る。同氏は第1波、第2波のときに病院運営に奔走した。上位の医師の大半がウイルスに感染したか、運営の責任を担うことに消極的だったからだ。

「第3波の到来や、その他の事態が起きても、これまでよりはるかにうまく対処できるだろう」

(Krishna N. Das記者、翻訳:エァクレーレン)

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