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焦点:米で増える「保育難民」、働く女性にコロナの試練

[クリーブランド 31日 ロイター] - ダイニングルームのテーブルに置いたコンピューターで「Zoom」を使った会議が始まった。しかし、その最中でも、ゾラ・パネルさんは1歳の娘サバンナちゃんをあやすためにビデオをオフにする。新型コロナウイルスの感染拡大で在宅勤務が続く中、それが彼女の日常になっている。 

7月31日、新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的な大流行)が保育サービスに大きな打撃を与えたことで、特に母親を中心に、米国の親たちの多くは厳しい選択に直面している。写真は7月、ニューヨークのブルックリン地区で息子と写真撮影に応じるシャンテル・スプリンガーさん(2020年 ロイター/Brendan McDermid)

パネルさんは3月以来、在宅勤務の傍ら、サバンナちゃんと2歳の息子ティモシーちゃんを何とか育てている。彼女が外国語学習サービス企業のマネジャーという新たな仕事を始めたのは、ちょうどオハイオ州が新型コロナウイルス感染拡大を抑えるために「ステイホーム」命令を出した週のことだった。

<経済再開、オフィス復帰が心配>

育児をしながらの在宅勤務で疲弊する日々だが、パネルさんがむしろ心配しているのは、そろそろオフィスに復帰するようにと言われることだ。夫は地元の製鉄所で働いており、日中は子どもの世話をするのは無理だ。だがパネルさん夫妻が暮らすクリーブランドの東の端、シェイカーハイツにある集合住宅の近くには、安心できて料金も手頃な保育施設は見つかっていない。

「ワーキングマザーだということで罪を受けているように感じている」と30歳のパネルさんは言う。彼女はいま、在宅勤務を続けられなければ仕事を辞めざるをえないかもしれないと懸念している。「どちらに転んでも辛い」

新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的な大流行)が保育サービスに大きな打撃を与えたことで、特に母親を中心に、米国の親たちの多くは厳しい選択に直面している。打撃を被った経済の回復をめざし、各州が労働者の職場復帰に向けた政策を推進していることも、困惑をいっそう深めるだけだ。

費用も高く容易には見つからない保育施設を探し回れば、なお国内の大半で猛威を振るっている新型コロナに家族が感染する可能性もある。とはいえ、仕事を減らす、あるいは辞めてしまえば、家計の安定が脅かされる。

子供を預けたくても施設が見つからない「保育難民」。そうした現実は、女性の社会進出が近年もたらしている経済効果を停滞させ、あるいは逆転させるリスクがある。複数の研究が示しているように、保育サービスを利用できない場合、男性よりも女性の方がキャリアの点で打撃を被る可能性が高いからだ。

ノースイースタン大学が5月10日から6月22日にかけて行った調査によれば、今回の医療危機のあいだ、共働きの両親のうち13%が保育サービスの不足のために仕事を減らすか辞めることを余儀なくされ、男性よりも女性の方がはるかに強い影響を受けた。育児上の問題のために失業したという回答者のうち、女性が全体の60%を占めた。

全米女性司法支援センターで育児・早期教育研究ディレクターを務めるカレン・シュルマン氏は、「保育サービスがなければ、女性は職場に戻れない」と語る。もし女性の職場復帰がなければ、「結果的に非常に大きなジェンダー不平等をもたらすシステムが生まれてしまう」

25~54歳の女性の労働参加率は2015年9月には73%だったが、パンデミック前の2月には77%に達し、2000年に記録したピーク時に迫った。労働力に占める女性の比率は2000年頃に横這いに転じたが、専門家によれば、その理由の一端は、妥当な料金の保育サービスへのアクセスに限界があったためだという。

<限られる選択肢>

ここ数週間、各家庭が感じるプレッシャーは確実に強まっているように見える。追加的な失業給付や家賃未払い者への立ち退き猶予措置、教育ローン返済の凍結など、失業した親たちに救いの手を差し伸べる各種の支援プログラム・保護措置が期限切れを迎えているからだ。

シングルマザーとその子どもたちを支援するミネアポリスのNPO「ジェレミア・プログラム」のチャスティティ・ロード代表兼最高責任者は「母親たちの生活、そして米国経済全体がこうした(補助という)目に見えない細い糸でつながり、支えられている」と語る。

