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焦点:地球規模コロナワクチン接種、「最後の区間」がハードルに

[ローマ/ダッカ 15日 トムソン・ロイター財団] - 新型コロナウイルスワクチンの接種が開始され、コロナ克服への希望が高まっている。だが、収束に至るかどうかは、ワクチン冷凍装置の不足や、接種を忌避する人々、不正なワクチンの供給といった、いわば接種の「最後の区間」に待ち受ける多くの難関を乗り越えられるかにかかっているーー。専門家らはこう指摘する。

12月15日、新型コロナウイルスワクチンの接種が開始され、コロナ克服への希望が高まっている。11月9日撮影(2020年 ロイター/Dado Ruvic)

コロナ流行を抑制するには、世界の隅々の人々に対して何十億回分ものワクチンを出荷することが必要になる。戦闘地域やへき地、貧困にあえぐ地域も含まれる。

こうした地域にアクセスすることや、輸送中あるいは到着してからもワクチンを保管するのに適切な低温容器を用意することは、大仕事になる。

英バーミンガム大学で低温物流と経済の関わりを研究するトビー・ピーターズ教授は「これは、だれもやったことがない。全ての子どもにワクチンを接種しようとか、全ての妊婦に接種しようとするのとも全く違う。全人類に接種をしてもらおうということなのだ」「これが実現するまで経済の再開はない」と語る。

発症を防ぐ有効性がこれまでに示されたワクチン3種類のうち、米ファイザーとドイツのビオンテック連合、米モデルナのワクチンはいずれも普通の冷凍庫よりもはるかに低温で保管する必要がある。これは貧困国でのワクチン配布を難しくする。

専門家によれば、これより小規模な接種計画でさえ目標達成には苦労してきた以上、接種計画がかつてない規模になることも「最後の区間」問題を大きくする。

国連が後援する「万人のための持続可能なエネルギー」計画のベン・ハートレー氏が最近、オンラインセミナーで語ったところによると、ワクチン普及のための国際組織GAVIは2000年以降、世界中で7億6000万人を超える子どもたちにワクチンを接種してきた。しかし、新型コロナで集団免疫を達成することは最大55億人への接種を意味する。

ハートレー氏によれば、昨年時点でジフテリア、破傷風、百日咳のワクチン接種率目標90%を達成できていない国は85カ国あった。これがコロナの世界的接種となれば、全ての関係者からの協調行動が必要になるという。

<届かない地域、受けられない地域>

米NPOのネクスリーフ・アナリティクス代表であるシャルザド・ヤバリ氏は、農村部などでの診療所に置くワクチン低温保存装置の温度をモニターする無線システムを手掛ける。同氏はトムソン・ロイター財団に対し、「最後の区間」問題は都市部から遠く離れた地域に限らないと指摘する。「都市部の中にも、あるいは紛争国にもワクチンがきちんと届かず、届いてもきちんと接種されないような地域はある」。これが人口比率で言えば、世界全体の大きな割合を占めているという。

赤十字国際委員会(ICRC)のエスペランサ・マルティネス保健部長によると、武装勢力が支配する地域で生活する人々は少なくとも6000万人おり、これもワクチン接種問題の障害になる。通行許可が必要になることや停電の頻発、電力不足の問題がとりわけ、紛争地域で人々がワクチン接種にアクセスするのを難しくし得るという。

こうした課題に対処するため、研究者らは大規模接種のための安定持続的な低温輸送システムを設計しようとしている。実証試験を試みている場所は、低地にあり洪水などの災害に見舞われやすいバングラデシュだ。

同国は医薬品やワクチンの製造業が発達しているにもかかわらず、全人口1億6000万人の大半が、まともな低温の輸送や施設のない農村部などで暮らしている。

実証実験を策定したバーミンガム大のピーターズ氏によると、計画の最初の草案は来年初めに準備ができる見込みで、研究成果は他の中低所得国でも用いる可能性がある。

計画のパートナーであるバングラデシュ工科大学のイジャズ・ホッサイン工学部長がトムソン・ロイター財団に語ったところによると、さまざまな町の低温装置やバックアップ用発電機、医療支援業務などから大量のデータを集め、情報をコンピューター解析し、できるだけ早くワクチンを配布するために最良の方法を決定する。

同氏によると、低温装置の改良が必要になった場合、ディーゼル発電機の使用を迫られれば、それは地球温暖化ガスの排出量増大を意味する。そうした場合には、低温装置に再生可能エネルギーが使えないか研究しようとしているという。

ピーターズ氏は、コロナワクチンの大規模接種が将来のほかのパンデミックに対応できる、環境にやさしい低温システムを開発する機会になり得ると話す。これらの技術は食品の無駄などを低減するのにも役立つとみている。

<不正や汚職のリスク>

しかし、研究者によると、低温物流網を維持することだけがコロナ克服の課題ではない。米デューク大学グローバル・ヘルス研究所のアンドレア・テイラー副所長によると、ウイルスは変異するものであり、世界のどこかで新型コロナの流行が拡大しているうちは、コロナウイルスも変異し得る。つまり、用意していたワクチンが不適切なものになりかねないという。

テイラー氏が指摘するのは、米ノースイースタン大学の研究報告だ。富裕国と貧困国とでワクチン配布が不平等になると、結果的に世界全体のコロナ死者は2倍になる恐れがあるというのだ。

同氏によると、だれがいつ接種を受けたかを監視する追跡システムと専門のスタッフが、ワクチンに絡む不正や汚職のリスクを減らす上で必要になる。

低所得国では政府が必要なワクチンを確保するために闇市場に手を出す恐れがあり、偽物や、厳しい透明性のある検査や検討を経ていないワクチンを購入してしまいかねない。だれにも無料で接種されることが意図されていても、現場の医療従事者などがワクチンを占有してしまい、人々に接種代を要求し始めることをこうした国の政府は、極めて懸念しているという。

テイラー氏は、ワクチン忌避と医療当局への不信という2つの重大な課題も挙げる。紛争地域では、特にこうした点が問題になる。

ワクチン忌避問題は近年拡大しており、今回は新型コロナのワクチン開発にかける時間が通例より極めて短かったことも不安感を引き起こしている。

論調査会社・JLパートナーズが英国で11月実施した調査では、7%がコロナワクチン接種を「絶対に受けない」、11%が「たぶん受けない」と回答した。

赤十字のマルティネス氏によると、紛争や暴力行為が発生している地域ではワクチン接種計画に参加する医療従事者の安全を確保することも不可欠だ。2014─16年にギニアでエボラ出血熱が猛威を振るった際には、こうした医療従事者が、怒った群衆や村人から襲撃される事件が相次ぎ、人々が接種に応じる上で甚大な影響が出たという。

ネクスリーフのヤバリ氏は、必要なのが特殊な装置であれ、ワクチン接種の明確な指針や手順であれ、問題の解決は長期的でなければならず、多方面の協力や関与も必要と述べた。

テイラー氏は、新型コロナワクチンのかつてない規模の世界的な接種がうまく行けば、その恩恵は今回のコロナ感染制圧にとどまらないかもしれないと語る。「多くの国でワクチン接種計画が強力で良いものになるだけでなく、医療インフラそのものが「最後の区間」で改善されることになる」と述べた。

(Thin Lei Win, Naimul Karim記者)

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