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コラム

コラム:コロナ渦中に空の旅、大西洋横断で実感した「奇妙な時代」

[ニューヨーク 5日 ロイター BREAKINGVIEWS] - たとえ繁忙期でも、チューリヒ国際空港は世界で最もスムーズに運営されている空港だ。スイスの常として、保安検査の列は整然と流れ、旅券審査には十分なスタッフが配置され、「レダラッハ」の店員はチョコレートを安全に持ち歩けるように手際よく包装している。コーヒーはたいてい高すぎるし味も今ひとつだが、空港施設内にはカフェがいくつもある。要するに、まさに国際空港のあるべき姿だ。できるかぎり面倒がないようにできている。

 スイス航空のチェックインカウンター。モニターには社会的距離を取るよう注意を促す説明が映し出されている。5月28日、スイスのジュネーブ・コアントラン空港で撮影(2020年 ロイター/Denis Balibouse)

それだけに今月4日、ニューヨークのジョン・F・ケネディ(JFK)空港行きのスイス国際航空機に搭乗するとき、ガラガラのチューリッヒ空港を目にしたのは新鮮な驚きだった。旅程で訪れたどこの空港にもほとんど人影はなかった。機内では乗客よりも乗員の方が多い。機内サービスは限られている。ゾンビの襲来で人がいなくなった世界を見たような気分は落ち着かなかったが、欧米間の移動でこれほど面倒が少なかったことも珍しい。

誤解のないように書いておくと、このコラムは、パンデミック期間中の旅行の素晴らしさ、あるいはその過酷さを描くことが目的ではない。私のような人間は、職業的な理由や他国在住の家族に会うために、時として大西洋を渡らざるをえないという、単なる言い訳である。たいていの人にとって、観光旅行が復活するのはまだ何カ月も先だろう。何しろ、米国やスイスを含む多くの国の政府は、自国民や、国内で生活・労働する在留許可を持っている人以外の入国を引き続き制限しているのだ。

今回の出発地はチューリヒだった。車寄せには数台の車とタクシーが止まっているだけで、旅客ターミナルの外に見える人影は、入口近くでたばこを吸って休憩を取っている従業員だけだった。

独航空大手ルフトハンザ傘下にあるスイス国際航空は、オンラインでのチェックインを中止していたので、乗客は空港のチェックイン機に入力しなければならなかった。私が搭乗した4日は、全員のチェックインに30分ほどかかった。乗客の約半分はマスクをしており、チューリヒ市街よりもその比率は高かった。スイス航空の係員はマスクをしていなかったが、アクリル樹脂製のシールドで守られていた。

パンデミックの期間中、スイス国際航空は欧州の主要空港数カ所への限定的な運航を続け、ニュージャージー州ニューアークにも週3便を飛ばしていた。先日これにJFK空港向けの週4便が追加された。6月中に、最終的にはチューリッヒ及びジュネーブから41の目的地に向け191便まで増やすという運航再開計画の一環である。スイス連邦議会は先月、政府が求めた航空業界を対象とする約19億スイスフラン(約2100億円)の支援措置を承認した。その大半は、債務保証の形でスイス国際航空とルフトハンザに投入される。

スイス国際航空の広報担当者は筆者に対し、「運航をめぐる条件は困難だが、私たちはスイスのフラッグキャリアとして、この尋常ならざる状況のなかで、可能な限りスイスを世界と結びつけておくためにあらゆる責任を果たそうとしている」と語った。「とはいえ、搭乗率は全体として低い」。どれくらい低いかは、JFK空港行きの搭乗が始まったときに明らかになった。

いや、機内に入る前には保安検査がある。チューリヒでの検査はたいていスムーズだが、今回はいつにも増して簡単だった。そもそも手荷物検査でまったく待たされなかった。

ひとつだけトラブルが起きたが、それも筆者の自業自得だった。検査待ちの列がない証拠として写真を撮ったのだが、それが保安担当者の注意を引いたのである。筆者は彼女の目の前で写真を消去し、その後は、スキーについて、そしてロックダウンのせいで早々に終了してしまったシーズンについて楽しくお喋りした。