保育サービスへのアクセスを拡大する方法が見つかれば、パンデミックによる経済的荒廃から米国の労働市場が立ち直る動きを支える柱になるだろう。最新のデータでは、米国経済では2020年第2四半期に年換算で32.9%のマイナス成長とされており、7月11日までの1週間では、労働者の約5人に1人が失業保険給付を申請している。

新型コロナ禍によって数千カ所の保育施設が閉鎖される前から、保育サービスはすでに手薄だった。2018年の時点で、米国民の半数以上が「保育の砂漠」で暮らしていた。これはワシントンのリベラル系NPO「センター・フォー・アメリカン・プログレス」の定義で、認可保育サービスがまったくないか、5歳以下の子ども3人当たり1人以下の受け入れ枠しかない地域を指している。

現在では多くの州で、ウイルスの感染拡大を防ぐため、保育施設が限られた数の子どもしか受け入れなくなっている。祖父母など高齢の親族や隣人を頼りにしてきた家庭はさらに深刻だ。子どもの世話を頼めば、高齢者の死亡率が特に高いことが分かっている新型コロナに感染させかねないリスクを冒すことになりかねない。

シャンテル・スプリンガーさん(24歳)は、パンデミックの最初の数ヶ月、マンハッタンのスターバックスで働いていたが、勤務先の店舗が需要の減少とソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)の条件を満たすためにスタッフを削減したため、6月以来一時解雇の状態にある。失業給付が週325ドルまで減額される可能性があるため、スプリンガーさんはシフトマネジャーとしての仕事に復帰しようと調整中だ。

「働かなければ」とスプリンガーさんは言い、失業給付が減額されれば家賃や食費、オムツ代などをまかないきれないと説明する。

スプリンガーさんは今月、2歳の子どもを抱える自宅の近くで働けるよう、ブルックリンの店舗に異動した。だが、息子のベビーシッター探しが容易ではない。スプリンガーさんの母親は最近、新型コロナで夫を亡くした障害のある姉の介護をするために引っ越してしまった。

今のところスプリンガーさんは、やはり小売産業での仕事に復帰した息子の父親とのあいだで育児のスケジュールを調整しようとしている。

<「ホーム・アローン」>

3月末に可決されたコロナウイルス支援・救済・経済保障法(CARES)法に基づき、パンデミックのために保育サービスを利用できなくなった親は、失業給付を受ける資格を与えられた。だが、この制度の認定プロセスは州によってさまざまであり、学校の年度が終了し、一部の保育施設が人数限定で再開されるなかで、いっそう分かりにくくなっている。

労働省では、親たちが通常の夏季保育サービスに頼れるよう、指針の明確化に努めている。ニューヨーク、ミズーリ、ルイジアナなど多くの州は、虚偽申請に対する罰則を設けつつも、利用していた保育施設の閉鎖と受給継続要件の是非について、親たちが毎週、自己認定することを認めている。

乳幼児のための保育施設を見つけるのも困難だが、学齢に達した子どもを受け入れる施設はさらに乏しい。この年代向けのサマースクール企画の多くがオンライン化されてしまったことも親たちを困惑させている。

サラ・サップさんは、11歳の息子アベリーくんに旧型の携帯電話を持たせる計画を練っている。

クリーブランドの郊外ノースオルムステッドで暮らすサップさん(37歳)にとって、気掛かりなのは息子のことだ。時折、なかなか親の言いつけに注意を払わないことがあり、サップさんがウェイトレスとして高級バーで働いているあいだ、独りで留守番させるほど成熟していないからだ。だが、サップさんはほとんど他には選択肢がないと感じている。

当初、オハイオ州が3月にレストランやバーの休業を命じた時点では、サップさんには州の失業給付を受ける資格があった。だが5月になって州は職場に戻っても安全であると宣言し、サップさんのもとには、今後は受給資格がなくなるとの通知が届いた。サップさんは地元のレクリエーションセンターが主催する日中の学童キャンプに息子を登録しようとしたが、企画は中止されてしまった。

今後はさらに多くの問題が山積している。サップさんが暮らす学区では、9月に授業が再開されるときに、すべてオンライン授業とするか、2日間の短縮授業と3日オンライン授業の組み合わせにするかを選ばなければならないと親たちに通知した。だがどちらを選んでも、サップさんはランチタイムのシフトで働くことはできない。

「八方塞がりだ」とサップさんは言う。「どのような角度から見ても、正しい選択があるようには思えない」

(翻訳:エァクレーレン)

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