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アングル:母の死告げたボイスメール、高齢者施設がコロナで混乱

[26日 ロイター] - 3月3日未明、米ワシントン州に住むデビー・デロサンゼルスさんはボイスメールで目を覚ました。シアトルに近いカークランド市の高齢者介護施設の看護師からだった。そこには85歳になる母親、トゥウィラ・モーリンさんが入所していた。

新型コロナで亡くなった母親の写真を手に持つデビー・デロサンゼルスさん。3月23日、ワシントン州で撮影(2020年 ロイター/Brian Snyder)

最初のボイスメール(音声形式のメール)は午前4時15分。終末医療で蘇生処置はしなくて良いとの家族の指示はまだ有効か、と尋ねる内容だった。

「新型コロナウイルスだと思います。40度の熱があります」。ボイスメールは、モーリンさんにウイルスと闘う力がもうないことを伝えていた。

この施設は、米国で急激な拡大を始めた新型コロナ感染との格闘に入っていた。当時、デロサンゼルスさんはウイルスの深刻な脅威を完全には認識していなかった。母親が以前、その施設で罹患したインフルエンザを乗り切ったことを思い出し、自分を落ち着けた。

次のボイスメールは3時間後、別の看護師からだった。

「お母さまのことについてお話しなければならないので、できるなら折り返しお電話ください。ご容態が悪くなっているので、なるべく早くお願いします」

デロサンゼルスさんはすぐに電話し、母親は苦痛のない状態でいると伝えられた。見舞いに行きたかったが見合わせた。63歳、67歳という自分と夫の年齢、さらに2人とも持病があり、新型コロナに感染してはいけないと考えたからだ。

母親の死に目に際して最善の方法を考える時間はまだあると思っていた。

翌日4日の午前3時ごろ、デロサンゼルスさん電話に手を伸ばした。またボイスメールが届いていた。母親が「特異な状況」で2時10分に息を引き取ったことを告げる内容だった。

<施設の現場は混乱の極み>

「特異な状況」は、今や世界で当たり前の状況になりつつある。膨大な数の家族が、愛する人の容態が急に悪化し、隔離されたまま亡くなるという経験をしている。デロサンゼルスさんが受け取ったボイスメールは、母親との最後のつながりとなった。

これほど重要な知らせを慌ただしくボイスメールで伝えるということが、施設内が混乱の極みにあったことを物語る。

ボイスメールを送った1人、チェルシー・アーネストさんは別の介護施設で看護師長を務めていた。新型コロナ感染の流行が始まったため、ボランティアで手伝いに来ていた。彼女は彼女で、新型コロナで何十人もが死亡し、患者や医療スタッフに集団感染が広がるとは予想もしていなかった。

心配する入所者の家族から、容態を尋ねる電話が鳴りっぱなしだった。総勢180人のスタッフの約3分の1に症状が出始めた。職場に残されたスタッフらは、症状などから治療の優先順位を決める「トリアージ」を始めることになった。

施設の広報担当、ティム・キリアンさんは、看護師たちが突然、米国の高齢者ケア施設がこれまで直面したことのないような混乱状態に放り込まれたことに気付いたと話す。

キリアンさんによると看護師らは普段、関係者が危篤状態にあるという重大な知らせをボイスメールで知らせることはしない。彼らにはあまりに時間がなかった。せめて、当事者でない別の誰から家族に知らせが行くことは避けたかったという。

<愛する人の病室に近づけない>

施設の外には、集団感染について情報を得ようとする報道陣や家族らが群がっていた。家族の多くは感染の危険のため、愛する者の部屋を外から眺め、窓越しにその姿を見詰めていた。

米ジョン・ホプキンス大学のルース・ファデン生命医療倫理学教授は、外部の者から見ると、ボイスメールはぶしつけで人間味に欠けるように見えるが、こうした危機的状況で家族に適切に情報を伝える唯一最善の策だと指摘する。

普段であればこうした緊急の情報は、家族に直接会って伝えるべきだ。だが、今回のまれな状況、すなわち、医療崩壊の現場で圧倒的な数の、死にゆく患者にそうした対応をするのは不可能だと、ファデン教授は言う。

この施設の医療スタッフは、デロサンゼルスさんの母親にモルヒネを投与して苦痛を和らげてくれた。「母は眠りに落ち、そのまま、永遠の眠りへと向かった」と、デロサンゼルスさんは語った。

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