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アングル:次のパンデミックを防げ、スイスでWHOの計画始動

[シュピーツ(スイス) 31日 ロイター] - そこはまるでスパイ映画の舞台のようだ。透き通る湖、雪を頂くスイスアルプスの峰々――。そんな場所に建つセキュリティー完備の施設が、世界最悪の病原体の研究を進めている。

 7月31日、そこはまるでスパイ映画の舞台のようだ。透き通る湖、雪を頂くスイスアルプスの峰々――。そんな場所に建つセキュリティー完備の施設が、世界最悪の病原体の研究を進めている。写真はスイス・スピーツのシュピーツ研究所で6月1日撮影、提供写真(2022年 ロイター/Andrea Campiche/Spiez Laboratory)

ここは第二次世界大戦以来、化学、生物、核兵器の脅威を調査してきたことで知られるシュピーツ研究所だ。世界保健機関(WHO)は今、次のパンデミックを引き起こしかねない新たな病原体を培養、保管、共有するため、世界各地のセキュリティー完備の研究所を結ぶ「バイオハブ」計画に取り組んでいる。シュピーツ研究所は昨年、その最初の拠点に選ばれた。

中国で最初に発見された新型コロナウイルスを巡っては、世界各国の研究者らがサンプルを入手する上で壁にぶつかった。バイオハブ計画は、そうした不満を一つのきっかけとして誕生した。

しかし計画は発足からわずか1年でハードルに直面している。

第一に、新型コロナ変異株のサンプルを海外に送付するに当たって、複数の国では当局の保証を得るのに苦労する。世界最大級の国の一部から協力を得られない恐れがある。そして知的財産保護に抵触せずにサンプルを共有するための仕組みも確立していない。

シュピーツ研究所でバイオハブ計画の責任者を務めるイザベル・ハンガーグレーザー氏はロイターのインタビューに答え、「新型コロナウイルスのようなパンデミックが再来した時、それ以上拡大しないようにするのが目標だ」と話した。そのためにはハブにサンプルを集めて世界中の科学者がアクセスできるようにする必要があるが、思ったより「ずっと難しいことが分かってきた」という。

同氏がメディアのインタビューに答えるのは珍しい。

<厳重な安全管理>

シュピーツ研究所が重大な任務に取り組んでいることは、その外見からはうかがい知れない。角張ったビルは、1970年代に建てられた欧州の大学によくある建築様式だ。時には中庭で牛が草を食べていることもある。

しかし病原体等安全対策検査官の部屋はブラインドが下ろされており、数秒以上ドアが開くと警報が鳴り響く。検査官は、病原体の危険度を示す「バイオセーフティーレベル(BSL)」が最高レベル「4」の研究室に設置されたセキュリティーカメラの画像を複数モニターしている。

新型コロナウイルスの研究が行われているのは、リスクが最高から2番目の「BSL―3」の研究室。ハンガーグレーザー氏によると、バイオハブではウイルスのサンプルが鍵のかかった冷凍庫に保管されている。

病原体の研究に携わる科学者らは防護服を着ており、時には自給式呼吸器を装着して密封式の格納室に入った病原体のサンプルを扱う。研究室から出る廃棄物は、病原体を殺すために最高摂氏1000度に熱される。

チームによると、シュピーツ研究所はこれまで病原体の外部流出事故を起こしたことがない。WHOからバイオハブの最初の拠点に選ばれた最大の理由は、その信頼感にあるとハンガーグレーザー氏は言う。

WHO本部があるジュネーブからの移動距離2時間という立地も幸いした。WHOとスイス政府はプロジェクトの第1フェーズに年間60万スイスフラン(62万6000ドル、約8300万円)の資金を拠出している。

世界の科学者らはこれまでも常に病原体を共有してきたし、既存のネットワークや地域ごとの保管施設もある。しかしその取り組みは行き当たりばったりで、往々にしてスピードが遅い。

先進国と発展途上国の科学者の間で、サンプルの共有が進まないという問題もあった。

新型コロナウイルスの場合、中国の科学者は遺伝子配列をオンラインに素早くアップしたが、生きたサンプルが先進国に届くのには時間がかかった。新種のウイルスの感染の仕方や、既存薬等への反応を解明するには生きたサンプルが必要だと科学者らは言う。

<課題に直面>

バイオハブに最初に新型コロナのサンプルを届けたのはルクセンブルクで、南アフリカと英国がこれに続いた。

しかしペルー、エルサルバドル、タイ、エジプトの4カ国は、国内で発見した変異株を送付する意向を今年初頭に示していたにもかかわらず、まだ国内で承認を待っている状態だ。ハンガーグレーザー氏によると、これは各々の国で、どの当局者が送付のための法的保証を出すのか明確でないことが主な原因となっている。

安全面の詳細や使用許可を記した書類にだれが署名するかについて、国際的な規定は存在しないとハンガーグレーザー氏は説明した。4カ国はコメントを控えた。

もう一つの課題は、ワクチン開発など商業的利益をもたらし得るサンプルの共有方法だ。バイオハブのサンプルには無料で幅広くアクセスできる。しかし、例えば製薬会社が研究の成果を利用して利益を上げながら、研究者には対価が支払われないといった場合には問題が起こりかねない。

またオランダのエラスムス大学医療センター・ウイルス科学部の責任者、マリオン・クープマンズ氏は、最近の感染爆発に際しての態度を見る限り、「中国、インドネシア、ブラジルなど、一部の国々はウイルスを決して送らない、あるいは送るのが極めて難しいだろう」と指摘する。

しかしハンガーグレーザー氏は、「本当の緊急事態であれば、WHOは飛行機を手配してでも」ウイルスを科学者に輸送すべきだと指摘。「拡散を阻止できるのなら、そうする価値がある」と力説した。

(Jennifer Rigby記者)

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