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フォトログ:観客とともに感動も消えた、英サッカーの失われた1年

[マンチェスター(英国) 11日 ロイター] - 1年前の今頃、英イングランドの5部リーグに所属するFCハリファクス・タウンの本拠地「ザ・シェイ」では、ファンらが地元のパブから歩いて観戦に向かい、ハーフタイムにはパイを求める行列ができるなど、昔からの光景が見られた。

 2020年9月23日、イギリスのストーク・オン・トレントにあるbet365スタジアムで行われたサッカーのカラバオカップ3回戦、ストーク・シティとジリンガムの無観客試合(2021年 ロイター/Carl Recine)
ウォルトン・ホール・パークで行われたサッカー女子スーパーリーグ、エバートン対マンチェスター・ユナイテッド(マンU)戦の前に、エバートンのジル・スコット選手を見る同チームのファン。1月31日、リバプールで撮影(2021年 ロイター/CARL RECINE)

だがその日、約2000人のサポーターは事態が変わりつつあることも感じていた。自分たちの応援するチームの試合を見ることができたが、上位リーグの試合は、新型コロナウイルスの感染拡大によりイングランド全土で中止になっていたからだ。

「これが当面、この国で行われる最後のサッカーの試合になるような気がする」。ファンのネイサン・シンクレアさんは言った。

彼は正しかった。

ウォルバーハンプトン対ウェストブロムウィッチ(WBA)戦が行われたモリニュー・スタジアム。座席には、社会的距離を取るよう呼び掛けるステッカーが。1月16日、ウォルバーハンプトンで撮影(2021年 ロイター/CARL RECINE)

サッカーが圧倒的な人気を誇るイングランドで3カ月以上も、試合が一切行われなくなったのだ。

イングランド1部に当たり、世界で最も裕福な「プレミアリーグ」と、その下位の「フットボールリーグ」は、2020年3月中旬から中断していた試合を同6月中旬に再開した。だが、その下位のリーグに所属するハリファクスのようなチームは、さらに待たなくてはならなかった。

試合はほぼ全面的に再開されたが、イングランドでは12月に入り、一部の例外を除いてスタジアムは再び空席となった。それが、このスポーツの活力を奪っている。

ファンは自宅でしか観戦できない。観客の不在を補おうとの努力も虚しく、ファンが目にしたのは、見慣れたゲームが見慣れない状況で行われている有り様だった。

英バーミンガムで行われたバーミンガム対ワトフォードの無観客試合。客席にはファンの写真の切り抜きが。2020年12月12日撮影(2021年 ロイター/CARL RECINE)

クラブは空っぽの観客席を、バナーや旗、広告、スローガンで覆った。時にはファンの顔の切り抜きが貼られたり、放送局は声援の音を追加したりした。だが、観客不在の影響を小さくする努力には限界がある。

bet365スタジアムで行われた、チャンピオンシップ(2部に相当)ストーク対ミドルズブラの試合で、通常のトンネルではなく緊急ゲートからピッチに向かう副審。このトンネルはホームチーム専用で、副審は駐車場にある仮設の建物で着替えるアウェーチームを待っている。2020年12月5日、ストーク・オン・トレントで撮影(2021年 ロイター/CARL RECINE)

<「ピエロのいないサーカス」>

サポーターだけでなく、選手も苦しんでいる。

「ファンがいない状態でプレーするのは恐ろしいことだ。不快なものだ」。スペイン1部、バルセロナに所属するFWリオネル・メッシはこう言った。

メッシのライバルで、イタリア・セリエAのユベントスでプレーするFWクリスティアノ・ロナルドもこれには同意。「ファンがいない場所でプレーするのは、サーカスに行ってもピエロがいないようなものだし、庭に行っても花が咲いていないようなものだ」。

元マンUの名選手でBTスポーツの解説者、ポール・スコールズ氏。キング・パワー・スタジアムで行われたプレミアリーグのレスター対マンU戦で、マンUが得点のチャンスを逃したのを見て思わず悔しがる。2020年12月26日、レスターで撮影(2021年 ロイター/CARL RECINE)

現地観戦を許された少数のメディア関係者は、むき出しの現実を見せつけられることになった。「ファンのいないサッカーの試合には、魂も存在しない」という現実を。

選手たちの技術や戦術、努力やダイナミックな動きなどは目の当たりにできても、プロの試合を特別なものにするそれ以外の要素が著しく失われている。

WBAのカラム・ロビンソン選手。本拠地のザ・ホーソンズで行われたクイーンズ・パーク・レンジャーズとの試合でゴールを決めて喜んだが、目の前のスタンドに観客はいない。この試合でプレミアリーグへの昇格が決まったため、通常であればファンらがピッチに乱入し選手とともに祝うところだが、この日は数百人のファンが集まった駐車場でのお祝いとなった。2020年11月22日、バーミンガムで撮影(2021年 ロイター/CARL RECINE)

ゴールが決まったときの観客の歓声だけでなく、悔しさを吐き出すうめき声や、感謝の拍手も聞こえない。感動がなくなってしまったのだ。

ピッチにいる22人の選手や、サイドラインにいるスタッフは、困難な毎日を強いられている。

「スタジアムに誰もいないので、練習みたいだ。試合に入るのに努力が必要になった」とメッシは言う。

バーンズリーの本拠地、オークウェル・スタジアムの周辺を走るアカデミーの選手。スタジアム内では試合前の一軍の選手がウォームアップ中。通常なら数千人集まるファンはロックダウン中で誰もおらず、周辺の道路は閑散としている。2020年12月4日、バーンズリーで撮影(2021年 ロイター/CARL RECINE)

記者にとってサッカーを生で見ることは特権であると同時に、この1年間で私たちの生活に何が欠けていたのか、はっきりと思い出させてくれた。すなわち、友人らと一緒にいること、仕事から離れて酒を飲み、冗談を言い、祝い、議論を楽しむことだ。

イングランドでは、サッカーファンをスタジアムに再び迎えるための準備が進んでいるが、ファンのかくも長き不在により、運営側は本当に重要ものは何なのかを考えさせられるかもしれない。

サッカーは、ビジネスの観点から語られることが多い。数十億ドル規模の世界的な産業であることを考えれば、当然と言える。

ストーク対シェフィールドの試合当日、スタジアムの外にある簡易トイレは誰も使用しておらず、ドアが開け放しのまま。2月16日、ストーク・オン・トレントで撮影(2021年 ロイター/CARL RECINE)

ただこの1年を振り返ってみると、熱狂的なサポーターがサッカーを必要としたのと同じくらい、サッカーにも彼らが必要だった。

英国の小説家J・B・プリーストリーはほぼ百年前に、観客の中に立つことで経験できる現実逃避とドラマとをこう記している。

「一緒に歓声を上げ、肩を叩き合い、まるで地球の支配者かのように議論を戦わせる。回転式のゲートを通って、対立しつつも、情熱的で美しい芸術に満ちた、素晴らしい人生に向かって突き進むのだ」

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