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フォトログ:「心の霧」と闘うスペインのコロナ後遺症患者たち

[マドリード 12日 ロイター] - テレサ・ドミンゲスさん(55)はある日、スペイン・マドリード北部コジャード・ビジャルバの自宅そばで、週に1度の買い出しに出かけていた。しかし、気づいたときにはスーパーの通路をあてもなくウロウロしており、一体何を探していたのか、まったく思い出せなかった。

 テレサ・ドミンゲスさん(写真)はある日、スペイン・マドリード北部コジャード・ビジャルバの自宅そばで、週に1度の買い出しに出かけていた。しかし、気づいたときにはスーパーの通路をあてもなくウロウロしており、一体何を探していたのか、まったく思い出せなかった。コジャード・ビジャルバで3月4日撮影(2021年 ロイター/Susana Vera )

結局、すでにカゴに入れていたものだけを購入し、店をあとにした。

ドミンゲスさんは、集中できず、日常生活の中でも最も単純な作業をしただけでぐったりと疲れてしまう現在の状態を「心の霧」と表現する。彼女は2020年3月に新型コロナウイルスに感染してから1年間、医師らがポストコロナ症候群、もしくは「ロングCOVID」と呼ぶ後遺症に日々悩まされている。

2人の子どもを持つドミンゲスさんは、障害者に特化したソーシャルワーカーとして働いていたが、去年の11月から休職している。「身体的には、まるで91歳になる私の母になったかのようだ」という。

慢性的な倦怠感、毎日の発熱、筋肉や関節の痛み、不眠、そして物忘れが原因で、アマイア・アーティカさん(42)は保育園での仕事を休むことを余儀なくされている。「私の家庭医は支えになってくれるが、すべての医師がそうだったわけではない。ある専門医は私に、検温するのをやめるように言ってきた。気にしなければ治る、私が考えすぎるからなどと言われた」

スペインの総合診療医・家庭医の協会「SEMG」が最近行った調査によると、面談した2120人のうち1834人には新型コロナに関連した症状があった。典型的な患者をプロフィールにすると、43歳の女性で、平均して36の症状を有するという。

ペドロ・サンチェス・ビセンテさん(55)は2020年3月に感染し、ICUで100日を過ごした。「私はほとんどの後遺症患者と違い、かなり長い間入院していた。それでも心の霧を感じるし、知覚障害、聴覚の問題、結膜炎、眼部ヘルペスを抱えている。ハイブリッドといえるだろう」「退院して帰宅すると、家族が私のために買ってくれた肘掛け椅子があった。その後1年ほぼその椅子に座って暮らしている。今でも毎晩、ベッドで寝ようとすると息が苦しくなるから」

新型コロナウイルスの感染者は男性の方が多いが、長期的な後遺症の影響を受けるのは女性の方が多い。SEMGが調査した症例のうち、女性は約80%を占めた。

ロイターは女性8人と男性2人に後遺症についての体験を聞いた。また、彼らが感じている「霧」を目で見えるかたちで表現するため、青いプラスチック越しにポートレート写真を撮影した。

小学校教師のスサナ・マタランズさん(44)は、教え子たちのことを話すときに涙ぐんだ。2020年3月に感染し、最初はにおいと味を感じなくなっただけだったが、その後すぐに深刻な胃の問題と関節痛を患った。9月に職場復帰したものの11月に再度感染してしまい、それ以降教えることができていない。「教師という、私の中の大事な部分が、そこに置いてある黒板のように空っぽになってしまった。愛する子どもたちが占めていた心の部分が抜け落ちてしまったようで、何をしてもそれを埋められない」

ドミンゲスさん同様、後遺症に悩む人の多くは、買い物や掃除など、これまでずっとやってきたルーティン作業ができなくなったと語る。一部の人にとっては、映画を観ることすら疲労が強すぎる。

世界保健機関(WHO)は2月、後遺症の症状を把握するのは「明確な優先事項」だと述べ、「残念なことに、一部の人々は症状を訴えても信じてもらえなかったり、理解してもらえていない」と指摘した。

人類学者のシャリーニ・アリアスさん(23)など取材に応じた複数の女性は、初期の頃は症状を伝えても医師に適当にあしらわれたり、上司や同僚からは大げさにふるまっていると思われたりしたという。

「二重に誤解されていると感じた。まるで私が神経質で、さらには暇すぎてひたすら医師との面談を求める面倒な女のように思われていた」

<「以前よりずっと不器用になった」>

WHOによると、新型コロナ感染者のうち10人に1人は12週間後も体調不良のままだ。また、これよりずっと長期にわたり不調を訴える人も多い。

ディエズさんは、「プールで泳げば症状が和らぐのではないかと考えた」という。しかし、「プールに着いて、少しずつ体を水に沈めていくと、それと比例して息が苦しくなった。結局、階段で腰ぐらいの高さの水に浸かって呼吸を整えないといけなかった」

1年間後遺症に苦しんでいる看護師のマリア・ユージニア・ディエズさん(43)は、エクササイズと、医療のカンファレンスに出席することをやめた。集中するのが困難なためだ。

ディエズさんは20年以上の経験があるにも関わらず、職場ではまるで新人のような気持ちだと語る。今までは体が勝手に動いてこなしていた作業も、自分なりに考えたルーティンでなんとか記憶しているという。

「運転するときに、自分が以前よりずっと不器用になったと感じる。ギアの段数はいくつか、後方を確認するミラーはどこか、ワイパーは、ウォッシャー液は、ペダルはどこか」

ケンプさんは慢性的な疲れのため、ダンスや水泳、毎日の散歩をやめた。「家のすぐ隣の公園まで歩けたときは、まるで翼が生えたかのように感じた。たったの数メートルで座って休まなければいけなかったが、世界が自分を歓迎しているかのようだった。今後は順調に回復の道を進むのだと思っていたが、しばらくすると、そうではないことがわかった」

スペインに30年近く住んでいる英国人アナ・ケンプさん(51)は、後遺症の影響でスペイン語で話す能力が衰えたと語る。また、最近は複雑な内容のテレビ番組も、展開を追うことができず見られないという。

SEMGのピラール・ロドリゲス・レド副代表は、妊婦では長期にわたる後遺症が出る確率がほかより低いとみられることから、後遺症にホルモンが関係しているかどうか、もしくは免疫システムの反応に性別による違いがあるかどうかの初期調査を同団体が行っていると語った。

コンピューターエンジニアのビアトリス・ペレスさん(51)は、慢性的な倦怠感と忘れっぽさのため、休職中だ。ペレスさんは、いつ自分が快方に向かうのかわからないことが最もつらいと語る。

これは多くの患者たちに共通する悩みだ。しかし、看護師のディアズさんはなるべく前を向こうと努力している。

「いま持っているものに適応しよう、楽しもうとしている。以前持っていたもののことばかり考えていられない」

「でも、そうするのは難しい。昔に戻りたくてしょうがないのだから」

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