保安検査が済むと、免税ショップに強制連行されることもなく、少し進めば、もう搭乗ターミナルである。そこには、手指除菌ジェルの入った巨大なスプレーボトルが待ち構えていた。新聞販売スタンドもチョコレートショップも服飾店もキャビア販売店も、どこも営業していなかった。開いていたのは「バーガーキング」と薬局だけだ。何か読むものや、身体にいいサンドイッチや軽食が必要なら、あらかじめ持ち込まなければならない。

筆者はスイスで住民登録しているので、出国審査はあっさり終った。春休み中のスイス滞在がロックダウンの影響で3カ月近くも長くなり、オンラインで授業を受けていた私の息子には、出国検査でいくつか追加の質問があった。ゲートの係員は私たちに健康状態申告書を渡した。記入して米国に到着したときに提出するものだ。滞在地や新型コロナウイルス関連の症状の有無についての質問項目があり、米国での住所、メールアドレス、電話番号の記入を求められた。恐らく接触追跡のためだろう。

私たち乗客8人はバスに乗ってエアバスA330-300への搭乗を待った。参考までに、スイス国際航空では、エコノミークラス180席、ビジネスクラス50席、ファーストクラス8席の構成で同機種を運航している。1人を除いて皆エコノミーだった。生まれたばかりの赤ん坊を抱いた夫婦が最初のグループに続いて搭乗し、私のすぐ後ろの席に座った。私は数列前の席に移ったが、何の問題もなかった。客室乗務員は全員、9時間近いフライト中、ずっとマスクを着用していた。

ほとんどの席は空いており、すべての席にスイス航空のロゴが同じ場所にくっきりとプリントされた枕が配置されていた。機内誌はなかったが、飲み物と機内食のサービスはあった。チキンペーストとクスクス、キャロットケーキ、スイスチーズというメニューは悪くなかった。乗務員は念を入れてもう一度、健康状態申告書を配っていた。

出発前にスイス航空は乗客に対し、自分のマスクを持参し着用するよう求めていた。長時間のフライトでは、2つの難点があった。まず、常に自分の息のにおいから逃れられない。ふだんでさえ快適とは言いがたいのに、機内食を食べた後となれば、なおさらだ。さらに、メガネを掛けている身にとっては、すぐに曇ってしまいがちである。

筆者はフライト中、トム・ハンクスがフレッド・ロジャース役を演じる『ア・ビューティフル・デイ・イン・ザ・ネイバーフッド』を観たが、苦痛に満ちた地上から3万フィート離れ、酸素濃度の高い金属製の密閉空間にいれば誰もがそうなりがちであるように、私は涙を流した。もっとも周囲に誰もいないので、筆者が泣いていることに気づかれずに済んだのだが。

JFK空港で機外に出る前、ブルックリン訛りの強い保健当局者が「ニューヨークにようこそ」と言い、問題がないかどうか健康状態についての申告書を読ませていただく、と乗客全員に告げた。別の医療従事者が、発熱していないか1人1人体温測定した。その後、新型コロナウイルス感染の拡大を防ぎ、ソーシャル・ディスタンシングを実践する方法を14カ国語で記載した疾病予防管理センター(CDC)発行のカードが配られた。

そこからJFK空港を出るまでの間が、一番の驚きだった。JFK空港の手荷物受取所は世界でも時間がかかることで悪名高い部類に入るが、わずか10分で荷物が出てきた。同じような時刻に到着したフライトはメキシコシティからの1便だけだった。到着エリアはガラガラで、車を待つ人の列もなかった。JFK空港から市内に向けて北に進むバンウィック・エクスプレスウェイは、いつもなら酷い渋滞だが、このときはほとんど車の姿がなかった。時代の奇妙さを示す兆候として、これほど的確なものはなかなか思いつかない。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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(翻訳:エァクレーレン)

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