May 22, 2020 / 10:54 PM / 9 days ago

アングル:謎の死を遂げた看護師、コロナの最前線でトラウマか

[20日 ロイター] - ウィリアム・コディントンさんは「看護師になる」という夢を2018年に実現した。

新型コロナの医療現場に立っていた看護師のウィリアム・コディントンさん。フロリダ州ディアフィールドビーチのホテルの駐車場に停めた車のなかで、死亡しているのが見つかった。写真はコディントンさん自身が病院内で撮影したもの。家族が提供(2020年 ロイター)

フロリダ州ウェストパームビーチにある勤務先の病院で、人々を助け、必要とされていると感じることはコディントンさんの喜びだった。友人や家族によれば、32歳のコディントンさんは、10年にわたるオピオイドその他の薬物中毒からの回復過程にあり、本気で回復をめざしていたという。

だが今年3月になって、すべてが崩れ始めた。彼の勤務する集中治療室(ICU)に重篤な新型コロナウイルス患者が現われるようになったためだ。

母親のキャロラインさんは、コディントンさんは自分と同じ年代の患者が死んでいくのを見て動揺していたという。薬物中毒からの回復に向けたいわゆる「12ステップ・プログラム」のミーティングにも、感染拡大防止のため直接出席することは叶わなくなった。個人防護具(PPE)の不足にも不安を感じていた。ICUの人工呼吸器が警報を発する悪夢を見るようになった。

4月24日の夜、コディントンさんは親友のロバート・マークスさんと電話で会話している。マークスさんによれば、錯乱状態にあるようだったという。コディントンさんは、戦場同然の勤務先と、閉じこもるだけの自宅のあいだに縛りつけられていた。

「よけいなリスクを負わずに、何とか頑張れ」とマークスさんは彼にテキストメッセージを送った。

翌朝、フロリダ州ディアフィールドビーチのホテルの駐車場に停めた車のなかで、コディントンさんが死亡しているのが発見された。

<薬物乱用の過去>

家族は薬物の過剰摂取を疑っている。ブラワード郡監察医事務所の広報担当者は、死因はまだ調査中であると話している。ブラワード郡保安官事務所によれば、事件はまだ捜査中だが、犯罪に巻き込まれた疑いはないとしている。

ロイターは、コディントンさんのテキストメッセージのやり取り、フェイスブックへの投稿、両親や兄弟、親友2人へのインタビューを通じて、彼の最後の数週間を再現してみた。ただし、コディントンさんの死因に関する独自の検証はできなかった。

最前線の医療従事者は、新型コロナウイルスの治療に伴うトラウマへの対処に苦心している。新型コロナウイルスによって米国内の病院は重症患者で溢れ、3カ月も経たないうちに米国内での死者は9万人を超えた。

複数の精神科医がロイターに語ったところでは、薬物乱用の過去を抱える医療従事者の場合、パンデミックが続くと、恐怖や孤独に耐えることも、多くの死を目撃することについても、普通以上に困難になりかねないという。薬物乱用から回復しつつある医療従事者でも、こうした要因によって乱用の再発を招きかねない、と彼らは言う。

オピオイド摂取を研究しているジョンズホプキンス大学の精神科医ケリー・ダン氏は、「今回のパンデミックが始まって以来、オピオイド乱用障害の治療を受けている患者からは、ストレスが増大し、オピオイド摂取への願望が高まっているという報告を受けている」と語る。

<恐がっていても献身的>

コディントンさんは、2001年に両親が離婚した後、ディアフィールドビーチの医療関連企業で役員秘書として働く母親のもとで育ってきた。

家族によれば、コディントンさんのオピオイド乱用は若い頃からのものだという。看護学校で知り合った友人スカイ・アレクサンダーさんがコディントンさんから聞いた話では、脚の手術を受けた後の鎮痛剤がきっかけだったという。

母親によれば、コディントンさんは21歳のときにリハビリテーション施設に入院した。退院した彼は、「12ステップ・プログラム」による患者交流・自立支援グループ治療に参加した。

「彼はいつも、周囲の世界と安定して交流するためにいろいろなことを試していた」とマークスさんはいう。マークスさんはマイアミビーチの住民で、コディントンさんとは10年来の知り合いだ。

3月、コディントンさんが3カ月前から働いていたJFKメディカルセンター北部キャンパスが新型コロナ患者の受け入れを開始したとき、彼は担当部署に志願した。

友人のアレクサンダーさんによれば、コディントンさんが新型コロナ担当部署に志願したのは、彼が一部の同僚より若く、たとえ感染しても重症化する可能性が低いと思われ、子どももいなかったからだという。

「ウィルは、そういうタイプの人だった」とアレクサンダーさんは言う。

とはいえ、コディントンさんは恐怖を感じていた、と友人たちは言う。今も一緒に暮らしている65歳の母親が新型コロナウイルスに曝露・感染するリスクもあった。

パームビーチ郡は、マイアミ・デイド郡、ブラワード郡に次いでフロリダ州内で3番目に新型コロナウイルス感染確定者が多く、300人近い死者が出ている。

コディントンさんは4月13日のフェイスブックへの投稿で、自分の働く病院では個人防護具、特に決定的に重要なN95タイプのマスクが不足している、と書いた。これはあちこちで生じている問題なので経営陣を責めるつもりはない、とコディントンさんは書いている

「私の病院では、1回の勤務シフトにつき配布されるN95マスクは1枚だ」とコディントンさんは書く。「ガウンも底を突きつつある。その場しのぎのフェイスシールドを使っているが、使っているうちに割れてしまう」

