for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up

アングル:次のWTO事務局長、保護主義台頭で求められる胆力

[ジュネーブ/ブリュッセル 21日 ロイター] - 世界貿易機関(WTO)は、新型コロナウイルスの世界的大流行、急激な景気後退、米中関係緊迫化、さらには保護主義台頭を背景に新しいリーダーを選ばなければならない。よほどひるまない人だけが、任用されるべきだ。

ブラジル出身のアゼベド事務局長が今年8月末で辞任するとの先週の表明は、加盟する164カ国・地域を驚かせた。写真はスイスのジュネーブにあるWTO本部。2019年12月撮影(2020年 ロイター/Denis Balibouse)

ブラジル出身のアゼベド事務局長が今年8月末で辞任するとの先週の表明は、加盟する164カ国・地域を驚かせた。想定されていたより1年早い退任で、グローバル化への逆風の中で国際機関が直面する混乱がまたひとつ増えた形になった。

WTOは新事務局長をアゼベド氏退任までに、あるいは少なくとも今年末までに見つける必要がある。今年末は、2年に1回開かれるWTO閣僚会議の来年開催を控え、一連の懸案事項を巡ってフル回転しなければいけなくなる時期だ。

事務局長の選定は、何年も主要な国際協調が実現できていないWTOにとって至難の業だ。事務局長は加盟国・地域の合意で決めなければならないからだ。

WTOは加盟国・地域が主導することになっている組織だが、強力でカリスマ性のあるリーダーは不可欠だ。新型コロナ危機で経済がほぼ100年ぶりの大幅な悪化に直面し、米中の緊張が再燃している状況ではなおさらだ。

ホーガン・ロベルズのパートナーで、アゼベド氏の事務局長選出時に米通商代表部(USTR)で働いていたケリー・アン・ショー氏は「過去に経験したことのないような時期にあって、WTOが世界経済の立て直しに何らかの重大な役割を担うつもりなら、新たな戦略が必要になる」と指摘。「WTOに必要なのはまさに改革者だ」と述べた。

新型コロナが流行して以来、世界で100以上の通商障壁の措置が打ち立てられている。一部の国はサプライチェーンで他国に、とりわけ中国に依存することを問題視するようになっている。トランプ米大統領はWTOと世界保健機関(WHO)批判を強めており、いずれも中国寄りだと非難。WTOについては先週、「ひどい」と言い放った。

米国と中国は今年1月に通商交渉の第1段階の合意に達したが、その後は不和が再燃。米国は中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)への半導体製品の輸出禁止措置を強化している。

米国は既に昨年12月、WTOの紛争仲介能力をまひさせた。紛争処理の常設上訴機関である上級委員会の欠員補充を阻止したのだ。

WTOのキース・ロックウェル報道官は、事務局長の役割は「最も困難できつい仕事のひとつ」で、片付けなければならない課題の書類の束は「気が遠くなるほどだ」と認めた。ただ、選定には明確な手続きを踏むし、傑出した何人かの候補者が得られ、選出はスムーズに行くと述べて見せた。

<アフリカから選出も>

歴代6人の事務局長のうち3人は欧州出身で、あとはタイ、ブラジル、ニュージーランドからだった。アナリストによると、次期トップはアフリカから選ぶことを求める圧力がある。

元米商務省職員で現在は戦略国際問題研究所(CSIS)に籍を置くビル・ラインシュ氏によると、アフリカ勢で下馬評に挙がっているのはエジプト、ナイジェリア、ベナン、ケニアの4人。いずれもWTOや国連関連の職務経験があるか、現職の人物だ。ラインシュ氏は「問題は、アフリカ勢が絡むといつもそうなのだが、彼らが1人の候補者で最終的にまとまれるかどうかにある」と話している。

過去の事務局長選定は、候補者を吟味するための公開イベントや加盟国訪問が用意され、一部の元職員に言わせれば、いわば「美人コンテスト」のような過程を経て進められた。しかし、新型コロナはそうした対人の会合を困難にしている。先月行われたWTOのオンライン会議は、画面が固まったり音声が不明瞭になったりと不具合をさらけ出した。

国連など他の国際機関は書面での投票方式に切り替えているが、WTO加盟国は、正式決定事項はオンラインでも書面でも行うべきではないとの結論を出し、既にお手上げ状態だ。

<弱肉強食の世界>

候補者の正式な指名はまだ始まっていないが、WTOは1999年にニュージーランドとタイの候補者間で票が真っ二つに割れたときのような事態の繰り返しは避けたいだろう。

シンクタンクのセンター・フォー・インターナショナル・ガバナンス・イノベーションのロイントン・メドーラ氏によると、米政府と中国政府がそれぞれ候補者を立てたり、選定過程で顕著な役割を果たそうとしたりすれば、「とんでもない衝突」が起きる。

中国の外務省報道官は、同国は新事務局長を探す専門部局に任せるつもりだとした上で、円滑なバトンタッチを確かにするために同国として「密接な意思疎通と協調を続ける」用意があると述べた。

対立は米中間だけではない。欧州は、トランプ大統領が「国家安全保障」を根拠に導入した鉄鋼とアルミニウムの輸入関税に異議を申し立てている。「安全保障」は日本が韓国向けの半導体材料輸出を制限した際にも、ロシアとウクライナの通商紛争でも、カタールがバーレーンやサウジアラビアを相手取ってWTOに持ち込んだ案件でも、それぞれで持ち出された。

メキシコの元WTO大使のロベルト・サパタ氏は「弱肉強食の世界に戻ってしまったように見える」と嘆く。「加盟国はWTOを現在の困難に立ち向かうのにふさわしいものにする必要がある。それができなければ、WTOはおよびでないと見下される恐れがある」と語った。

for-phone-onlyfor-tablet-portrait-upfor-tablet-landscape-upfor-desktop-upfor-wide-desktop-up