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焦点:効果上がる米の遠隔医療、規制緩和が活用後押し

[14日 ロイター] - 新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的な流行)が米国の小さな街や辺境の村落にも広がる中、タルラー・ホルムストローム医師が働くサウスカロライナ州カーショー郡カムデンの集中治療室も、顔見知りの患者で埋まっていくようになった。

9月14日、トランプ政権はパンデミックの渦中で遠隔医療に関する規制を緩和し、メディケアによる医療費補てんを拡大した。写真は9日、セントルイスの病院から全米のICU患者の状態をモニターする看護師。提供写真(2020年 ロイター/Advanced ICU Care)

ホルムストローム医師が生まれ、今も住むカムデンは人口7000人の小さな町だ。近年、集中治療を専門とする医師・スタッフがもっと大きな都市に流出するなかで、カムデンは集中治療室(ICU)が閉鎖の危機に直面してきた。だが今は、最新テクノロジーのおかげで、遠隔地にいる医師たちがこの村のCOVID-19(新型コロナ感染症)患者の治療を支援してくれる。

地元のカーショーヘルス病院にはカメラその他の機器が設置され、医師や看護師をリモートで雇用する企業が24時間の監視体制をとっている。

セントルイスやヒューストン、ホノルル、さらにはイスラエルやインドなど他の地域でも、小さなブースに腰を据えた医療従事者たちが、リアルタイムで送られてくる患者のデータをコンピューター画面上で見守り、双方向ビデオ通話で、投薬や治療について現地スタッフと言葉を交わす。カーショーヘルス病院のスタッフは、壁のボタンを押すだけで、こうしたテレワーク医療スタッフによる緊急支援を仰ぐことができる。

<病院数の減少から農村を救う>

ホルムストローム医師によれば、こうした変化が始まったのは4年前だという。おかげで彼女の病院は現在の危機にもうまく対応できている。カムデンも含むカーショー郡では、1600人以上の陽性確定者と34人の死者が出ているが、テクノロジーのおかげで、この地域のCOVID-19患者の多くは自宅に近い病院に入院することが可能になっている。

カーショーヘルスの最高医療責任者を務めるホルムストローム医師は、「今は、患者がICUのベッドから視線を上げれば、自分の治療に当たっているのが友人の娘や息子、あるいは教会に一緒に行く仲間だと分かって安心できる」と話す。

カムデンのように、COVID-19による苛酷な負荷に耐え、予測不可能な患者急増に対処するうえで、こうした先進的な遠隔医療に依存しているコミュニティは増えつつある。

今般の危機が発生するよりかなり前から、米国内の広大な農村地域では、先進的医療を簡単には利用できない状況があった。ノースカロライナ大学の研究者らによれば、米国では2010年以来、農村地域の病院が130カ所以上も閉鎖され、昨年も18カ所を数えている。

農村地域では、糖尿病や高血圧などの基礎疾患の比率も高い傾向が見られる。人口の高齢化・貧困化が進んでいる例も多く、その分、COVID-19に対する脆弱性も高まっている。

病床数に余裕があるとしても、資格のあるスタッフを見つけるのは難しい。ジョージワシントン大学の研究者らによれば、サウスカロライナ州を含む43の州は、高度な訓練を受けた、いわゆる集中治療専門医が不足する状況にある。同大学のミュラン医療労働公正研究所のパトリシア・ピットマン所長によれば、この秋、新型コロナと季節性インフルエンザが重なることで入院患者数がピークに達すると予想されるなかで、人手不足はますます深刻化する可能性があるという。

「遠隔医療が理想的だとは誰も言っていないが、恐らく最も悪くないオプションの1つだ」とピットマン所長は言う。「専門医が誰もいないとかヘリで患者を輸送するという状況よりも、明らかに優れている」

<政策支援、企業の株価も急騰>

2017年に行われた調査では、米国内の病院の約3分の1は、重症患者のために公式の遠隔医療プログラムを利用していると答えている。複数の研究によれば、遠隔医療は、医学的なエビデンスに支えられたベストプラクティスの促進によって、また合併症の抑制を通じて、ICU患者に恩恵をもたらす可能性があることが分かっている。

医師たちは、今回のパンデミックにおいては、個人用防護具の節約や医療従事者のウイルス曝露の抑制という点で遠隔医療が役に立ったと話している。

とはいえ、不都合が生じる可能性もある。医師があまりにも多くの患者をまとめて監視しようとすれば、不適切な判断が生じ、医療過誤にまで至る可能性さえある。一般的に遠隔ICUでは、リモートで参加する医師にも、患者が入院している各々の州において医師免許を持っていることが求められている。

トランプ政権はパンデミックの渦中で遠隔医療に関する規制を緩和し、メディケアによる医療費補てんを拡大した。患者がオンライン受診を支持するなかで、テラドックヘルスなどの遠隔医療企業の株価は急騰した。