パームビーチの港湾技術者である父ロナルドさんによれば、死の数日前、呼吸を助けるために患者の気道にチューブを入れる挿管処置を手伝っている最中、ウィリアムさんのフェイスシールドが落ちたという。

ロナルドさんは息子から、「文字どおり、いろいろなものが顔にかかるのを感じた」と聞かされたという。

病院経営グループのHCAヘルスケア傘下にあるJFKメディカルセンターで広報を担当するキャスリン・ウォルトン氏は、コディントンさんの死についてはコメントを拒み、遺族への哀悼の意を表明するだけだった。ウォルトン氏は、病院は常に従業員を守ることを目標にしていると話している。

ウォルトン氏によれば、同病院では「PPEは十分に確保している」が、「将来どれだけ必要になるか分からないので、PPEを節約するための措置を取っている」という。

ウォルトン氏は、同病院は精神面での健康に関して電話・ビデオ通話によるカウンセリングを提供しているという。コディントンさんの友人・家族は、彼がそうしたサービスを利用していたかどうかは分からないと話している。

<無口になり「嫌な予感」>

家族・友人によれば、コディントンさんはパンデミックによって社会的な孤立を強いられていることに苦しんでいたという。

あるディナーの席で初めてコディントンさんに会ったというマークスさんは、「彼は人々に囲まれているのが好きだった」と話す。コディントンさんによるTV出演者の「いかれた」物真似を見て、マークスさんはすぐに彼の人柄に惹かれたという。

「彼はそのキャラクターになりきっていた」とマークスさんは言う。

コディントンさんは薬物中毒から脱するために「12ステップ・プログラム」のミーティングを頼りにしていたが、あるときビデオ会議方式の仮想ミーティングを終えて、オンラインではあまり効果がないと母親に言ったという。

「支援者に会うことができなくなった」と母親のキャロラインさんは言う。「友人たちも、たとえ6フィートの距離を置いてでも、息子に会いたがらなかった。息子が病院で働いていたから」

キャロラインさんによれば、コディントンさんは最後の数週間、仕事からまっすぐ帰宅すると、ほとんど喋らず、自室でビデオゲームをしていたという。得意の物真似には母親の南部アクセントの真似もあり、いつも皆の笑いを誘っていたが、それも影を潜めてしまった。

フロリダ州サンライズに住む友人のアレクサンダーさんは、こうした変化に気づいていたという。「絶望。絶望が忍び寄っていた」

コディントンさんは以前にも薬物乱用の再発を経験している。2017年には、看護学校の休暇中に、人工呼吸器につながれる事態にまで至った、と病院に彼を見舞ったアレクサンダーさんは言う。アレクサンダーさんによれば、コディントンさんは、脱法ドラッグであるガンマヒドロキシ酢酸(GHB)を過剰摂取したと話していたという。

パンデミックがコディントンさんに重くのしかかるなかで、親しい人々は「嫌な予感を抱いていた」とマークスさんは言う。キャロラインさんはたえず息子の様子を確認していた。父親や友人たちも電話やメッセージを続けた。

父親のロナルド・コディントンさんは4月1日、息子へのテキストメッセージで「お前はまさに今、他の人からとても頼りにされている。立派な人間になれる」と書き送った。「いつか私を看取ってほしい。その逆は止めてくれ。愛している」

「僕もお父さんを愛している」とコディントンさんは返信している。

<救いを求めて>

4月24日、コディントンさんは、薬物乱用の再発を心配する母親と口論になった。仲直りはしたものの、コディントンさんは「ぐっすり眠りたいからホテルに行く」と言った。

コディントンさんはキャロラインさんにキスをして、携帯電話で居場所は分かるから、と言った。彼はその晩マークスさんに電話し、混乱した職場と閉じこもるだけの自宅に挟まれて、どれほど閉塞感を抱いているか打ち明けた。

マークスさんは「あまりにも動転している様子だったので、彼のことが気になってしかたがなかった」と話す。そのまま眠れず、マークスさんは午前1時24分、コディントンさんに「これで勤務前にコーヒーでも飲んでくれ」とメッセージを添え、「アップル・ペイ」で20ドル送金した。

コディントンさんからの返事はなかった。4月25日の朝、キャロラインさんは息子の場所をチェックした。病院には出勤していなかった。彼女はホテルに車を走らせ、コディントンさんが車中で亡くなっているのを発見した。

父親のロナルドさんによれば、警察から、恐らくホテルの防犯カメラによる映像を入手したと告げられたという。その映像には、コディントンさんがその晩、駐車場に停められた車のシートに座っている間、別の車が横付けに止まる様子が短時間映っていた。ロナルドさんは、息子とその別の車のドライバーのあいだで「ある種のやり取り」が行われたと話す。薬物の売買ではないかとロナルドさんは疑っている。

件の映像についてブラワード郡保安官事務所に問い合わせたが、回答は得られていない。

ウィリアム・コディントンさんは「看護師になる」という夢を2018年に実現した。写真は本人が撮影。家族が提供(2020年 ロイター)

家族は、数週間以内に得られるはずの毒物検査報告で、薬物の過剰摂取が確認されるだろうと考えている。一時的な逃避が悲劇をもたらした。

友人のマークスさんは「あの晩、彼が死にたがっていると思ったか。答えは100%『ノー』だ」と話す。「何かしら救いを求めたのだ、という方に有り金を全部賭ける」

(翻訳:エァクレーレン)

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