カリフォルニア州の大規模医療法人サッターヘルスは、サクラメント及びサンフランシスコのオフィスを拠点に、18カ所の病院にまたがる300床以上のICU病床を管理していると話している。

9月初め、サクラメントにある同医療法人の拠点で、バネッサ・ウォーカー医師が1人の患者の遠隔診察に当たっていた。患者はその日、約25マイル離れたローズビルにあるサッターヘルス系列の病院で人工呼吸器から解放されていた。

ウォーカー医師はヘッドセットとカメラを装着し、患者の名前を画面上でクリックした。「話すのを控えてください。それ以外は問題ありません」とウォーカー医師は患者に告げた。

ウォーカー医師は、カリフォルニア州のセントラルバレー地域にあるサッターヘルス系列の病院で電子ICU部門の医療部長を務めている。デスクには6台のモニターが並び、幅広い情報が表示されている。治療の前後にカルテを閲覧し、患者の肺スキャン画像を複数チェックすることもできる。

<警戒すべき事例も>

遠隔医療テクノロジーの利用が増加するにつれて、患者の安全性を重視する人々は、病院に対して安易な近道を選ばないよう警告している。訓練を積んだプロがベッドサイドにいれば命を脅かす合併症に対して素早く対応できるが、その代役はカメラやコンピューターには演じられないというのが彼らの主張だ。

患者の安全性を監視するNPOであるリープフロッグ・グループは、救命医療の資格を持つ医師が毎日ICU患者を1人1人直接チェックしてから、遠隔医療のスタッフに監視を委ねることを勧告している。同グループは、遠隔診療の医師が現場のスタッフからの要請に5分以内に対応し、患者の状態を評価できないようであれば、担当する患者数を減らすべきだと述べている。

ロサンジェルスの映像作家スティーブ・バロウズ氏は、遠隔医療にまだ懐疑的だ。

同氏の母親は、ウィスコンシン州の病院で、2009年に受けた腰の手術の際に複数の合併症を起こし、手術室とICUにおいて恒久的な脳損傷を負ったという。

バロウズ氏によれば、この件の訴訟を通じて、1人の医師が150人以上のICU患者をリモートで監視していたこと、そして母親の血圧が低下したときに対応できる医師がICUにいなかったことを知った。バロウズ氏は2018年、母親の事件をテーマに『ブリード・アウト(出血)』と題するドキュメンタリーを米国のケーブルテレビ局HBOで発表した。

「適切に利用されれば、遠隔医療は素晴らしい」とバロウズ氏はあるインタビューで語っている。「だが、ベッドサイドの医師をテクノロジーで置き換えるというのは正気の沙汰ではない」

裁判で、陪審員らは病院側に過失はないと判断した。合併を経て病院の現オーナーとなっているアドボケート・オーロラ・ヘルスでは、「(電子ICUは)ベッドサイドの医療従事者を代替するものではない。むしろ、さらに多層的な安全のために新たに追加される『目』として機能している」と述べている。

<「つきっきりの看病」>

カムデンの遠隔医療を担っているセントルイスの企業アドバンストICUケアは、26州90カ所以上の病院と提携しており、合計1300人以上のCOVID-19患者に対応してきた。

同社の最高医療責任者ラム・スリニバサン医師は、「これらの患者には、つきっきりの看病と継続的な調整が必要だ。これこそ私たちがやっていることの大部分だ」と言う。

サウスカロライナ州の感染者数は9月11日の時点で12万6000人以上、確認された死者は2877人を数え、相変わらず新型コロナウイルスの「ホットスポット」となっている。

同州内におけるCOVID-19患者は、3月上旬の同じ日に2人の感染が発表されたのが最初だが、その1人はカムデンだった。歩道で馬に乗ることを禁止する掲示があるような、のどかな地域である。

その日、つまり3月6日金曜日に、カーショーヘルス病院の最高医療責任者であるホルムストローム医師は、車で帰宅する途中、電話でその知らせを受けた。それから数日間で6人の感染が判明し、4人が入院した。

カムデンのICUは数週間にわたって満床となり、医療スタッフは、通常の重症患者に加えてCOVID-19患者の対応にてんてこ舞いになった。ホルムストローム医師によれば、戦没者追悼記念日の前後には入院状況も落ち着いたが、7月、そして8月の大半を通じて増加したという。

カーショー郡のビック・カーペンター行政委員は、「これほど小さな町で1日に32人も病気にかかるというのは非常に多い」と話す。

自分が生まれた病院で働いているホルムストローム医師にとっては、悲喜こもごもの日々だった。親友の1人が6週間もの入院を経て今やすっかり元気になったかと思えば、他の複数の患者については、家族に別れを告げるための最後のビデオ通話を用意することになった。

カーショーヘルスでは、この秋また患者が急増する事態に備えている。そのときはまた、遠隔医療の医師たちに多忙な病院スタッフの支援を頼む予定だ。

ホルムストローム医師は、「誰かがいつも背後にいて、私たちの治療のすべてを見渡しているような感じだ」と語る。

(翻訳:エァクレーレン)

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